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Amazonの「法の抜け穴」を利用して市場を独占しようとする戦略とは?

by Ben Mortimer

Amazonは巨額の売上にも関わらず赤字を出し続けたことで有名であり、2019年は1兆円以上の収益を上げつつもアメリカでは1円の税金も払わなかったことが話題になるなど、独自の経営方法を続けています。しかし、このようなAmazonの戦略は「最終的に競業相手をたたきつぶして市場を独占した後に膨大な利益をあげること」を目的としているのではないか、という指摘がなされることも。新たに公表された論文では、このAmazon独自の戦略が分析されています。

Prime Predator: Amazon and the Rationale of Below Average Variable Cost Pricing Strategies Among Negative-Cash Flow Firms | Journal of Antitrust Enforcement | Oxford Academic
https://academic.oup.com/antitrust/advance-article/doi/10.1093/jaenfo/jnz006/5419743

Is Amazon Violating U.S. Antitrust Laws? This Law Student Has Evidence. - In These Times
http://inthesetimes.com/article/21850/is-amazon-using-predatory-pricing-in-violation-of-antitrust-laws-monopoly

Amazonの「利益を出さない」ビジネスモデルは「flip the switch(急反転)」が最終目的だとする主張があります。つまり、競業他社や競業サービスを全てたたきつぶしAmazonが市場を独占した後に、ある日突然、商品の価格を上げ、多大な利益を得るわけです。優位にある企業が市場から劣位の企業を追い出すために製造コストを下回る極端に低い価格を設定する、という行為は「predatory pricing(略奪的価格設定)」と呼ばれます。

by Stock Catalog

アメリカにおいて略奪的価格設定は違法ですが、裁判で証明することが非常に難しいとされています。訴えを起こした人や会社はAmazonが製造コストを下回る価格で値付けを行っていること、そしてAmazonの行動が市場の独占に有利であることを証明しなければなりません。略奪的価格設定について争った裁判として有名なのは、1986年の「ゼニス対松下事件」ですが、これ以降に認められたケースはほとんどないとのこと。

そんな中、ニューヨーク・フォーダム大学の法科大学院生であるShaoul Sussman氏は、Amazonが略奪的価格設定を行っていると証明しうる方法を論文として発表し、議論を呼んでいます。

Amazonは投資家に対して収益ではなくキャッシュフローを示すことが多くあります。キャッシュフローは略奪的価格設定の証拠として用いられることが多く、Amazonにネガティブなキャッシュフローがあれば、それはライバルを出し抜く反競争戦略である可能性が考えられるとのこと。


しかし、Sussman氏は論文の中で「Amazonは支出の大部分を除外するために米国会計基準(GAAP)の抜け穴を利用している」と主張。所有する2億8800万の平方フィートの土地のいくらかと設備をオフィスとしてファイナンス・リースすることで、キャッシュを支払うことなく、借り入れと融資で設備を手に入れているといいます。このリースは「支出」としてフリー・キャッシュフローに現れません。2017年のレポートでは、「ファイナンス・リースを加えれば、Amazonのキャッシュフローは10億ドル(約1120億円)の赤字である」と述べられています。

Sussman氏は「Amazonがキャッシュフローの数字を不明瞭にするために貸借対照表の数字を一方から他方に移している」という可能性について指摘しており、Amazonは社内の財政構造を明かしませんが、「全貌が明らかになればネガティブキャッシュフローが示されるだろう」と述べています。

Amazonは既に1億人のAmazonプライムユーザーを持ち、全eコマースのうち45%を占めるという「独占」に近い状態を作りあげています。しかし、略奪的価格設定を成功させるには、「損失が出るほど著しく低い価格で商品を売ること」によって築き上げた独占状態から、利益を生み出す必要があります。この「低価格」という部分を捨てずに利益を得るために、Amazonは「サプライヤーが実質的に物を売ることができない状態」を作り出そうとしているとのこと。

by Negative Space

Amazonは自社商品だけではなく卸売業者を介した商品も販売しており、サードパーティーセラーによる売上はAmazonマーケットプレイス全体の58%にのぼります。これらサードパーティーは、対価を支払うことでAmazonに在庫管理を行ってもらい、広大なロジスティクス・ネットワークを利用しての発送を行うことが可能。このような「フルフィルメントby Amazon(FBA)」やショップの利用料によるAmazonの収益は年々増加しており、2018年第4四半期の貸借対照表では、サードパーティーからの売上は134億ドル(約1兆5000億円)にまで成長しています。これは、Amazonの売上の5分の1がマーケットプレイスやFBAから来ていることを意味します。

Bloombergの伝えるところによると、Amazonは何千という卸売業者から商品を直接購入して販売するという行為をやめ、サードパーティーによる販売を推奨する形へと方向転換しているとのこと。これによりAmazonは在庫や発送の費用を削減し、かつマーケットプレイスの使用料をより多く集められるようになっています。

つまりAmazonの行動を要約すると、最初は故意に損失を出しながら商品を販売し、次に商品価格を変えずにコストを削減し、マーケットプレイスの使用料を通じてサプライヤーの利益を徴収していることになります。これは「本に載っている略奪的価格設定の定義そのまま」だと指摘されています。

オンラインで物を販売しようと考えた人が選べる選択肢は多くありません。Instagramも買い物ツールをリリースしましたが、Amazonを避けて通る人は少ないはず。Amazonはいかに大きな卸販売業者であっても取り込むことが可能です。そしてAmazonは契約の中に「売り手が他のウェブサイトでAmazonより低価で物を売ること」を避けるための条項を入れており、理論的には価格の高い売り手の検索順位を下げることもできるため、「売り手が高い価格を付けて売ること」が非常に難しくなります。

by Tim Reckmann

またAmazonは2019年3月に「Amazonで利益を上げられない商品は広告を停止する」という新たな方針を発表。これはCRaP(Can’t Realize a Profit/不採算商品)を締め出すもので、自社販売を行う業者に対して適用されることから、サードパーティセラーを拡大する意図があると見られています。しかし、これは裏を返せば「Amazonには利益を得られない=製造コストを下回るCRaPを販売するグループが存在する」ということ。Amazonはより「利益を増やすこと」、そして「CRaPのコストを下げること」に力を注いでいると言い換えることができます。

Sussman氏は、Amazonによって損害を受けた会社がAmazonを訴えることができるよう理論を構築しており、もし実際に裁判で争われることになれば、Amazonはそれぞれの商品の単価を明らかにする必要に迫られるはずと語っています。またSussman氏は連邦取引委員会がAmazonが隠しているコストを明らかにすることで、将来的に略奪的価格設定を行おうとする企業を取り締まる法律を制定できると考えています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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