サイエンス

なぜ植物はがんで死ぬことが少ないのか?

by Valiphotos

放射線は生物にとって有害であり、人間が放射線にさらされて被ばくしてしまった場合には、強度によって死に至ることも少なくありません。しかし、植物は動物と比較して放射線の影響を受けにくいことが知られており、「なぜ植物は放射線の影響を受けにくいのか?」という疑問について、ウェストミンスター大学の上級講師であるスチュアート・トンプソン氏が解説しています。

Why plants don't die from cancer
https://theconversation.com/why-plants-dont-die-from-cancer-119184

チェルノブイリ原子力発電所事故は世界最悪の原子力発電所事故の一つであり、2600キロ平方メートルもの立入禁止区域が設けられるなど、多くの被害を出しました。ところがそんなチェルノブイリ原発の立入禁止区域は事実上の「自然保護区」になっており、オオカミなどの野生動物が多く生息しています。また、そもそも植物はチェルノブイリ原発事故によって死滅せず、最も放射線の被害が大きかった地域でさえ、わずか3年以内に植生が回復したとのこと。

なぜ植物が放射線の被害を受けにくいのかという疑問に答えるには、原子炉から放出される放射線が生きている細胞に対し、どのような影響を与えるのかを理解する必要があるとトンプソン氏は述べています。放射性物質は高エネルギーの粒子と電磁波を絶えず放出する非常に不安定な存在で、動物や植物の細胞構造を破壊します。細胞の大部分は損傷を受けても回復しますが、生物の遺伝情報を担うDNAは例外であり、放射線の影響でDNAが損傷するとがんを発症したり、放射線量が高ければ即座に死んでしまいます。

動物にとってDNAの損傷が致命的になるのは、「動物の細胞や体の構造は高度に特殊化されていて柔軟性がないため」だそうです。動物にはそれぞれ違う役割を持つ多くの細胞や器官が存在し、それらが相互に協力しなければ生命を保つことができません。動物の体は非常に複雑な機械のようなもので、脳や心臓、肺など、どれか一つの器官が失われてしまうと死んでしまいます。

by 12019

一方で、植物は動物と比較してはるかに柔軟で有機的な生長を遂げています。植物は自ら動くことができないため、周囲の環境に適応して生長せざるを得ず、動物のように最初から体の構造が全て定義されているわけではありません。同じ種類であっても土壌の状態や気候、他の植物の影響によってより深い根を張ったり、茎を伸ばしたり、葉の茂らせ方に違いが出たりと、体の構造を高い自由度で変化させることができます。

トンプソン氏によると、動物細胞とは異なって植物細胞は新たに必要な細胞を自由に作り出せるとのこと。庭師が植物の茎や新芽などを植えることで、新たにその場所から植物を生長させることができるのは、植物が自分の置かれた状況に即して必要な根、あるいは茎、葉といった器官を作り出す能力によるものだそうです。こうした植物が持つ能力によって、放射線によって細胞が損傷しても、あるいは動物などによって茎や葉を傷つけられても、植物が死ぬことなく新たに生長し続けられるとトンプソン氏は述べています。

また、放射線はがんを作り出すことがありますが、植物においてがんの転移は植物細胞が持つ細胞壁によって阻まれているとのこと。そのため、突然変異したがん細胞が広範囲に広がって致命的な機能不全をもたらすこともなく、植物は放射線被害の大きい場所でも生き延びることができる模様。

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さらに興味深いことに、チェルノブイリの立入禁止区域に生えているいくつかの植物は、分子的な側面でもDNAを保護するメカニズムを身に付けているとのこと。これは高濃度の放射線に適応した結果だと考えられており、トンプソン氏は「過去の地球は現在よりも非常に放射線量が高かったので、チェルノブイリの立入禁止区域にある植物は生存のため、はるか昔の時代にさかのぼった能力を利用しているのかもしれません」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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