急に時間や場所がわからなくなり認知力が低下する「せん妄」は驚くほどに身近、予防するにはどうすればいいのか?
意識混濁や強迫的な思考・幻想・錯覚がみられる状態「せん妄」は、実は65歳以上の手術患者の50%が経験する症状といわれています。近年は高齢者の外科手術が増加しておりより身近なものとなっているせん妄ですが、家族や近しい人が正しい知識を持っていないと症状が長引いたり合併症を引き起こすリスクが高くなります。科学・健康・教育のジャーナリストであるクラウディア・ウォリス氏が、せん妄を予防したり症状を軽くするための方法をつづっています。
It's Time to Take Delirium Seriously - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/its-time-to-take-delirium-seriously/
ハーバード大学教授であるシャロン・イノウエさんはせん妄の専門家として第一線で研究を行っています。イノウエ氏は35年前、コネチカット・メディカル・センターで明朗だった老人が突然理由もなく混乱しだす様子を目にし、衝撃を受けました。高齢者が多く発症するせん妄は認知症と似ていますが、突然発生して短期間で消失するという特徴を持ちます。なぜ人によってせん妄を発症させたり発症させなかったりするのかという理由ははっきりしておらず、イノウエ氏が他の臨床医に尋ねても満足する答えは返ってこなかったとのこと。イノウエ氏はせん妄という症状が容認できず、一方で大きな興味を持ったことから、研究を始めたそうです。
せん妄は珍しい症状でなく、ウォリス氏は「65歳以上の入院患者の10~50%、集中治療室にいる患者に限定すると85%がせん妄症状を経験する」としています。近年になって外科手術を受ける80~90代の患者が急増し、せん妄症状を経験する患者が急増したのだとジョンズ・ホプキンズ大学医学部の麻酔学・集中医療医学部代表であるフレデリック・シーバー氏は語っています。
また、せん妄症状が知的鋭敏さの喪失を含め、長期的なリスクを持つことがわかってきたことも、イノウエ氏を始めとする研究者がせん妄に注目している理由の1つ。高齢者が手術を受けた後に術前の精神状態から変わってしまう、という自体は珍しくないとのこと。この変化の理由が、手術によって脳が恒久的な障害を負ったためなのか、それとも術前には明らかでなかった認知の問題が加速したためなのかは定かではありません。また同様に、トリガーとなったのが手術そのものなのか麻酔なのかもはっきりとわかっていないとのこと。一方でシーバー氏は局所麻酔と全身麻酔で違いがあるのかを実験しましたが、違いは示されませんでした。シーバー氏は慢性疾患や初期の認知症が見えない脆弱性として存在する可能性について示唆しています。
せん妄の症状は数日以上続きますが、認知力の低下が伴う場合、患者は薬による治療を受ける場合があります。しかし、薬による治療は合併症を伴うことも。食べ物や薬を喉につまらせた患者が誤嚥性肺炎になり死亡したり、寝たきりになり血栓症を患ったり、つまずきやすくなり転倒するリスクも高くなります。
せん妄を避けたり、短期で克服するための方法として、記事作成時点で「患者が脱水状態にならないようにすること」「メガネや補聴器を必要とする人の場合は使えるようにすること」「できる限りベッドを出て歩くようにすること」「睡眠をしっかりとること」「病院スタッフや愛する人と社会的に交流していること」などが有効であるとわかっています。
またイノウエ氏らはせん妄による機能喪失を防ぐためのHospital Elder Life Program(HELP)というプログラムを開発しており、プログラムの実施によりせん妄リスクを30~50%減らせるほか、せん妄期間を短縮したり、転倒率を42%減らせることが研究で示されています。これにより、患者1人あたりにかかる病院の費用を1600ドル(約17万2000円)から3800ドル(約40万8000円)削減できるとのこと。
アメリカ退職者団体(AARP)は、人々がせん妄になるリスクを減らすべく、65歳以上で手術を受けた人の約50%がせん妄になるという状況をレポートで報告。AAAPののシニアヴァイスプレジデントであるサラ・レンズ・ロック氏は母親がせん妄になったことを明かし、「母親が大動脈瘤の手術を終えた後、興奮状態になっていたとき、私はもっとせん妄について知っておくべきでした」と、せん妄の知識をつけ、適切に対応することの大切さを語りました。
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