サイエンス

低カロリーのダイエット食でも満足感をアップさせるために3Dプリンターが活躍する


健康的にスリムな体を手に入れるためには、しっかり食事をとりつつカロリーを計算するのが大切です。しかし、低カロリーのメニューは物足りなさを感じることも多く、ストレスで逆に悪影響があったり、ついついハイカロリーなメニューに手を伸ばしてしまったり、という経験がある人も多いはず。マサチューセッツ工科大学(MIT)と大阪大学の共同研究で行われた「FoodFab」という技術研究は、3Dプリンターで食品を印刷するという技術を利用して、同じカロリーで食後の満足感を増やしたり減らしたりといったことを試みることで、ダイエットや健康食の革命を目指しています。

FoodFab: Creating Food Perception Illusions using Food 3D Printing
https://hcie.csail.mit.edu/research/foodfab/foodfab.html

3Dプリンターはプラスチックや樹脂、金属粉末などを使用して立体物を印刷する領域から、食品材料を使用して印刷を行い「食べられる立体物」を作成する段階に進んでいます。新しいタイプのクリエイティブなメニューを作成する高級レストランや、高齢者向けの柔らかいマッシュドフードを魅力的なフォルムに形成する試みがある中で、肥満やその他の食事関連障害に関する世界的な課題を解決するために注目が集まっています。

by Osamu Iwasaki

食事×3Dの分野は、盛り付け方やお皿のセッティングなど視覚的部分だけではなく、かみ応えや舌触りなどの知覚的部分でも満足感の変化を与えられるか調査が進められています。技術分野でも、拡張現実(AR)で食品を違う見え方に変化させるアプローチが成果を上げているものの、変化させる前の元の食材を見ないようにしなければならず、またユーザーがハードウェアを準備するのは難しいなど課題も残されていました。そのぶん、3Dプリンターでは完成された食品を提供するだけで解決することができます。

実験では、フード3Dプリンターによってさまざまな内部構造の食品(クッキー)を作成し、30人の参加者に筋電図センサーと自己報告アンケートによるテストが行われました。クッキーを使用したのは、クッキー(画像a)のほかアボカドのピューレ(画像b)、豚肉のピューレ(画像c)、ガナッシュ(画像d)などで試したところ、食品3Dプリントの研究に必要な「室温で頑丈な構造を形成する」「火を通すなどして形や大きさが維持されること」という要素を最も満たしていたからだそうです。


実験ではまず、参加者の感覚的な満足度を測るためにアンケートを記入してもらい、その後セッションごとに特定のタイプのクッキーを好きなだけ食べるよう求められました。食欲に喉の渇き具合が影響しないようにクッキータイムは水の摂取が許可されなかったほか、一度満腹になった影響が出ないように各セッションは別の日に行われています。


まずは、大きさが同じで内部構造が異なる3種類のクッキーを食べ比べ、それぞれの内部構造によるそしゃく時間の違い、またそれに伴う満足度の変化が計測されました。画像左は円形を敷き詰めたような「ハニカム型」、真ん中はぐにゃりと曲がった幾何学的な「ヒルベルト型」、画像右は格子状の「直線型」。構造は異なりますがサイズはほぼ同じで、使われている材料も同じ量に設定されています。


クッキーをそしゃくする時間を計測した結果、ハニカム型のクッキーは最も長く平均で84.2秒、ヒルベルト型は平均72.2秒、直線型は平均61.6秒と差ができ、参加者全員が提供された10個全てのクッキーを完食しました。

また、アンケートにより「どれくらい満腹になったか」という参加者の評価を尋ねると、ハニカム型のクッキーを食べたときに満腹感は平均で21.30%増加したという回答が得られました。また、ヒルベルト型は19.51%増、直線型は17.13%増と、満腹感の増加は内部構造によるそしゃく時間の変化に比例していたそうです。

2番目の実験では、ハニカム型のクッキーを基準に、内部構造の密度を変化させ見た目上のサイズが異なるクッキーの食べ比べがテストされました。使われている材料は同じ分量ですが、画像左は内部構造の密度を70%のクッキー(密度大)、真ん中は55%(密度中)、右は39%(密度小)と変化させることで、見た目の大きさが変わるようにしています。


それぞれのクッキーのそしゃく時間は、密度大のクッキーが45.30秒、密度中が36.35秒、密度小のクッキーが26.0秒と、サイズが小さくても密度が大きいものほどモグモグかむ時間が長くなっています。また満足感についても、密度大が満腹感が平均43.8%増加、密度中が38%増、密度小が31.75%増と、同じような結果が示されました。

これらの実験により、食品3Dプリンターを用いてメニューの内部構造や内部密度を変更することで、そしゃく時間を変更するとともに、それに伴う満腹感を操作できると結論付けられています。ここからMITの論文では、3Dプリンターのプラグインとして食品や摂取カロリーなどを入力するだけで、3D印刷のパラメーターを自動決定してくれるユーザーインターフェースも提案しています。


このテストはクッキーでのみ行われたものであるため、結果データは同じような構造の食品でしか適用できません。また、構造の違いは複数のパターンを見て行われたものの、それぞれを数値化して構造のどのような部分がそしゃく時間にどう影響したのか、というポイントを発見できたものではなく、カロリーに応じて「最も適切な構造」というものの創出は難しいなど、課題も多く残されています。

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in サイエンス,   , Posted by log1e_dh

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