メモ

Amazonにはまだ「小売市場の91%」という奪うべきターゲットが残されているので「Amazonは始まったばかり」との指摘

By ec_times

オンライン通販市場を制圧したAmazonは、ビジネス範囲を広げてさまざまな分野に進出しています。中でもオンライン市場よりもはるかに巨大な「実店舗での小売業」へのAmazonの本格進出は避けられず、それゆえAmazonの成功物語はまだまだ序章に過ぎないという評価があります。

Jeff Bezos v the world: why all companies fear 'death by Amazon' | Technology | The Guardian
https://www.theguardian.com/technology/2018/apr/24/amazon-jeff-bezos-customer-data-industries

アメリカ・サンフランシスコに拠点を構えるRain Designは、Amazon.com上でノートPCスタンド「mStand」を販売し長らくベストセラー製品の称号を与えられるほど成功していきました。10年近くAmazon.com上で順風満帆な販売活動をしてきたRain Designでしたが、Amazon自身がmStandと同様の製品をAmazonブランドで販売し始めたことで、状況は大きく変わっています。「雨粒ロゴをAmazonロゴに変更しただけ」というほとんど同じ機能とデザインの両スタンドですが、mStandが39.99ドル(約4400円)に対してAmazonスタンド19.99ドル(約2200円)と半額なので、Rain Designは今後、販売競争で苦戦を強いられることは火を見るよりも明らかです。


Amazonがベストセラー製品とまったく同じAmazonオリジナル製品を発売するということは、特に珍しいことではありません。AmazonはAmazon.comの顧客データから何がどれくらい売れるのかを正確に把握できることから、わずか数週間でベストセラー製品のコピー品をAmazonブランドで販売できるというわけです。

Amazonが支配しようとしているのはオンライン通販ではなく商取引全体のインフラである - GIGAZINE


Amazonは人が何を探しているのか、何をクリックしているのかを追跡しています。もしも何かをクリックしなかった場合でも、Amazonはそこにギャップ(隔たり)があることを理解します。かつてAmazonでプロダクトマネージャーを務めていたレイチェル・グリアー氏は「Amazonがしなければいけなかったことは、最高の物を見つけ出しコピーすることでした」と述べています。グリア氏いわくAmazonを例えるならば貪欲なホホジロザメだとのこと。

データを武器にするAmazonは、オンライン通販以外にも音楽ストリーミングサービス、ゲーム実況ストリーミングサービス、食品配達サービス、家事代行サービスなど、さまざまな分野に進出しています。そして、AWSによって多くのサイトにオンラインプラットフォームを提供することで、あらゆる産業に関わっているとも言えます。そのため、Amazon.com上のベストセラーを真似するだけでなく、例えば、ハンドメイドのECサイトEtsyとまったく同じサービスを「Amazon Homemade」で始めるなど、「サービス」のコピーも始めています。データ分析を使ってすべての産業に進出できるAmazonについて、法律家のリナ・カーン氏は「それは21世紀の『鉄道』になっています。多くのビジネスにとって実用的なだけでなく、すべてのビジネスと競合するものです」と表現します。


「『顧客を知ること』は顧客のニーズを満たすために必要なことであるため、Amazonも顧客を理解することに執着している」とビジネススクールで教授を務めるヴィジェイ・ゴヴィンダラハン氏は述べています。一般的には顧客データの収集は好まれる行為ではなく、情報の利用法や管理法についての懸念を引き起こすものですが、Amazonはデータ分析を駆使してサービスを安くかつ便利にすることで信頼を得ており、顧客に嫌われるどころか愛されているという特長を持っています。

かつてAmazonでアナリストを務めていたジーン・マンスター氏は、「Amazonの目標は顧客を喜ばせることです」と述べています。Amazonは、ユーザーが好まないデータ利用を徹底的に避けることで、膨大な情報を持ちつつもユーザーからの絶大なる信頼を勝ち取ったとのこと。しかし、Amazonが勝ち取った「信頼」は、Amazonが競合他社やパートナー、労働者に与えている「損害」を反映していないとマンスター氏は指摘します。「ビジネスを顧客サイドからのみ見ることはまったくもって愚かなことです。それは人間を半分に切り分けて、『労働者』や『製品供給者』という残りの半分を無視する行為なのです」とマンスター氏は述べています。Amazonから受ける高品質のサービスに満足しAmazonを妄信することは、過酷な環境で働く倉庫従業員や、ライバル製品との値下げ競争を強要される販売者によって支えられているという事実を見ていないというわけです。

Amazon倉庫で身分を隠して働いた記者が語る「過酷な労働環境」とは? - GIGAZINE


さまざまな分野に進出するや価格競争を仕掛けて市場を制圧するAmazonのビジネススタイルは、競合し得るビジネスの関係者を震え上がらせています。例えば、Amazonが高級スーパーのWhole Foodsを買収するという発表で食料品チェーンの株価が暴落しました。その後、Amazonが宣言通りWhole Foodsの商品を値下げし始めると、食料品チェーンの株価は再び急落しました。Amazonが食品配達用の商標を申請したことが伝わると、食材配達サービスのBlue Apronの株価は11%下落し、AmazonがJPモルガンやバークシャー・ハサウェイとともにヘルスケアベンチャーへ投資するという不確定の情報でさえヘルスケア関連株の下落を招きました。

投資会社のBespokeは2012年以来、Amazonに狙われた競合54社の株価を追跡する「Death by Amazon index」という指標を用いた分析を行っています。Bespokeのジョージ・パークス氏によると、2012年2月から2018年1月までの間のAmazonの株価は560%アップなのに対して、S&Pインデックスは102%アップで、Death by Amazon indexに至ってはわずか42.8%アップにとどまるとのこと。株式市場はAmazonの強さを如実に物語っています。


Amazonはオンラインの小売りサービスを支配していますが、アメリカでみれば小売市場に占める割合はわずかに9%だとのこと。つまり、残りの91%にはAmazonが食い込むべき有望な市場が残されているというわけです。

Whole FoodsをはじめとしてAmazonはリアル店舗への進出を始めています。中でもレジレススーパーの「Amazon Go」はあらゆるリアル店舗に応用できる仕組みを備えており、今後、Amazonが91%を奪いにいくための大きなカギを握っているとの指摘があります。つまり、Amazonはレジが不要というシステムを他の小売業者にサービスとして提供することで、「リアル世界のAWS」のようなインフラサービスを行うというわけです。もちろん、小売り店舗の販売データを握ることで、リアル店舗の完全制圧を目指すというのがAmazonの野望です。残り91%という壮大なフロンティアを残しているという事実から、「Amazonは始まったばかり」という評価も出されています。

レジレススーパー「Amazon Go」は世界中の小売業を完全支配するAmazon帝国設立のための第一歩 - GIGAZINE


あらゆる分野に進出する可能性があり、小売市場でもインフラとしての地位を築くかもしれないAmazonですが、現状の法制度ではその独占を禁止することはできません。カーン氏は、「プラットフォームを利用する企業と競合することを禁止するルール」などの法整備の必要性を説いています。このルールがあれば、Amazon.comでAmazonが自社ブランド製品を販売したり、仮にAmazon Goシステムを提供すればリアル店舗を運営できなくなるというわけです。「もしも規制がされなければ、Amazonは他の企業が作り出す富を吸い上げ続けるでしょう」とカーン氏は述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
Amazonが支配しようとしているのはオンライン通販ではなく商取引全体のインフラである - GIGAZINE

「Amazonされる」など造語が誕生するほど恐れられるAmazonの悪夢のような底なしの欲望 - GIGAZINE

レジレススーパー「Amazon Go」は世界中の小売業を完全支配するAmazon帝国設立のための第一歩 - GIGAZINE

Amazonは現代の「強盗男爵」だと指摘するレポートが登場 - GIGAZINE

Amazonの音声認識「Alexa」は世界のIoTを席巻し「スマートフォンの次」のプラットフォームの覇者となりつつある - GIGAZINE

「『Amazonのやり方が正しい』とは言わない、しかし20年で根付いた文化だ」とベゾスCEOが発言 - GIGAZINE

元Amazon社員が明かす、”最強の捕食者“Amazonのビジネスモデルとは? - GIGAZINE

in メモ,   ネットサービス, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.