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科学論文を出版するエルゼビアとの購読契約を完全に打ち切ったとカリフォルニア大学が発表

by congerdesign

世界最大の科学出版社であるエルゼビアによって出版された学術誌の購読を完全にやめるとカリフォルニア大学が発表しました。カリフォルニア大学は大学に所属する研究者が発表した論文を全ての人に対して無償公開することを要求しましたが、エルゼビアが条件として大学側にさらなる料金を要求したために交渉が決裂したとのことです。

UC terminates subscriptions with world’s largest scientific publisher in push for open access to publicly funded research | University of California
https://www.universityofcalifornia.edu/press-room/uc-terminates-subscriptions-worlds-largest-scientific-publisher-push-open-access-publicly

Huge US institution cancels subscription with Elsevier
https://www.nature.com/articles/d41586-019-00758-x

University of California boycotts publishing giant Elsevier over journal costs and open access | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2019/02/university-california-boycotts-publishing-giant-elsevier-over-journal-costs-and-open

アメリカやヨーロッパの科学論文の多くはエルゼビアを初めとする出版社の有料購読サービス経由で公開されており、これが科学研究の発展を阻害すると共に、出版社が大学や研究所が支払う購読料で膨大な利益を得ていることが、かねてから問題として指摘されてきました。また、カザフスタンの大学院生だったアレクサンドラ・エルバキアン氏は科学論文の海賊版サイト「Sci-Hub」を生み出すことで出版社に対抗。何度も裁判沙汰になり、エルバキアン氏は巨額の賠償金とウェブサイトの閉鎖を命じられるも、国外にいることで賠償金を逃れ、ミラーサイトを次々に作ることでSci-Hubを存続させるということを繰り返しています。

科学論文の海賊版サイト「Sci-Hub」を生み出したアレクサンドラ・エルバキアン氏とは一体どんな人物なのか? - GIGAZINE


近年では、出版社に対抗する動きが大学や研究所、出版社内部など科学コミュニティ全体に広がっています。分野のトップである学術誌の編集者がいっせいにエルゼビアを辞職し……

出版社「エルゼビア」が抱える学術誌の編集者が一斉に辞職、新しくオープンアクセスジャーナルを立ち上げることに - GIGAZINE


大学側が出版社に値下げを要求したり、購読の契約を打ち切る事態も続発しています。

5年で57億円かかるエルゼビアの論文閲覧システムの契約交渉で大学側が値下げを要求 - GIGAZINE


高額すぎる購読料を嫌ってエルゼビアなどとの論文購読契約を打ち切る大学が続出 - GIGAZINE


そんな中、エルゼビアの大口顧客の1つだったカリフォルニア大学が、数カ月に続く交渉の末、エルゼビアとの契約を打ち切ったことを発表しました。

カリフォルニア大学はエルゼビアとの交渉の中で、科学の発展を加速させるために「カリフォルニア大学の10キャンパスの研究者が発表した論文は、無料で全世界に公開すること」を求めたといいます。しかし、エルゼビアの出した条件は、大学に請求する数百万ドルの購読料に加えて、論文著者に出版料を求めるというものであり、交渉は決裂。カリフォルニア大学は2019年2月28日にエルゼビアとの契約を更新しないことを選びました。


カリフォルニア大学はアメリカで出版される論文のおよそ10%を担っています。カリフォルニア大学の大学評議会代表であるRobert May氏は「知識はお金を払うことができる人のみに公開されるべきではありません」「私たちが大学としての使命を果たすためには、フルオープンアクセスへの探求は不可欠です」と声明を発表しています。

Natureのニュースチームに対してエルゼビアはカリフォルニア大学が「エルゼビアのスタンスの特性を評価する上で勘違いをしている」とコメント。カリフォルニア大学は、エルゼビアの提案が「大学に多大なコストを課し、エルゼビアは多くの利益を得るもの」だとしていますが、エルゼビアは無料あるいはオープンアクセスでの論文公開や、大学図書館のコストを削減するための方法を提案したと述べています。「カリフォルニア・デジタル・ライブラリが一方的に交渉を打ち切ったことには失望しており、私たちの間にある溝に架け橋ができることを望んでいます」とエルゼビアはコメントしました。

既にカリフォルニア大学の学生や博士研究員の多くが出版物にアクセスできていないという現状があり、大学と出版社の交渉が決裂して大学がオープンアクセスへの道へ歩み出したことについて、喜びを表す研究者は多くいます。一方で、この交渉がエルゼビアの出版物の質に影響するのではないかと懸念する研究者も。

by klimkin

これまでもエルゼビアの論文購読を部分的に打ち切った大学は存在しましたが、完全に契約を打ち切ったアメリカの機関はカリフォルニア大学が初めてです。カリフォルニア大学は科学出版をオープンアクセスに移行する方法について他機関と話し合っているとのことですが、記事作成時点で研究者はエルゼビアを通す以外の何らかの方法で論文を出版する必要があります。

とはいっても、カリフォルニア大学の研究者はエルゼビアが過去に出版したバックナンバーや、有料化する前の新しい論文にアクセスすることはできます。また、エルゼビアのコンテンツのいくつかはオープンアクセスの出版サービスやオープンアクセスリポジトリ、および「その他の合法的な学術共有」を通じて自由に利用できるとのことです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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