サイエンス

世界初の2次元素材であるグラフェンは3次元素材でもあるとの研究結果


「夢の素材」と呼ばれるグラフェンは、原子1つ分の厚さしかない炭素原子のシートなので、しばしば「世界初の2次元物質」だとも呼ばれています。そんなグラフェンの研究により、実はグラフェンは3次元的な特性も兼ね備えていることが突き止められました。

3D strain in 2D materials: Experimental test in unsupported monolayer graphene under pressure
(PDFファイル)https://arxiv.org/pdf/1902.02651.pdf

Graphene is 3-D as well as 2-D
https://phys.org/news/2019-09-graphene-d.html

グラフェンとは、炭素原子が六角形に結合したハニカム構造をしたシートで、透明で柔らかいのにダイヤモンドより強く、熱伝導性や電気伝導性もあらゆる材質の中でトップクラスに高いという性質があります。そのため、バッテリーの容量コンクリートの強度を倍にしたり、極薄の有機ELディスプレイの素材や海水を淡水にできるフィルターといったさまざまな用途での応用が期待されているほか、近年では折れた骨の代わりや、蚊を防ぐバリアとしての用途も見いだされており、グラフェンはまさに無限の可能性を持つ「夢の素材」だといえます。

by UCL Mathematical & Physical Sciences

そんなグラフェンに関する研究を行っていたロンドン大学クイーン・メアリー校のYiwei Sun教授らの研究グループは、グラフェンとグラフェンが層状に重なった構造を持つ黒鉛(グラファイト)に圧力をかけて、ひずみの大きさから固さを調べる実験を行っていました。この実験では、「同じ圧力下ではグラファイトよりグラフェンの方が固い」という結果となりましたが、これは理論的に導出された予測に反するものでした。そこで研究グループは「グラフェンが圧力を測定する基盤に貼り付いてしまい、実際よりも固いという結果になってしまったのではないか」と推測しました。

上記の推測をもとにSun教授らは、加熱によりゲル化したアクリル樹脂に試料を混ぜて、固定されていない状態の物体を光学的に分析する「高圧ラマン散乱測定(high pressure Raman measurements)」を行って高圧下におけるグラフェンの振る舞いを調べました。その結果、グラフェンとグラファイトはほぼ同じ固さになることが確かめられたとのこと。しかし、ここで「厚さが原子1つ分しかないはずのグラフェンが圧力でひずんだグラファイトと同じになるのはおかしい」という新たな疑問が生まれました。

by Santosh Gawde

原子は実際にはボールのような粒ではなく、原子核の周りを電子が雲のように覆っている不定型な物体なので、定規などで「厳密な厚さ」を計算することはできません。一方で、グラフェンが100層重なったグラファイトの厚さは測定が可能なので、グラフェン100層から成るグラファイトの厚さを100で割ればグラフェンの厚さを計算することが可能です。研究グループによると、こうして算出されたグラフェンの厚さ、つまり炭素原子1つの直径は約0.34nmということになるとのこと。また、別のアプローチでは、ひずみと応力の比例定数であるヤング率と熱伝導率から厚さを計算することが可能で、その場合の厚さは0.066nmにまで縮みます。しかし、Sun教授は「いずれの方法で割り出した厚みもグラフェンのひずみにより発生した厚さの変化を説明することはできない」と述べています。

このことから、Sun教授は「グラフェンは炭素原子が平面的に結合しているのではなく、上下方向に突き出た構造の分だけの厚みがある」と推測。非常に薄いながらも、グラフェンは2次元ではなく3次元的な構造を持っていると結論しました。また、「同じことがグラフェンと同様に2次元素材だといわれている二硫化モリブデン窒化ホウ素にもあてはまると思われます。そういう意味では、これまで2次元素材だといわれてきたものはみな3次元素材だというわけです」と述べて、ナノスケールの世界ではグラフェンでさえ3次元的な厚みを持った存在なのだとの見方を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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