嘘発見器が信頼できないにも関わらず使用され続けた理由とは?
「ポリグラフ検査」は、生体データの測定値から被験者が特定の事実を知っているかを鑑別する検査で、かつては「嘘発見器」として使われていました。そんなポリグラフ検査が「信頼できない」とされながらも利用されてきた経緯をアメリカのサギノーバレー州立大学歴史学科ジョン・バエスラー教授がつづっています。
Why Lie Detector Tests Can't Be Trusted | Innovation | Smithsonian
https://www.smithsonianmag.com/innovation/why-lie-detector-tests-cant-be-trusted-180972724/
バエスラー教授がポリグラフ検査の歴史を理解するための例として挙げたのが、フランシス・ゲーリー・パワーズのU-2撃墜事件です。パワーズはCIAのU-2偵察機でソビエト連邦上空から軍事施設などの重要拠点を偵察するという任務を負っていましたが、1960年5月1日、ソ連防空軍の地対空ミサイルによって撃墜されます。パワーズはパラシュートで無事に降下しましたが、地元住民に救出された際にスパイであることが露見してしまいます。
パワーズはそのままソ連で公開裁判にかけられ、スパイ行為を自白。禁固10年を言い渡されてシベリアに送られますが、約2年後の1962年2月にアメリカで逮捕されたKGB大佐と交換する形で釈放され、アメリカに帰国します。
帰国したパワーズを待ち受けていたのは、逮捕時に航空写真のフィルムやU-2偵察機の機密部品を処分していなかったことによる国民からの非難です。また、撃墜直前のU-2偵察機からの信号が、規定よりも低い高度で飛行していたことを示していたことから、「ミサイルに撃墜されたのは低い高度を飛行していたのが原因なのでは?」という疑惑が浮上します。パワーズはこの疑惑を否定し、冷戦のさなかにスパイ行為が露見してしまったCIAもパワーズが無実であると主張しました。
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CIAのジョン・マコーン長官は連邦裁判官の協力のもと査問委員会を設置。パワーズには医療検査、経歴調査、尋問、そしてポリグラフ検査が課されました。査問委員会が公開した文書によると、「パワーズはポリグラフ検査を嫌っていたが、身の潔白を証明するために自ら進んで検査を受けた。専門家主導のもと行われたポリグラフ検査の結果によると、パワーズが真実を言わなかったという兆候は何も見られなかった」と記されていたとのこと。このポリグラフ検査の結果によって、パワーズは立派に職責を果たしたアメリカ軍人だと改めて認められたわけです。
一方で、パワーズ自身による証言は異なります。パワーズによると、尋問担当者が自身の証言を信じない態度をとり続けたため、「そんなにも私の証言を信じないというのならば、喜んで嘘発見器のテストを受けてやるよ!」と怒りを爆発させたそうです。そんなパワーズに対して尋問官は「そんなに言うのなら、あなたが行った全ての証言に嘘発見器を使わせてもらう」と返し、パワーズは「罠に掛かった」と感じたとのこと。
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バエスラー教授は、CIAのパワーズに対する調査の結論とパワーズ自身の証言に食い違いがあることから、ポリグラフ検査は「嘘をついているのか、ついていないのか」を科学的に解明するものというよりも、「ポリグラフ検査に合格した人は無実だ」と国民に納得してもらうための装置として使われていたと結論づけています。
バエスラー教授によると、このことはポリグラフ検査に対するCIAの動きによっても示されているとのこと。CIAは1947年の創設直後から内部調査のためにポリグラフ検査を多用してきましたが、1974年には内部調査のためのポリグラフ検査を廃止。一方で、CIAは対外的にはポリグラフ検査の重要性を主張し続けており、1980年にはCIA安全委員会長官の「30年間以上にもわたる使用歴から、ポリグラフ検査の効能は実証されている」という発言が残されているそうです。
冷戦時代、ポリグラフ検査はスパイを見つけ出すためにも使われていました。しかし、ソ連国家保安委員会(KGB)の協力者だったCIA工作員オルドリッチ・エイムズは、1986年と1991年にそれぞれポリグラフ検査を受けて「疑わしい」という結果が出たものの身内に甘いCIAの体質ゆえにそのまま流され、逮捕されたのはCIAとFBIによる徹底的な調査を経た1994年だったことが知られており、バエスラー教授は「共産主義者のスパイがポリグラフ検査で発見されたことはない」と述べています。
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