Bitcoinの草創期メンバーが仮想通貨に抱いた「夢」とは?

By Tiger Pixel

2013年は仮想通貨「Bitcoin(ビットコイン)」にとって激動の1年でした。ビットコインを決済通貨としていた違法薬物取引サイト・シルクロードの崩壊、年初来100倍を越える取引価格の高騰と大暴落、ロシアなど一部の国での規制強化、そしてかつて世界全体の7割を越えるビットコイン取引を誇った世界最大の取引所Mt.Gox(マウントゴックス)の倒産と、ビットコインを取り巻く状況はめまぐるしく移り変わり、世間の注目を集めることになった1年だったと言えます。そんな激動の1年から遡ることわずかに4年。ビットコイン草創期は、現在とは比較にならないほど牧歌的で、「夢」にあふれた世界でした。

The Early Days of Bitcoin
http://priceonomics.com/the-early-days-of-bitcoin/

データ分析会社Priceonomicsは、ビットコインの草創期を知る3人の人物から、ビットコインとの関わりで得たビットコインに対する思いを詳細に聞き取り、その内容をまとめています。この3人とは、アンドリュー・バドル氏、アンドレイ・ペトロフ氏、アンドリュー・ホワイト氏で、いずれもインターネット関連企業で働いた経験を持つ、プログラミングに明るい人物でした。

バドル氏は、2011年にHacker Newsでビットコインの存在を知りました。バドル氏は中本哲史が提唱するビットコインの世界観に衝撃を受けた世界中に散らばっていたプログラマの一人で、ビットコインを知った直後は興奮のあまり眠れない日々を過ごしたとのこと。「ビットコインについて、毎日毎日サイトをあさり、むさぼるように読み返しました。けれど、誰もビットコインの仕組みを完全には理解していませんでした」とバドル氏は話しています。

「ビットコインからはLinux以来の衝撃を受けました」と話すのはホワイト氏。ビットコインの存在を知ったホワイト氏は、他のプログラマと同様に暗号化技術に関する本を多く読み込んだとのこと。「40冊から50冊は読んだかな」と話すホワイト氏は、草創期のビットコインコミュニティにいたのは、純粋な技術を愛する技術者が大半を占めていて、みな、独自にビットコインとその仕組みを研究していたとのこと。

同じくビットコイン草創期のコミュニティメンバーであったペトロフ氏は、「ビットコインは最終的にインターネットの世界を統一する共通通貨になるかもしれない」と感じたとのこと。「草創期のビットコインコミュニティのメンバーは、今のようにビットコインをカジュアルには扱っていませんでした。愛読書は(pdf)中本哲史論文で、みんな何度も何度も読み返していたのです」とペトロフ氏は語ります。

3人が共通して話すのは、「初期のメンバーは、ビットコインがリベラルな世界を実現する潜在能力を持つことに魅了されていた」ということ。中本哲史がビットコイン論文内で、「ビットコインの決済手数料の低廉さを強調していましたが、世界中のメンバーはそのことを重視していませんでした。それよりもビットコインが持つより多くの可能性に対して魅力を感じていたのです」とバドル氏は語ります。

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しかし、ビットコイン草創期のメンバーの中には、ビットコインの持つ技術的・思想的革新性に惹かれるのではなく、「投機対象」としてビットコインにハマったメンバーもいたとのこと。「投機性に魅力を感じたのが、Mt.Goxのカルプレス氏であり、Coinbaseその他のビットコイン取引所を設立した人たちです」とホワイト氏は話します。ペトロフ氏は「彼らの関心は、いかに安く買い、高く売り抜けるかで、それに時間を費やしていた」と苦々しく感じていたことを明らかにしています。

ビットコイン草創期のコミュニティメンバーの大半は、ビットコインを「投機対象」としてではなく「ネット世界の共通通貨」になることを夢見ていたため、ビットコイン取引に前のめりになる人たちと時に衝突することもあったとのこと。ビットコインに「夢」を見るメンバーたちは、「『ビットコインのPaypal』と称されるCoinbaseは、ユーザーのビットコインを管理・保有している。これは中央集権的な支配構造を持たせないというビットコインの理念を裏切る行為だ」と糾弾していたといいます。

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ペトロフ氏は、「ビットコインの草創期の大半のメンバーは技術的な貢献をしました。致命的なセキュリティホールが2010年にケアされたように。しかし、技術者たちがビットコインを売り込む術を欠いていたのは事実です。スティーブ・ウォズニアックのそばにはスティーブ・ジョブズがいましたが、中本哲史の横にはジョブズのような存在がなかったのは事実です」と話し、また、ホワイト氏は「ビットコインの素晴らしさを他人に伝えるのが難しかったのです。みんなマイニングのプロセスを説明するのに苦労していました。知人と話す『共通言語』を欠いていたのです」と話しています。

もっとも、3者共に「テクノロジーは政治から逃れられない存在である」ということは分かっていたと話しており、ビットコインに「ネット世界の共通通貨を作るという夢」を重ねるメンバーは、その理念の素晴らしさを布教していき、経済性に魅力を感じたメンバーは、ビットコインをより使いやすく、身近な存在にするべくサービスを進化させていったと言え、考え方の違いはあれど、今日のビットコインのブレイクを支えたことは間違いないと考えています。

さらに、ビットコインの地位をより強固にしたのは違法薬物や違法行為サービスの仲介サイト「シルクロード」でした。シルクロードではビットコインの強固な暗号技術と匿名性のおかげで、半ば決済通貨としてビットコインが採用された状態でした。ホワイト氏は「ビットコインの初期メンバーはこのことをよしとはしていないが、シルクロードがビットコインの経済的普及のエンジンとなったのは確かです」とシルクロードの果たした役割を認めています。

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「ビットコインの草創期を支えたメンバーはビットコインで一儲けしたのではないか?」という誰もが抱く疑問については、意外にも億万長者になった人はほとんどいないとのこと。バドル氏はビットコインを数ヶ月研究した後に投資することに決めたそうで、購入時の取引価格は1BTCあたり10ドル(約1030円)だったとのこと。しかしその後、ビットコイン価格は暴落したそうで、それでもパニック売りはしなかったとバドル氏は話します。「長期保有が目的だったので暴落しても売ろうとは思いませんでした。1BTCが100ドル(約1万300円)に達したときに、10%ずつ売りを開始しました。ボーナスにはなりましたが、とても退職金代わりにはなりませんでした」と笑いながら話したとのこと。ビットコインを所有する理由は、「未来に参加している実感を得られるから」だとバドル氏は語っています。

「初期メンバーはみな、そんなに稼いでいないはずです。みんなビットコインを投資対象ではなく『未来の通貨』として見ていたのです」と話すホワイト氏は、マイニングを共同で行うプールチームに参加して、他のメンバーと共同で月500BTCのビットコインを掘り起こしていたとのこと。しかし、当時のビットコイン価格は1BTCが5ドル(約510円)で、電気代もまかなえなかったそうです。

ペトロフ氏は、ビットコインに関するイラストを描いて、他のメンバーからビットコインを譲り受けていたのこと。「私はギャンブラーではないので。絵を描いてビットコインを手に入れていましたが、それで十分満足のいくビットコイン体験ができていた」とペトロフ氏は語ります。

ペトロフ氏の作品。


2010年、フロリダの男性がピザ2枚を1万BTCと引き替えたのが世界で初めてのビットコイン取引だと言われています。現在の市場価値では数億円に相当する金額でピザを買ったことになるのですが、その男性はマイニングでゲットしたビットコインでピザを買えたことを「信じられないほどクールな体験だ」と話したとのこと。ビットコイン草創期を支えたメンバーは、経済的な魅了ではなくビットコインに「未来」を感じ、大金よりももっと素晴らしい体験を得たため、億万長者になれなかったことを誰も後悔していないのではないかと、3人は考えています。

ビットコイン草創期からわずか数年を経た2013年、ビットコインは1BTCあたり最高1200ドル(約12万3000円)にまで市場価格が高騰し、巨大市場の中国での本格規制をきっかけにビットコインバブルがはじけ、半値以下に大暴落することになります。そして、2014年2月末に起こった大手取引所Mt.Goxの破綻によって、ビットコイン市場は大きく揺さぶられ、中には「これでビットコインは終わりだろう」という人も見受けられるようになります。

確かにMt.Goxの破綻劇は、ビットコインを含むすべてのデジタル通貨が抱える「もろさ」を露呈したと言えます。しかし、Mt.Goxのビットコイン市場からの退場を肯定的に捉える向きもあります。すなわち、ずさんな管理やセキュリティに問題を抱えるなどの「劣ったサービス」が消滅していくことによって、優れたサービスだけが生き残り、ビットコイン市場がより成熟し安定的に運用されるという期待です。事実、ビットコインの取引市場はMt.Goxの破産によっても取引価格は乱高下せず、ビットコインの価値を冷静に受け止めていると考えられます。


特に、Mt.Goxを除いた主要な取引所(CoinDesk・Bitstamp・Bitfinx・BTC-e)のビットコイン取引価格がほとんど同じ値を取っているという事実が、ビットコインの浸透性とビットコイン市場の成熟性を如実に語っています。


ビットコインの将来性については誰も確信を抱くことができないのが現状です。ビットコインが今後も価値を維持できるのかは予断を許さないのは間違いのないところ。この点では、ビットコイン草創期のメンバーが感じていたビットコインの危うさは依然として残っていそうです。ホワイト氏は「ビットコインが生き残っていくのか誰にも分かりませんでした。半年後に存在しているかどうかさえわからなかったのです」と語ったころと状況は何も変わっていないのかもしれません。

しかし、ビットコインに「未来の通貨」という夢を抱く人の数は当時よりも確実に増えているのも事実です。ペトロフ氏は、現状のビットコインについて聞かれると、「ビットコインの価値は当時からは信じられないほど高くなりました。けれど、ビットコインが面白い実験の場であるのは今も変わりません。とても『大切なもの』は生まれたばかりなのです」と語っています。

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