新型コロナウイルス感染症から回復した人の「血しょう」が治療薬として有望視されている
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界的に流行が拡大しており、全世界での死者数は2020年3月31日時点で4万2000人を超えました。そんなCOVID-19の治療薬として、新型コロナウイルス感染症から回復した人の血漿に注目が集まっています。
Treatment of 5 Critically Ill Patients With COVID-19 With Convalescent Plasma | Critical Care Medicine | JAMA | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2763983
Coronavirus survivors’ blood plasma could be used to fight infection | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2020/mar/29/coronavirus-survivors-blood-plasma-could-be-used-to-fight-infection
人体は免疫系から「抗体」を産生して、ウイルスを退治することができます。病気から回復した人の血漿は抗体を多数含むことから、「回復期血漿」と呼ばれています。回復期血漿を投与するという治療法は古くから知られており、1918年に流行したスペインかぜや、エボラ出血熱にも回復期血漿を用いた治療が試みられてきました。
記事作成時点でCOVID-19の治療薬は存在していませんが、COVID-19を完治させた人はいます。中国の国立ワクチン技術研究所の研究チームは2020年3月27日、「新型コロナウイルスに感染して、重度の呼吸不全を起こしている急性呼吸逼迫症候群(ARDS)の重篤患者5人に回復期血漿を投与したところ、病状が改善した」という論文を発表しました。
被験者となった重篤患者5人はいずれも人工呼吸器が必要な状態でしたが、投与後3日以内に5人中4人の体温が正常化し、12日以内にウイルス反応が陰性になったとのこと。さらに、3人は投与から2週間以内に人工呼吸器が不要となり、入院後51~55日で退院しました。残る2人は入院が続いているものの、投与から37日後に病状が安定化したそうです。
イギリス・グラスゴー大学の研究チームは、COVID-19を回復した人の中でも、普通の人よりも抗体を多く持つ「Hyperimmune」という体質の人に着目。Hyperimmuneの人の回復期血漿を治療薬として使うという臨床試験の許可を国立衛生研究所に申請しました。研究チームのデイヴィッド・タッピン教授は「COVID-19を未然に防ぐワクチンのように機能する可能性はありますが、人工呼吸器が必要な重篤患者には効果が期待できないだろうと考えています。しかし、いずれにせよ治験を行わなければ、この治療法が効果があるのかは判定できません」と説明しました。
イギリスの医学アカデミーの会長であり、ロンドン市内で3つの病院を運営するKing’s Health Partnersの常任理事を務めるロバート・レヒラー教授も「回復期血漿の並行試験を予定している」とイギリス大手紙のガーディアンに対してコメントしました。また、イギリスの国立血液サービスの広報担当者は、「回復期血漿のドナーになりうる人物を特定する作業をすでに開始しています」と語りました。
同様の取り組みはアメリカでも進んでおり、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ州知事は2020年3月20日に回復期血漿を用いた治療法の試験を行うと発表しています。
「新型コロナウイルス感染症から回復した人の血液」を使った治療法の臨床試験がニューヨークで実施予定 - GIGAZINE
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