サイエンス

新型コロナウイルスの流行状況を遺伝子配列データをもとに分析したNextstrainのレポートの日本語版が登場


世界各地の研究機関から提供された「患者から採取したウイルスの遺伝子配列データ」をベースに、ウイルスの感染拡大の様子を世界地図や系統樹を用いて描き出し、詳細な状況レポートを公開しているオープンソースのプロジェクトが「Nextstrain」です。このNextstrainが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関する状況レポートの日本語版を公開しました。

最新の#COVID19 #SARSCoV2 #HCoV19 状況レポートが日本語で利用可能になりました。 今週は、地域ごとにデータを分類しました。 翻訳してくれTakeshiSato、@tommy_nezy@fengjun_zhang に感謝します。https://t.co/E0gXp9vVrO

The latest situation report is now available in Japanese. pic.twitter.com/fWppSk4PE9

— Nextstrain (@nextstrain)


Nextstrainの共同設立者であり、フレッドハッチンソンがん研究センターで働く計算生物学者でもあるトレバー・ベッドフォード氏によると、Nextstrainは記事作成時点で新型コロナウイルスの遺伝子配列データを2000種類以上提供されており、これらを分析することでウイルスがどこから来たのかを正確にたどることができるとナショナルジオグラフィックに語っています。

ベッドフォード氏によると、2014年に西アフリカでエボラ出血熱が流行した際には、ウイルスのサンプルを採取してからゲノムの塩基配列を特定し、データを公開するまで1年の時間がかかったそうです。しかし、現在は多くの研究機関がサンプルを提供してくれるようになったため、わずか2~7日程度で同じ工程を行うことが可能になっており、その影響でNextstrainが公開する状況レポートをリアルタイムでアウトブレイク対策に生かせるようになっています。

そんなNextstrainが公開している新型コロナウイルスの状況レポートの日本語版が以下です。なお、以下は記事作成時点での最新版となるのは2020年3月27日に公開されたレポートの日本語版ですが、3月20日にも日本語版レポートが公開されています。

Nextstrain / narratives / ncov / sit-rep / ja / 2020-03-27
https://nextstrain.org/narratives/ncov/sit-rep/ja/2020-03-27


ナショナルジオグラフィックのインタビューに答えたベッドフォード氏は2000種類の遺伝子配列データを分析したとしていますが、3月27日のレポートでは「公に共有されている1495種のゲノムを分析しました」と書かれています。これらはあくまでも新型コロナウイルスの変異であり、その経路をたどることで、ウイルスの感染源などを特定することが可能です。なお、Nextstrainによると6大陸48カ国で採取されたウイルスの遺伝子配列データを分析しており、レポートについて「世界中の科学者や医師による信じられないような作業とタイムリーなデータの共有があって初めて可能になりました」と説明しています。

以下は世界地図上に各国から提供された新型コロナウイルスのサンプルデータの数を視覚的に示したものです。Nextstrainは「南半球ではまだ新型コロナウイルスが流行していない」「入手可能なデータが少ない」として、南半球からのデータが少ないとしています。なお、日本からのデータ提供も少なめ。


以下はヨーロッパから提供された新型コロナウイルスの遺伝子配列データを系統樹(左)と地図(右)に示したもの。系統樹は各円がそれぞれ変異したウイルスを表しており、横軸がウイルスゲノムの差異(時間または遺伝的相違)の程度を示しており、縦軸はありません。


系統樹はヨーロッパで採取されたウイルスのゲノムサンプルを国別で色分けして示しています。注目すべきは、国別の小さなクラスターがいくつか見られる中、さまざまな国で採取されたサンプルが複雑に混ざり合っているという点。これについてNextstrainは「ヨーロッパでは直近3~5週間の間に、国境を超えて持続的な拡散があったことを示唆しています」と記しています。

アメリカ国内での感染の拡散パターンは非常に複雑です。例えばコネチカット州の場合、最新のサンプルはワシントン州から拡散していったものが多いものの、同時に複数のクラスターからのものが混在しています。Nextstrainは「確かな結論を導くにはより多くのデータが必要ですが、アメリカ国内のかなり距離が離れた場所にまで感染が広まっていることを示唆しています」「アメリカ国内で起きている拡散のパターンは、現在入手できるデータが示しているよりはるかに複雑であることを強調しています。追加のデータがあればアメリカ国内での感染拡大がどのように発生しているかを理解するのに役立ちます」と記しています。


ワシントン州には少なくとも2つの個別の局所的な感染クラスターが存在しており、2つはそれぞれ由来が異なることがわかります。1つは中国由来のもので、もう1つはヨーロッパ由来のものだそうです。

中南米の場合、新型コロナウイルスのサンプルデータはそれほど多くありません。中南米での発症例のほとんどが渡航者から採取したサンプルです。系統樹がカラフルであることからもわかる通り、さまざまな国からやってきた旅行者が旅行先の中南米で新型コロナウイルス感染症を発症しているというわけです。なお、中南米でも渡航者とは関係のない症例が報告され始めているそうですが、サンプルが少なく、まだ詳細な状況を報告できる段階にないとのこと。


アジアの事例では、イランからのウイルスサンプルは記事作成時点では採取できていないそうです。ただし、イランへの渡航が報告されている症例から採取した遺伝子配列データは存在する模様なので、イランへの渡航歴がある症例から採取されたウイルスの遺伝子配列はグループ化することが可能です。これは多くのイランの症例が一度のウイルスの伝搬が元となっていることを示唆しています。


アフリカではコンゴ共和国の首都キンシャサで新型コロナウイルスの新しい変異が発見されており、これは複雑な伝播経路をたどってきたことが示唆されています。


オセアニア大陸の場合、オーストラリアのニューサウスウェールズ州で局所的に新型コロナウイルスが拡散しており、遅くとも2020年2月末には同地域でウイルスがまん延していた可能性があるとのこと。


Nextstrainは行政機関ができることとして「検査を広く、無料で行えるようにすること」「社会的な距離を置くための措置をより強力にすること」「広範囲な接触追跡作業に資金提供すること」「社会的距離に関する措置の影響を受ける人を、経済的に支援すること」の4つを挙げています。また、個人が実施すべきこととしては、「感染の影響を受けやすい集団は、社会的な距離を置くことを厳格に実施すること」「自分自身が脆弱でないとしても、自分の周囲の人々が脆弱である可能性を認識し、他人を守るために移動制限などの慣行に従うこと」「体調が悪い場合、できるだけ家にいて、自主隔離を実施すること」「雇用主である場合は、従業員が病気になった際には自宅待機を許可すること」が挙げられています。

なお、日本からのデータ提供がさらに増えれば、より正確に現状を把握して将来的な予想が可能になります。また、系統樹で新型コロナウイルスの感染経路を可視化することで、対策の目処が立つようになるはずです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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