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ソフトバンクが多額の出資を行うもIPOに失敗&大炎上でCEOが退任した「WeWork」を専門家が批判

by Eloise Ambursley

アメリカでは新規株式公開(IPO)を行うために、証券取引委員会に「S-1」と呼ばれる証券登録届出書を提出する必要があります。これはIPOを目指す企業にとっての最初のハードルとなるのですが、これが原因で化けの皮がはがれ大炎上している企業があります。

WeWork and Counterfeit Capitalism
https://mattstoller.substack.com/p/wework-and-counterfeit-capitalism

コワーキングスペースを提供する「WeWork」は、2018年にソフトバンクが30億ドル(約3200億円)もの追加出資を行ったという企業。IPOのための準備を進めていたものの、情報開示で公開した事業内容があまりに稚拙ということで投資家や専門家から酷評されて大炎上しています。さらに、「WeWorkはニセモノか?」という暴露記事が話題を呼び、最終的には創業者のアダム・ニューマン(ノイマン)氏がCEOを退任するという事態にまで発展してしまいました。

WeWorkの一連の騒動は「アメリカのビジネスにおける誠実さの破綻を示しており、文明を維持するために必要な重要なシステムを生産することがますますできなくなっていることを示している」と、ジャーナリスト・研究者・法律家などによるメディアOpen Markets Instituteで働くマット・ストーラー氏が記しています。

by Ariann Laurin

ストーラー氏はWeWorkの炎上事例について「資本市場が損失を生む企業に資金を供給する、という傾向がますます一般的になっていることを示す事例だ」と記しています。このような事例は「偽造資本主義」と呼ばれ、新世代の経営コンサルティングなどの間では頻繁に語られているそうです。WeWorkのニューマン氏の台頭と凋落は、現代の政治経済哲学における重要な教訓になりうるとのこと。

WeWorkはコラボレーション文化の利点を用い、必要に応じてワークスペースを拡大縮小可能な柔軟性を、世界規模のコミュニティの力を用いることで低コストで提供するというサービス。言い換えれば、WeWorkは「企業に貸し出すオフィススペースを『また貸し』していた」わけです。

WeWorkが株式上場のために情報開示した際に公開した、ビジネスモデルを示した図が以下のもの。


左は既存の不動産産業が一般的なオフィススペースを企業に貸し出しする際の構造を描いたもの。右はWeWorkが顧客に対して、サービス・スペース・プロダクトを提供するプラットフォームとして機能するということをザックリと示した図です。この図はIPOに向けてより多くの資金を集めるために作成されたものですが、内容のなさから多くの批判を集めることとなります。

WeWorkが行ってきたすべての事業が無駄だったというわけではなく、実際にWeWorkが提供しているコワーキングスペース自体は非常に質の高いもので、オフィススペースを必要とする小規模な企業やチームからは好評でした。しかし、従来よりも小さな単位でオフィスの賃貸ができるというコワーキングスペースというビジネスをスケール化していくことは非常に難しく、「大規模な収益化の道は存在しないように思える」とストーラー氏は指摘しています。実際、ビジネスを拡大していく中でWeWorkは莫大な資金を失っているとも指摘。

by Jp Valery

そして、WeWorkにとって非常に重要な人物であったニューマン氏が巨大な信頼を集めているのに反し、その資質を明確に世に示したことがなかったという点も問題だったそうです。IPOに際しての情報開示のタイミングで、WeWorkは「我々の将来の成功は共同創業者であり(当時の)CEOであるアダム・ニューマンによる継続的なサービスに大きく依存しています」と、その存在の大きさがよく伝わるコメントを残しています。

しかしその後、ニューマン氏は度重なる奇行が悪い意味で話題を集めてしまいます。その内容は「スピリチュアルにハマったニューマン氏の妻が『こいつのオーラが気にくわない』という理由で従業員をクビにした」や、「プライベートジェットでマリファナ・パーティをした」、「会社が行うパーティーが派手過ぎる」などさまざまです。

また、ニューマン氏は会社から7億ドル(約750億円)という大金を引き出し、「WeWorkにリースする」という名目で個人用の物件を購入したり、プライベートジェットに乗って世界中を飛び回ったりしているとのことで、こういった行為は「風変り」でも「カリスマ的」でもなく、「非正統なリーダーシップを持っている」ということを示すことにも繋がらないとストーラー氏は批判しています。


最終的にCEOを退任することとなったニューマン氏ですが、問題はなぜそのような人物が何千億円もの資本を管理し、何千人もの従業員を管理するような役割についていたのかということです。ニューマン氏の虚像を作り上げたのは、WeWorkに多額の投資を行ってきた「JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモン氏やソフトバンクの孫正義氏によるところが大きい」とストーラー氏。

ストーラー氏はダイモン氏を「消防士のフリをした放火犯」であるとして、「彼の実際の評判を知っていれば驚くべきことではない」と批判。孫氏については「ソフトバンクの一般的なやり方は、民間資本市場から競合他社を現金で締め出すこと」と指摘。なお、ストーラー氏によれば、ソフトバンクはコワーキングスペース市場の競合他社の価値を下げ、WeWorkの市場地位を確立したのちに利益を得ることを望んでいるのではと推測しています。

by Owen Beard

ソフトバンクやWeWorkの「競合他社よりも低価格でサービスを提供して最終的に市場全体を支配する」という手法は、Amazonが成長していく過程でとってきた戦略と同じだそうです。この戦略はWeWork以外にも多くの模倣者を生み出しており、ベンチャーへの投資を加速させてきました。その結果、ベンチャーキャピタルや投資家の目標は「大きな市場を見つけ、その市場で支配的な立場になるまでサービスの価格を下げられるような1つの企業に資本を投入すること」になってしまったとストーラー氏。これにより金融業者はすべての競争を終結させ、生き残った独占企業による利益をむさぼることができるようになってしまっているとのこと。

このような戦略はかつては違法であり、「略奪的価格設定」として知られていました。ニューマン氏やソフトバンクの孫氏らの行動モデルは、コスト度外視の価格設定で市場力を獲得し、赤字は資金調達で補てんするという、まさに略奪的価格設定そのもの。WeWorkだけでなく多くの企業が同じようなモデルで経営を続けており、スクーターメーカーの「Bird」はお金を稼いでいないし、UberやLyftといった配車サービスのビジネスは採算がとれていないとのこと。こういった戦略はお金を稼ぐ必要のある競合他社にとっても壊滅的なものだそうです。

なお、Amazonの略奪的価格設定を用いた市場独占戦略については、以下の記事に詳細にまとめられています。

Amazonの「法の抜け穴」を利用して市場を独占しようとする戦略とは? - GIGAZINE


ストーラー氏はこういった偽造資本主義的な戦略は危険な経済的結果をもたらすとして、サブプライム住宅ローン危機ワールドコム破綻のような経済危機につながる可能性があると指摘。また、偽造資本主義的な流れはグレシャムの法則が形を変えたものであり、「安価で何かを偽造できるとしても、偽造物は最終的に市場全体を乗っ取り、あるべき商品を市場から追い出してしまいます。そして、ニューマン氏のような偽の『指導者』が称賛され、物事を作り管理できる本物の指導者を、大げさなものと扱ってしまうことになります」とも指摘しています。

ストーラー氏は「証券取引委員会の設立」のような優れた公共政策が偽造資本主義を止める役に立つとしており、WeWorkの事例ではIPOに際した情報開示がその役割を担ったとして、「ジェイミー・ダイモン、孫正義、アダム・ニューマンを止めることにつながった」と評価しています。なお、ストーラー氏によると、略奪的価格設定と一元化された財務管理に対する法律を復活させることが、偽造資本主義モデルを消す有効な手段であるとのことです。

・つづき
資金調達に失敗して大炎上の末CEOが辞任したWeWorkが正式に上場申請を撤回 - GIGAZINE

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in メモ, Posted by logu_ii

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