蚊に刺されないためにグラフェン製のシートが有効であると判明
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グラフェンは炭素原子が六角形の格子構造をとったシート状の物質であり、電子機器や太陽電池などへの利用が可能と目されています。そんなグラフェン製のシートを服の裏地に使用することで、「蚊」に刺されることを防げると、ブラウン大学の研究チームが発見しました。
Mosquito bite prevention through graphene barrier layers | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2019/08/20/1906612116
Mosquito incognito: Could graphene-lined clothing prevent mosquito bites? | Brown University
https://www.brown.edu/news/2019-08-26/moquitoes
ブラウン大学の工学教授であるロバート・ハート氏は、「蚊は世界中で病気を媒介する動物であり、化学物質を使わずに蚊に刺されないようにする方法について大きな関心が寄せられています」と述べています。ハート氏らはグラフェンを衣服の生地に折り込むことにより、有害な化学物質から身を守る方法について研究を行っていましたが、やがて「グラフェンを使って蚊に刺されないようにできるのではないか?」と考え、新たな実験を始めたとのこと。
研究チームは「グラフェンの強固な構造が肌を蚊の針から守る」という仮説を立て、「蚊に刺されても構わない」という被験者を集めました。参加者は腕の肌を一部分だけ露出させ、「素肌のまま」「漂白した綿布を露出部分にかぶせた状態」「綿布の上からさらに極薄の酸化グラフェン(GO)シートをかぶせた状態」の3パターンで、実験室内で繁殖させた蚊がいるケースに入れました。
実験の最後に参加者の腕がどれほど蚊に刺されたかをチェックしたところ、露出した肌や綿布で覆われた肌は蚊にたくさん刺されたのに対し、酸化グラフェンのシートで覆われた腕は一度も蚊に刺されませんでした。しかし、さらに驚くべき現象として研究チームが指摘しているのは、「酸化グラフェンのシートで腕を覆った場合、そもそも蚊がシートの上に寄ってこなかった」という点です。
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ブラウン大学の博士課程に在籍し、論文の主著者であるCintia Castillho氏は、「酸化グラフェンシートありの状態では、蚊が腕のパッチに着地すらしませんでした。蚊は全くケースに入ってきた腕を気にしませんでした」「私たちは酸化グラフェンを蚊に対する物理的バリアとして考えていました。しかし実験の結果を見て、酸化グラフェンは蚊がターゲットの存在を感知することを妨げる、化学的バリアとして機能するのではないかと考え始めました」と述べています。
そして、研究チームは酸化グラフェンが化学的バリアとして機能することを確かめるため、今度は酸化グラフェンシートの外側に人間の汗を塗り、再び蚊の入ったケースに腕を入れました。すると、蚊は素肌や綿布で覆った場合と同じように、腕に着地して刺そうとしてきたそうです。このことから、酸化グラフェンは蚊を引き寄せる化学的物質が外部に漏れるのを防ぎ、蚊に対する化学的バリアとして機能すると推測されているとのこと。
なお、酸化グラフェンのシートが蚊の針に対して物理的バリアとして働くのは、シートが乾燥している場合に限るそうで、酸化グラフェンのシートが濡れていると蚊が刺すことができてしまう模様。酸素含有量を減らした還元型酸化グラフェン(rGO)を使えば、濡れた状態でも蚊の針を通さないものの、衣服として利用した場合には通気性に欠けるそうです。そのため、研究チームは酸化グラフェンをより安定させ、濡れた状態でも蚊の針が貫通しないようにすることを目標としています。
ハート氏は、「酸化グラフェンを機械的に安定化させる方法を見つけ、濡れたままでも物理的バリアとして強いままにすることが望ましいです。この新たなステップが、通気性を維持したまま蚊に刺されないという完全なメリットをもたらします」とコメント。研究チームは適切に設計された酸化グラフェンのシートを衣服の裏地に使うことで、蚊から防護する服を作ることができると述べました。
by UCL Mathematical & Physical Sciences
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