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名作ステルスアクション「メタルギアソリッド」のシナリオ翻訳の裏側を翻訳者自らが語る


1998年にコナミからPlayStation向けに発売されたステルスアクションゲーム「メタルギアソリッド」は、3Dで構成されたマップと高いアクション性だけでなく、近未来を舞台にしながら現実の延長線上にあるように感じられる世界観、ハードな物語展開で世界中から高い評価を受けました。そんな「メタルギアソリッド」のPlayStation版シナリオを英訳したジェレミー・ブロイスタイン氏が、翻訳作業の舞台裏をゲーム系メディアのPolygonで語っています。

The bizarre, true story of Metal Gear Solid’s English translation - Polygon
https://www.polygon.com/2019/7/18/20696081/metal-gear-solid-translation-japanese-english-jeremy-blaustein


メタルギアソリッドは、MSX向けに発売されたステルスアクションゲーム「メタルギア」「メタルギア2 ソリッドスネーク」に続くシリーズ第3作目。前2作と同じくゲームデザイナーの小島秀夫氏が開発を率いています。小島氏の代表作である「スナッチャー」「ポリスノーツ」と同じく、メタルギアソリッドは映画的な演出が積極的に取り入れられたゲームになっていて、ゲーム中のセリフ量も当時としては膨大なものでした。

以下のムービーは、MSX2で発売されたスナッチャーのオープニングです。

Snatcher (MSX2) - Opening - YouTube


ブロイスタイン氏はもともとイーオンの英会話教師として日本にやってきたそうですが、コナミの魂斗羅シリーズが好きだったことと、兄弟がコナミのシカゴ支社で働いていた関係で、1993年から1995年までの2年間、東京にあるコナミの本社で働いていたとのこと。所属していた部署はわずか15人ほどの小さな部門で、営業部門と法務部門の間で書類仕事に追われていたとのこと。その時に小島秀夫氏と知り合ったそうです。


ブロイスタイン氏は、休憩時間に社内の喫煙室で休憩しながら、他部署のさまざまな人と出会い、会話をしていたとのこと。ブロイスタイン氏は、「特定の指示や仕事がない限り、他の社員のデスクで雑談をしたり相談をしたりしない」ということが暗黙のルールとなっているのは日本の風変わりな文化だと述べています。実際、オフィス自体には社員同士の相乗効果はなかったものの、喫煙室の会話がきっかけとなって、開発部門にゲームの感想を求められたり、ゲームやアニメの翻訳を頼まれたりすることがあったそうです。

そして、1994年にメガドライブ向けで発売された「魂斗羅 ザ・ハードコア」のナレーション監修も担当したブロイスタイン氏は、ある日「スナッチャー」のセガCD版の翻訳作業を担当することになったとのこと。この仕事はブロイスタイン氏にとってはかなりお気に入りなようで、受け取った翻訳を修正したり、わざわざシカゴまで出張してセリフ収録の監督を行ったりしたそうです。

1995年にコナミを退職後、ブロイスタイン氏はマサチューセッツ州に移住し、ゲームやアニメの翻訳業を行いながら家族と暮らしていたとのこと。この時期には「悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲」の翻訳にも携わっていて、ブロイスタイン氏は「翻訳とはどういう作業なのか?」を改めて学んだそうです。そして、同時期にブロイスタイン氏のもとに小島氏から「メタルギアソリッドの翻訳を担当してほしい」という依頼が飛び込んできたそうです。

ブロイスタイン氏が受け取ったメタルギアソリッドの脚本はあまりにも膨大なもの。しかも、その内容は小島氏が行った山のような研究と取材に基づいていて、実在する銃の名前、アメリカが核兵器を収納している場所、冷戦の背景、アラスカ先住民の歴史などが詰まっていました。

以下は、PlayStation版「メタルギアソリッド」英語版の冒頭で流れるムービー。

Metal Gear Solid (PS1) Start Up & Intro HD - YouTube


当時はまだインターネットが当たり前ではなく、YouTubeもWikipediaもなく、小島氏が目を通したであろう日本語書籍も英訳されているものはほとんど存在しませんでした。およそ6カ月という納期で翻訳を行うにもそういった知識を全く持ち合わせていなかったというブロイスタイン氏は、さまざまな文献や映画に触れて学んでから翻訳にあたったとのこと。

翻訳作業はストーリーに沿って行われました。ムービーを多用して映画的演出を積極的に取り入れたメタルギアソリッドでは実際に声優がセリフを吹き替えるので、単に日本語の文章を英語に翻訳するだけではなく、カットシーンの長さに合わせてセリフの長さを調整する必要がありました。ブロイスタイン氏は、日本から送られてきたムービーのVHSテープを再生しながら、全く文法が異なる言語でニュアンスをできる限り損なわずにセリフを書き直すという翻訳作業を地道に続けていったとのこと。

例えば、スネークの「(俺は)戦場でしか自分の意味を見出せない男だ」というセリフは、PlayStation版では「I’m just a man who’s good at what he does. Killing.(俺はただ仕事が得意な男だ。殺しだ)」と英訳されています。ただし、2004年にゲームキューブで発売されたメタルギアソリッドのリメイク作品である「メタルギアソリッド ザ・ツインスネークス」では、「I’m just a guy who can only find meaning on the battlefield.(俺はただ戦場にしか意味を見いだせない男だ)」と日本語のセリフに忠実な訳となっています。

また、途中で立ちはだかる超能力者サイコ・マンティスの「力を誰かの為に使ったのは……これが初めてだ。妙だ、懐かしい……感覚が……する……」という最期のセリフでも、ブロイスタイン氏による翻訳とゲームキューブ版での翻訳に違いがあります。サイコ・マンティスとの戦いと会話は以下のムービーで見ることができます。

Metal Gear Solid: Psycho Mantis Boss Fight - YouTube


ブロイスタイン氏が担当したPlayStation版では、サイコマンティスのセリフは「This is the first time … I’ve ever used my power to help someone. It’s strange … it feels … kind of … nice.(力を誰かの為に使ったのは……これが初めてだ。妙だ……なんだか……いい……気持ちだ……)」となっています。一方で、ゲームキューブ版では「This is the first time … I’ve ever used my power to help someone. It’s strange … such a … nostalgic feeling.(力を誰かの為に使ったのは……これが初めてだ。妙だ、懐かしい……感覚が……する……)」と、日本語表現に忠実な訳となっています。ブロイスタイン氏によると、日本語では「懐かしい気持ち」という表現はあっても、英語圏において自分の感情について「懐かしさを感じている」と表現することはまずないため、niceという表現に変更したとのこと。


このように、ブロイスタイン氏はメタルギアソリッドのキャラクターが持つ背景と性格の理解を深め、英語圏のプレイヤーにもキャラクターの性格や魅力が違和感なく伝えようという意志のもとで翻訳作業を行っていたとのこと。実際にアメリカでセリフの録音を行った時は小島氏からの反応は良好だったそうです。

メタルギアソリッドが発売されておよそ9カ月後、VRミッションなど一部要素を追加した「メタルギアソリッド インテグラル」が発売されました。このメタルギアソリッド インテグラルでは、ムービー・無線の音声がすべて英語に変更され、字幕は日本語と英語の両者を選べるようになりました。当時のゲームとしては言語が選べる機能は画期的なものでしたが、これによって日本語と英語でセリフに違いが生まれていたことが発覚。当時は日本語と英語の文章がゲーム内で全く違うものになっているのはよくあることだったそうですが、日本語と英語を同時にチェックできるようになったために、セリフの差が浮き彫りになってしまったというわけです。

ブロイスタイン氏が聞いたところによると、その頃から小島氏の耳に「メタルギアソリッドの翻訳がひどい」という評判が届き始めたそうです。「彼はバイリンガルではなかったので、『ローカリゼーション』の必要性を十分に理解していなかったのかもしれませんが、彼は忠実に翻訳されなかったことが不満だったようです」とブロイスタイン氏。この結果、これ以降発売される「メタルギア」シリーズの英訳はすべてオリジナルの日本語台本に忠実かどうかが厳しくチェックされるようになり、ブロイスタイン氏が「メタルギア」シリーズの翻訳に関わることもなくなったそうです。

ブロイスタイン氏は、フランスの評論家であるポール・ヴァレリーの「翻訳において、意味だけを忠実に表現することは一種の裏切りである」という言葉を引用し、「メタルギアソリッドの翻訳は、将来につながる仕事を失うことにはなったものの、かなりいい仕事をしたに違いないと思っています」と語りました。

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in 動画,   ゲーム, Posted by log1i_yk

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