サイエンス

アルコール依存症になるマウスは「初めてお酒を飲んだ時」から脳の反応が他のマウスと違うことが判明

by Pixabay

多くの人々は深刻で長期的な依存をせずにお酒を楽しんでいますが、一部の人々はお酒を飲むことがどうしてもやめられないアルコール依存症となってしまいます。マウスを使った実験により、「アルコール依存症になるマウスは過去にお酒を飲んでいない個体でも、『最初の一杯』に対する脳の反応が違う」ことが判明しました。

A cortical-brainstem circuit predicts and governs compulsive alcohol drinking | Science
https://science.sciencemag.org/content/366/6468/1008

Scientists discover "just one drink" is more accurate than they thought | Inverse
https://www.inverse.com/article/61099-brain-activity-binge-alcohol-drinking

アルコール依存症の原因や治療法を研究する科学者の多くは、アルコール依存症になる可能性がある人を予測する方法として遺伝子に注目する傾向があります。これまでの研究から、アルコール依存症に関連する遺伝子は数百個もあることがわかっていますが、遺伝学だけでは「アルコール依存症となる人」と「お酒と健全に付き合える人」の違いを完全には説明できません。

ソーク研究所の神経科学者であるKay Tye氏の研究チームは、アルコール依存症を予測する方法として、遺伝子ではなく脳の活動に目を向けて実験を行いました。今回の実験では遺伝的に同一なオスのマウスを用い、アルコールを少しずつ飲ませていき、アルコール依存症の傾向や脳の反応について分析したとのこと。

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実験の当初、マウスたちはいずれもアルコールを摂取した経験がない状態で、少量のアルコールを与えられました。この時、多くのマウスでは、物事の決定に関わる前頭前皮質から、脳の基本的な処理に関わる背側中脳水道周囲灰白質に向かって走る回路が活性化したとのこと。一方、一部のマウスではこの回路が抑制され、あまり活性化しなかったそうです。

この時点では、アルコールに対する欲求や行動は両者のマウスで違いがなく、行動的にはどのマウスがアルコール依存症になりやすいのか判別できませんでした。アルコール依存症になりやすいマウスとそうでないマウスに決定的な違いをもたらしたのは、「たった一度の大量飲酒」だったと、研究の共著者であるヴァンダービルト大学Cody Siciliano准教授は述べています。

研究チームは時間をかけてマウスを少量のアルコールになれさせた後、一気に「2時間連続して自由にアルコールを飲ませた」とのこと。このイベントは、前頭前皮質から背側中脳水道周囲灰白質の回路が活性化しないマウスにとって大きな影響をもたらしたそうで、このタイプのマウスは他のマウスと比べて、何かにとりつかれたようにアルコールを飲みました。そして、アルコールを飲んでも回路が活性化しないマウスはこれ以降、アルコール依存症の症状を見せるようになったそうです。

Tye氏は、「最初にアルコールを摂取させた時点では行動の見分けが付きませんでしたが、神経活動は非常に異なっていました。この重要な回路での神経活動の減少程度は、数週間後にアルコール依存症を発症することを非常に正確に予測できました」と語りました。

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今回の研究結果から、通常のマウスではアルコールに対する「嫌悪信号」が出ており、過度のアルコール摂取を抑制しましたが、アルコール依存症のマウスでは嫌悪信号が抑制されていたことが示唆されています。その後、研究チームはアルコールとキニーネを配合して苦みを与えたり、アルコールを飲んだ後に電気ショックを与えたりといった操作をしたものの、アルコール依存症のマウスにアルコール摂取を止めさせることはできませんでした。

Siciliano氏は、「一部の動物では前頭前皮質から背側中脳水道周囲灰白質の回路が、アルコールの影響を受けやすいのだと考えています。この回路はさまざまな状況での意志決定にとって重要ですが、過激な飲酒体験の後ではこの回路が上手く働きません」と述べています。

さらに研究チームは、光遺伝学を使用してアルコール依存症のマウスの脳活動を操作し、通常のマウスで見られる回路の活性化を模倣しました。すると、回路を活性化させたアルコール依存症のマウスでは、飲酒傾向が減少することが確認され、脳活動を操作することでアルコール依存症を改善できる可能性が示されたとのこと。マウスと人間の脳は別物であり、今回の発見が実際の治療に生かされるには何年もかかる可能性がありますが、研究結果はアルコール依存症の治療にとって有望なものだと研究チームは主張しています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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