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新型コロナウイルス対策は「1日の決断遅れ」が致命的になる可能性がある、グラフで今後の予測をするとこんな感じ


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については毎日情報が更新されていますが、時間がたってみないと正しく状況を把握することは難しいもの。実際に、中国・湖北省の感染者数は「発生当時に当局が発表していたデータ」と「後から振り返ってわかる本当の数字」がかなりかけ離れたものとなっていました。ジャーナリストのTomas Pueyoさんが、これまでの科学データからCOVID-19の感染状況を分析・グラフ化し、今後各国に起こりうる未来を予測しています。

Coronavirus: Why You Must Act Now - Tomas Pueyo - Medium
https://medium.com/@tomaspueyo/coronavirus-act-today-or-people-will-die-f4d3d9cd99ca

◆「公式が報告した感染者数」と「実際の感染者数」は違う
Pueyoさんが中国の国立感染症対策センターの症例データに基づく2月24日付のジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JMMA)の報告を元に作成したグラフがこれ。オレンジ色のグラフは湖北省が公式に報告した1日あたりの感染者数で、灰色のグラフが実際の感染者数です。2つにずれがあるのは、国立感染症対策センターが診断が下された人に「いつから症状があったのか?」を尋ねて感染が起こったタイミングを確認したため。2つのグラフを見ると、武漢が閉鎖されたとき、公式が報告した感染者数は1日400人でしたが、実際には既に1日2500人の感染者がいたことがわかります。


武漢閉鎖の翌日にあたる1月24日、ほかの湖北省の15都市も閉鎖されました。灰色のグラフはここをターニングポイントとして、実際の感染者数は減少傾向になっていますが、それまでは指数関数的に増加していました。一方でオレンジ色のグラフは指数関数的に増加しています。これは一見すると感染が爆発的に増えているように見えますが、そうではなく、もともと感染していた人の症状が悪化して医師を訪れるケースが増加したことを意味しています。また、感染者を検出するシステムが強化されたことも関係しています。

中国の湖北省以外の地域をみてみると、武漢の流行を受けて政府が抜本的な対策をとったため、グラフは緩やかな曲線を描いています。


新型コロナウイルスの感染者数は指数関数的に増えているという指摘がありますが、Pueyoさんがジョンズホプキンズ大学科学技術センターのデータで確認したところ、湖北省以外に指数関数的な増加をたどっているのは、主に西欧諸国であるとのこと。この理由についてPueyoさんは、2003年のSARS流行で日本・シンガポール・台湾・タイ・香港などは学びを得ていたからだと考えています。これらの国のグラフは早い段階で成長しているものの、爆発的な増加はみせていません。


ただし韓国については例外です。韓国では1月20日に35歳の中国人女性が隔離処置されたことで、初の感染者が確認されました。それ以降の4週間では30人が感染し、状況は比較的ゆるやかだったのですが、「31人目の感染者」がスーパースプレッダーだったことで状況が変化。そこからアウトブレイクが始まったとみられています。

西欧諸国のうち、Pueyoさんが「アメリカの武漢」と呼んでいるのがワシントン州。コロナウイルスの致命率は0.5~5%の間だといわれていますが、ワシントン州では33%に上っています。これは、感染してから何週間も経過し、症状が深刻化したのちに検査を行った人が多くいるため、新型コロナウイルス感染症と診断された3人に1人が死亡しているためだと考えられています。


これまでのデータから感染者が死に至るまでの期間の平均は17.3日だとされています。ワシントン州では2月29日に死者が出たので、この感染は2月12日前後に起こったとみられます。致命率を1%だと仮定すると、2月12日時点の感染者は100人ほど。新型コロナウイルスの倍加時間は平均6.2日とされているため、17日が経過した時点での感染者数は、100に2の17/6乗をかけて求めることになります。この結果、2月29日時点の感染者数は700~800人と求められます。

3月10日時点でワシントン州では22人が死亡しており、計算によると、感染者数は1万6000人になるとのこと。ただし、ワシントン州での死者のうち19人は1つのクラスターによるものでした。ウイルスが広く拡散されているわけではないことを鑑み、この19人の症例を1つの症例とみなすと、感染者は3000人未満になるとPueyoさん。また別のアプローチとして、ウイルス自体とその変異に着目した科学者の計算では、ワシントン州の感染者は3月10日時点で1100人と結論付けています。

An update about what we're able to infer about the Washington State #COVID19 outbreak from screening and viral sequencing by @UWVirology and @seattleflustudy. 1/12

— Trevor Bedford (@trvrb)


もちろん、いずれのアプローチも完璧ではありませんが、「共通するのは、実際の症例数は公式の数よりもはるかに多いことだ」とPueyoさんは述べています。

もういちど冒頭のグラフに戻ると、オレンジのグラフで1月22日までの感染者総数は444人ですが、灰色のグラフの総数は約1万2000人となり、現実には公式の発表の27倍もの数の感染者がいたことが示されています。これまでのアプローチから考えると、たとえば1400人の感染者が報告されているフランスでは、2万4000人から14万人の感染者がいると推測されます。


◆なぜ致命率に違いがみられるのか?
WHOは新型コロナウイルスの致命率を3.4%としていますが、3.4%という数字は状況によって変化するという点に注意が必要。各国の致命率をみてみると、韓国の0.6%からイランの4.4%まで、大きく差があります。

致命率の求め方は「死亡数/感染者数」と「死亡数/解決ずみ症例数」の2パターンがあり、前者は比較的楽観的な数字となりますが、回復者よりも死者の方が先に解決済み症例と扱われることから、後者は悲観的な数字になる傾向があります。全ての症例が解決すれば両者の数はおのずと同じになります。そこで、Pueyoさんが湖北省の致命率の変遷グラフをみてみたところ、致命率はだいたい4.8%に落ち着くという予測となりました。以下は縦軸が致命率、横軸が月日で、オレンジ色が「死亡数/解決ずみ症例数」、赤色が「死亡数/感染者数」となっています。


一方、中国の湖北省以外の地域では、致命率が0.9%ほどに収束する見込みです。


他の国についてもみてみると、イランやイタリアは3~4%あたりに収束する見込み。一方で韓国は「死亡数/解決ずみ症例数」が48%、「死亡数/感染者数」が0.6%と、2つの数字が大きく開いています。これは韓国が検査範囲を広め多くの人を検査していることと、回復例よりも死亡例の方が早く決着がつくことが関係しています。ただグラフを見ると「死亡数/感染者数」の致命率は一貫して0.5%前後にとどまっており、最終的にはこの数字で落ち着くものとみられています。


ここからいえることは、準備が整っている国は致命率を0.5%~0.9%にとどまらせることができるものの、準備が整っていない国では致命率が3%~5%に跳ね上がるということです。

◆どのような対策が結果を左右するのか
COVID-19は症例の20%が入院を必要とし、5%は集中治療室(ICU)に入る必要があり、1%は人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)による集中した処置を行わなければなりません。突然10万人が感染したと仮定すると、そのうち入院が必要なのは2万人で、5000人がICUを必要とし、1000人が人工呼吸器とECMOの治療を求めることになります。しかし、ECMOはアメリカに250台しかなく、人工呼吸器も簡単に手に入れられるアイテムではありません。

日本やシンガポール、香港、中国の湖北省以外の地域では患者が求めるケアが与えられていますが、西欧諸国ではそうではないとPueyoさんは指摘しています。特にイタリアは武漢のケースと非常に似ており、患者が病院に殺到し、処置室以外に待合室などでも処置が行われました。この結果、医療従事者は疲労しウイルスに感染しますが、14日の隔離を受けることができず、最悪の場合は死に至るとのこと。Pueyoさんは、これが致命率を0.5%ではなく4%に挙げる一因だと述べています。


一方で、COVID-19に対して非常にうまく対策を打ち出していると言われるのが台湾です。台湾は封じ込めに焦点を合わせて早期の対策をとった結果、3月10日時点で50件しか症例が報告されていません。台湾では、武漢当局が原因不明の感染症発生を認めた2019年12月31日に武漢からの直行便に対して検疫を開始。税関などとビッグデータを結び付けた分析を実施し、旅行者の渡航歴や臨床症状から警戒レベルを判断して、即座に感染者を探し出せる仕組みを作りました

Response to COVID-19 in Taiwan: Big Data Analytics, New Technology, and Proactive Testing | Global Health | JAMA | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2762689


台湾は現在、封じ込めから緩和のフェーズに移っているとのこと。感染を可能な限り減らし医療システムが余裕を持って症例を扱えるようになると、当然ながら致命率が低下します。これにより感染のピークを遅らせ、ワクチンが開発されるまでの時間かせぎをすれば、リスクを排除可能になるとのこと。時間をかせげばかせぐほど、医療システムは向上し、致命率が減少し、ワクチンを接種する人の数を増やせるわけです。

◆決断が1日遅れるとどうなるのか?
Pueyoさんは政治家に対し封鎖を命じること、企業のリーダーに対しては自宅勤務や出張の制限などを指示することで、人々の「社会的距離」をあけることを提言しています。Pueyoさんは武漢などのデータから、社会的距離政策が1日遅れることの影響をグラフ化しており、指数関数的に成長するグラフにおいて「決断が1日遅れること」のリスクを示唆。このグラフでは1日決断が遅れるだけで最終的な感染症例数が40%増加することが示されています。感染症例数が増加することは致命率がさらに高まること、医療システムの崩壊リスクが高くなることを意味しており、これらが合わさると1日の遅れで相当数の死者が出ることがわかるとPueyoさんは述べています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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