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史上まれに見る成功と失敗を経験したWeWorkから得られる「5つの教訓」とは?

by Phillip Pessar

2010年に創業したWeWorkは、ニューヨークを拠点に起業家やフリーランス向けのコワーキングスペースを提供する事業を展開して急成長を遂げ、2019年には企業価値が470億ドル(約5兆3000億円)に達しました。ところが同年、不正会計などの問題が発覚して上場申請を撤回し、筆頭株主のソフトバンクグループの支援による企業再建を経て2年後の2021年10月に念願の上場を果たしましたが、企業価値は約90億ドル(約1兆円)にとどまっています。史上まれに見る壮大な浮き沈みを演じたWeWorkから得られる「5つの教訓」について、2019年にWeWorkの従業員となったFrancesco Perticarari氏が解説しています。

WeWork And Adam Neumann: Scam or Genius? 5 Lessons Learned From Their Raise and Fall
https://blog.francescoperticarari.com/wework-and-adam-neumann-scam-or-genius-5-lessons-learned-from-their-raise-and-fall

WeWorkは2010年の創業から記事作成時点に至るまで、まるでジェットコースターのように浮き沈みしてきました。多くの人は2019年の上場に失敗して不正会計が明るみに出た上に、2021年上期にも29億8000万ドル(約3400億円)もの損益を記録しているWeWorkを「大失敗した」と評価するかもしれませんが、全盛期の半分以下ではあるものの依然として90億ドルもの企業価値があるのも事実です。

実際にWeWorkで働いていたPerticarari氏は、数カ月前に友人からWeWorkの元CEOであるアダム・ニューマン氏を取り上げた「Billion Dollar Loser(億万長者の敗北者)」という本を勧められたとのこと。本の内容はWeWorkという企業の中で権力をふるって悪い方向に進んだニューマン氏の実情を明らかにするものだったそうですが、Perticarari氏は読み進めるうちに中立的なスタンスになり、WeWorkおよびニューマン氏が達成したいくつかの点は尊敬に値するという考えを持ったと述べています。


そこでPerticarari氏は、WeWorkから得られる教訓として以下の5つを挙げています。

◆1:不確実性と失敗を受け入れる
ニューマン氏はWeWorkより前にKrawlersという子供服の会社を経営しており、事業に集中するために限界まで働いたそうですが、残念ながらKrawlersは失敗してしまいました。また、WeWorkの共同創業者であるミゲル・マッケルビー氏は英語学習用のウェブサイトを立ちあげて一定の成功を収めたものの、より大きなビジョンを持っていなかったため収益性の高い中小企業にとどまったとのこと。創造性に刺激を与えられなくなったマッケルビー氏は株式を売却し、やがて出会ったニューマン氏と共に新たな事業を立ちあげることにします。

不動産分野に参入することにした2人は2008年に、大家と提携して空のテナントをコワーキングスペースにするGreen Deskという企業を立ちあげ、ある程度の成功を得ることができました。しかしその後、この方向性では10億ドル(約1100億円)のビジネスに成長させることはできないと考えた2人はGreenDeskを売却し、この売却益と投資家から調達した資金を元にしてWeWorkを創業したとのこと。Perticarari氏は、Green Deskの成功が2人の経験と自信を与え、一時は470億ドルの企業価値を得たWeWorkを生み出すことにつながったと指摘しました。


大企業の創業者に焦点を当てた本「Super Founders(偉大な創業者たち)」の著者であるAli Tamaseb氏の調査によると、前に立ちあげたスタートアップで小さな成功を得た創業者は、次のスタートアップで評価額が10億ドルに達する確率が初めてスタートアップを創業する人に比べて3倍も高かったとのこと。Tamaseb氏は何回目のスタートアップで成功が訪れるのかはわからないものの、重要なのは運が向くまでビジネスを構築し続けることだと主張しています。

スタートアップの立ちあげには大きな労力が伴うため、成功するかどうかわからない不確実性や失敗するリスクを受け入れるのは困難です。しかしPerticarari氏は、ニューマン氏とマッケルビー氏はこの不確実性を受け入れて前に進んだことで、WeWorkで大成功を収めることができたとしています。また、ニューマン氏は資金の調達ラウンドでも強力な意思を持つことで大きな勝利を得ており、2013年には、ゴールドマン・サックスから2億2000万ドル(約220億円)の評価額で資金提供の申し出がありましたが、ニューマン氏はこの申し出を断って活動を続け、最終的に4億4000万ドル(約440億円)の評価を得ることに成功しました。


◆2:壮大なビジョンとそれに向かって懸命に戦う意思
ニューマン氏らはWeWorkを創業した当初から、単なるオフィスレンタル事業以上の存在として会社を位置づけていました。WeWorkは面積当たりの料金を設定して貸し出しを行うのでもなければ、伝統的なレンタルオフィスの顧客である企業を対象にするのでもなく、デザイン性と柔軟なレンタル条件を備えたコワーキングスペースとしてブランド化していました。また、コワーキングスペースを一種の「活動やクラブの場」とする感覚を植え付け、フリーランスやスタートアップの起業家をテナントとして迎え入れた上で、テナントを「メンバー」と呼び始めるといった工夫も凝らしたとのこと。

従来のオフィスレンタルやコワーキングスペースとは違い、「物理的なソーシャルネットワークを構築する」として壮大なビジネスを構築しようとするニューマン氏らの試みは、投資家や顧客、スタッフへの訴求力も強いものでした。これにより、実際のWeWorkは不動産管理会社の一形態としての色合いが濃かったにもかかわらず、シリコンバレーのIT企業を中心に投資する企業からも資金を集めることができたとPerticarari氏は述べています。

◆3:自信とミッション主導の姿勢
初期のWeWorkは他の多くのスタートアップと同様に、従業員に満足な給与を支払うことができませんでした。それにもかかわらず、強い目的意識とエキサイティングな道のりを歩んでいるWeWorkに引きつけられた人々は、これまでの会社を辞めてWeWorkに加入したとのこと。人々をWeWorkに引きつけた目的意識の多くは、ニューマン氏が持つ感動的な言葉や自信にあふれた態度、優れたストーリーテリング能力によって形作られていたとPerticarari氏は指摘しています。

また、ニューマン氏らは単に壮大なビジョンを語るだけでなく、初期のWeWorkではオフィスに長期間滞在して自らも仕事をしていたため、会社のために長時間働く勤勉な社風を形成したとのこと。「Billion Dollar Loser」ではこの社風を明らかに否定的なものとして描写しているそうですが、Perticarari氏は「現実には、スタートアップはハードワークです」と述べています。また、単に創業者が勤勉なだけではスタートアップの成功にはつながりませんが、ニューマン氏らは定期的なミーティングや交流イベントを行うことで、従業員は自分たちと同様に献身的に働く環境を作ったそうです。


◆4:Blitzscaling(ブリッツスケーリング)で競争上の優位性を作る
ブリッツスケーリングとは「Blitzscaling(ブリッツスケーリング)」の著者であるリード・ホフマン氏が作った造語であり、「不確実な状況の中で効率よりもスピードを優先させる」という意味を持っています。新たな市場においてブリッツスケーリングの考えで急速に成長すれば、じっくり成長を遂げている競合他社が脅威となる前に、市場における圧倒的な優位性を築くことができるという考えです。

WeWorkは創業当初から、あるいはGreen Deskでコンセプトを証明した時点から、ブリッツスケーリングを望んでいたとPerticarari氏は述べています。そのため、資金に乏しい初期の段階からニューヨークに拠点を構えてWeWorkの信頼性を高め、精力的に投資を募ることにより、たった2年で700万ドル(約7億円)もの自己資本を獲得して、コワーキングスペースを展開する競合他社とは比べものにならない優位性を手に入れたとのこと。また、ほとんど議論されていない新規コワーキングスペースについても投資家に説明し、自らを「急成長を遂げているコワーキングスペース事業者」と見せることに成功したそうです。

さらに、WeWorkはニューマン氏のカリスマ性やハードワークなどに支えられた初期の段階から脱出するため、速やかに急拡大を可能にするためのシステムやルールも導入しました。その結果、WeWorkは地球上のさまざまな大都市にコワーキングスペースを構えることに成功したとのこと。


◆「少なすぎる」ことだけでなく「あまりにも多すぎる」ことも有害
ここまでPerticarari氏は、WeWorkが急成長を遂げたいくつかの理由について言及してきましたが、WeWorkの全てが優れていたと考えているわけではありません。いくつかの点ではスタートアップの成長において正しい道を選択し、コワーキングスペースの普及や分野全体の活性化といった利点ももたらしたものの、明らかに間違っていた面もあるとのこと。

WeWorkが犯した誤りの1つに、「急成長するに従って経営陣が現実を見失ってしまった」ことが挙げられます。成長したWeWorkは明確な目的がない技術開発を進めたり、WeWorkのビジネスにフィットしない企業の買収を行い始めました。Perticarari氏は、あまりにも多くの現金が手に入ったことで創業者らが混乱し、非現実的な期待を持つようになってしまったと指摘しています。

また、ニューマン氏のエゴも増大し始めてしまい、パーティーや薬物、アルコールなどに関する問題を引き起こしたほか、スターバックスのハワード・シュルツ氏から構造的なビジネス上の問題を解決して急拡大をやめるようにアドバイスされても、ニューマン氏はこれを無視したとのこと。また、生産性の低いスタッフを容赦なく解雇する労働環境は有害なものとなり、損失の増加をごまかすために独自の指標を生み出すに至り、最終的に2019年の上場失敗につながりました。


ニューマン氏は2019年にWeWorkを追い出される形で辞任させられましたが、2021年11月には約2年ぶりに公の場に姿を現しました。オンライン公演で当時のことを振り返ったニューマン氏は、「(知名度の高い投資家の参加や評価の上昇に伴って)私がリードしていたスタイルが、その時の正しいスタイルだと感じたのです」「その時が、自分のビジネスの核心や、このビジネスが存在する理由といった点に集中できなくなった瞬間だと思います」と述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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