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「10億人が仮想通貨を使う世界を5年以内に作る」ことをCoinbaseのブライアン・アームストロングは狙っている


仮想通貨企業として初めて企業価値10億ドル(約1100億円)以上の評価を得て、仮想通貨ユニコーンとしてウォールストリートの投資家の期待を集める「Coinbase」のブライアン・アームストロングCEOは、来るべき巨大なデジタル金融市場の到来を予想し、今後5年で仮想通貨などのデジタル暗号技術を10億人の人が用いる世界を作り出すという野望を抱いています。

Coinbase: A Bitcoin-Boom Beneficiary Plots Its Next Move | Fortune
http://fortune.com/longform/coinbase-bitcoin-brian-armstrong/

2012年にアメリカ・サンフランシスコで誕生したCoinbaseは、仮想通貨(暗号化通貨)企業として初めて、企業価値10億ドル(約1100億円)以上の評価を得た「ユニコーン」になりました。このCoinbaseを作ったのが、かつてAirbnbの技術者だったブライアン・アームストロングCEOです。

技術者の両親を持つアームストロングCEOは、知的な環境の下で育ち、自然と技術に親しみました。かつてAppleのスティーブ・ジョブズやIntelのアンディ・グルーブが社会を変革する道具としてITを利用して成功したのと同様に、自らも同じく社会を変革したいとアームストロング少年は考えていました。しかし、大学を卒業したアームストロングCEOは、「すでにインターネット革命は起こっており、生まれるのが遅すぎたかもしれない」と感じることもあったそうです。


アームストロングCEOは2009年のクリスマスに両親の自宅でウェブサーフィンをしているときに、「サトシ・ナカモト」という匿名の人物が書いた9ページの論文に出会いました。これは、仮想通貨Bitcoin(ビットコイン)を生み出し、仮想通貨を実現するキーとなるブロックチェーンに関する技術的思想が書かれた論文でした。論文に書かれた「政府や銀行の手の届かない世界で流通する通貨」というアイデアを、アームストロングCEOはとても魅力的に感じたそうです。


そして、アルゼンチン・ブエノスアイレスへ旅行に行った際、経済危機による急激なインフレのためレストランの価格を変えるためシールの貼り替え作業に追われる従業員を見たときに、貪欲な国の支配のとどかない場所で富をやりとりする方法としてのデジタル通貨の魅力をあらためて感じたそうです。ナカモトの提唱する仮想通貨が流通する世界の実現のために、最も必要だったのは誰でも簡単に仮想通貨をやりとりできる仕組みづくりでした。2012年当時、仮想通貨は一部のマニアのためのもので、専門的な知識なしに仮想通貨をやりとりできない状態だったためです。

アームストロング氏は2012年にAirbnbを辞め、仮想通貨をオンラインで購入できるような仕組みとして「Coinbase」を開発し始めました。アームストロング氏は、オンラインショッピングするかのように、ユーザーの従来の銀行口座を利用して仮想通貨を購入できるようにCoinbaseを設計したとのこと。それまで専門知識が求められたビットコインの購入を簡単にするという点で、PayPalやVenmoのような決済ツールとしてCoinbaseは誕生しました。

複雑な暗号鍵をユーザーに代わって保存するCoinbaseは、2012年後半にリリースされると、わずか1年後には100万人の顧客を抱えるようになったとのこと。とはいえ、当時の仮想通貨は麻薬取引や詐欺、マネーロンダリングなどの脱法行為に使えるツールという色合いが濃く、ユーザーの法令順守を手助けするのにかなり苦労したそうです。

まだ仮想通貨がアンダーグラウンドな存在だった2013年にベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツから2500万ドル(約25億円)の出資を受けたことは、Coinbaseだけでなく仮想通貨ビジネスにおける大きなチャレンジになったとのこと。アンドリーセン・ホロウィッツのクリス・ディクソン氏は「アームストロング氏は、好奇心が旺盛で、常にアドバイスを求めています」と述べ、アームストロングCEOは改善を続け自分を向上させるのに熱心な人物だと評価しています。


2017年にはビットコインをはじめとする仮想通貨相場が20倍に高騰するという「バブル」と呼べる状況が生まれました。アームストロングCEOによると、Coinbaseは仮想通貨バブルのさなかに1日あたり5万人以上の新規ユーザーを獲得したとのこと。このせいで、Coinbaseのウェブサイトはクラッシュし、メンテナンスに追われるCoinbaseのエンジニアにとっては地獄のような体験になりました。一部のエンジニアやサービス担当者は、1日に18時間も働くことさえあったそうです。ボラティリティの高い仮想通貨において、取引が円滑に行えないということは致命的であり、ユーザーのクレームは激しかったそうで、何十人のユーザーが米国証券取引委員会に苦情を申し立てる事態になったそうです。

また、仮想通貨熱の高まりに乗じて、精巧なフィッシング詐欺や緻密な銀行詐欺が仮想通貨ユーザーをターゲットにし始めました。仮想通貨の普及を目指すCoinbaseは、ユーザーの知識不足を補うべく、サイト上でのアドバイスや啓発にそれまで以上に取り組むことが求められました。Coinbaseは詐欺関連のトラブルを解決するために、収益の10%を費やしたそうです。

さらに、仮想通貨を大量に保有し、時には相場さえコントロールする力を持つ「クジラ」の動きに仮想通貨関係者が翻弄されることもありました。あるクジラが2017年6月21日にCoinbaseの運営する取引所GDAXで仮想通貨Ethereum(イーサリアム)数百万ドル(数億円)分を一気に売却したことで、1ETHが320ドルから10セントにまで急落するという「フルクラッシュ」が発生しました。当時のCoinbaseではこのような「パニック売り」が発生した時に取引を緊急停止するための仕組みが導入されておらず、相場急落にともなう自動注文が発生したせいで多額の損失を出すユーザーが現れました。最終的に、アームストロング氏はこれらのユーザーの救済を決め、損失を補償しています。

また、2017年に発生したビットコインのSegwit(分裂騒動)で、新通貨Bitcoin Cash(ビットコインキャッシュ)が誕生した際に、Coinbaseは新通貨を支持せず、顧客からのクレームを受けて方針を転換したことがありました。この際、Coinbaseの従業員が新通貨サポートの正式発表前に価格上昇を見越して新通貨を買っていたというインサイダー疑惑が発生し、Coinbaseは関連のSlackのチャンネルを突然削除するなどの対応に追われました。内部情報に基づき仮想通貨を取引することがインサイダー取引として違法かどうかは、仮想通貨の金融規制が未整備のためグレーです。Coinbaseはこの件で従業員のインサイダー取引はなかったと結論付けましたが、仮想通貨市場が成熟するまでの過渡期に、組織内部の統制の難しさが浮き彫りになった事件だったことは間違いなさそうです。

Coinbaseのユーザー数(上)とビットコイン価格相場(下)


仮想通貨バブルの中、企業の内外で難しい局面にぶち当たったCoinbaseでしたが、投資家からの信頼は揺るぐことなく、2017年8月にアームストロングCEOは1億ドル(約110億円)の調達に成功し、企業価値18億ドル(約2000億円)の評価を得て、仮想通貨企業のリーディングカンパニーとしての地位を築きました。

出資を得たアームストロングCEOは、顧客サービスの混乱を鎮めるために、Twitterからティナ・バトナガー氏を、HPからアスティフ・ヒジ氏を招くなど、人材の強化に努めており、従業員数は約1000人と2016年から倍増させるなど、足場固めを進めています。アームストロングCEOは「CEOは軍の将軍でなければならないと思っていました。しかし、私のリーダーシップは、それよりは少しだけ協調的です。正しくあろうとするのではなく、真実を追求するということです。本当の自分ではない何かになろうとするべきではない、と思います。それは最低のリーダーシップでしょう」と述べています。

相場が乱高下するのが当たり前の仮想通貨市場においても、狂乱の2017年が過ぎると、ビットコインをはじめとする仮想通貨の相場は低調に推移しています。これは、取引価格に応じて1.99%の手数料を徴収するビジネスモデルのCoinbaseにとって収益の悪化を意味しています。調査会社のDiarによると、Coinbaseの取引額は2018年1月に200億ドル(約2兆2000億円)だったのが夏には50億ドル(約5500億円)以下にまで減少しているとのこと。また、eToroのようなより低廉な手数料をうたう新しい仮想通貨サービスが次々と現れる中で、仮想通貨取引所の競争は厳しさを増しています。

そこで、Coinbaseは仮想通貨取引だけでなく、資産をブロックチェーンベースのトークンにして管理し取引する「セキュリティ・トークン」として知られる新しい金融分野に取り組んでいます。具体的には、不動産や美術品、さらには非公開企業まで、流動性が低く高価なものを分割して売買できるというもので、規模がとてつもなく大きく、将来有望な市場だと考えられています。

PayPalの元COOでベンチャーキャピタリストのデビッド・サックス氏は、セキュリティトークンの市場例としてアメリカの不動産市場を挙げ、市場規模は7兆ドル(約770兆円)だと見積もっています。「これは、所有権システムがアナログからデジタルになるようなものです。現在、契約書や機密情報は紙の束としてファイルキャビネットに収まっています。トークンはそれらをデジタル化するものです」とブロックチェーンで実現するセキュリティ・トークンを表現しています。

しかし、セキュリティ・トークンがいかに有望な市場とはいえ、それを切り開くための難度も高めです。それは、1994年の時点でインターネットの価値を説くようなもの。20年前に「ブラウザ」「アプリケーション」などの新しい用語に多くの人が困惑していたのと同じように、2018年にブロックチェーン技術の革新性を訴えるには、誰もが理解できる形でかみ砕いて説明する人物が必要です。Coinbaseではバラジ・スリンビバサンCTOがその役目を担っているとのこと。


Coinbaseなどの技術のある新興企業が台頭し、大手銀行の事業を浸食し始めていますが、既存の銀行側も黙って手をこまねいているわけではありません。JPモルガン・チェースやCitiグループのような金融大手は、独自のブロックチェーン・プロジェクトに投資をしており、フィンテックをめぐる競争は激しくなりつつあります。

暗号取引技術に排他的な独占はありえず、技術的に他者を上回ることでのみユーザーの支持を集められ、市場をリードできるもの。Coinbaseは来るべき巨大な暗号技術市場の誕生を見据えて「Coinbase Wallet」アプリを開発中で、「これから5年間に10億人の人々に暗号技術を使ってもらいたいと真剣に望んでいます」と、アームストロングCEOは野心的な目標を公言しています。

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