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無料で全ての科学研究を出版日に読めるようにするための構想「プランS」とは?

by DariuszSankowski

科学研究を出版日に無料で読めるようにする協定「cOAlition S」が欧州委員会(EC)と欧州の11の研究助成機関により発表されました。協定を結んだ11カ国の研究助成機関が出資を行った研究のうち、2020年以降に発表される論文は、オープンアクセスジャーナルやオープンアクセスプラットフォームで公開することが求められます。

Accelerating the transition to full and immediate Open Access to scientific publications
(PDFファイル)https://www.scienceeurope.org/wp-content/uploads/2018/09/cOAlitionS_Preamble.pdf

Science Europe – cOAlition S
https://www.scienceeurope.org/coalition-s/

11 EU Nations Just Kicked Off a Plan to Make Public Science Free For All of Us
https://www.sciencealert.com/europe-accelerates-sweeping-overhaul-make-all-science-free-2020-open-access-coalition-plan-s

Radical open-access plan could spell end to journal subscriptions
https://www.nature.com/articles/d41586-018-06178-7

EU and national funders launch plan for free and immediate open access to journals | Science|Business
https://sciencebusiness.net/news/eu-and-national-funders-launch-plan-free-and-immediate-open-access-journals


cOAlition Sは「UK Research and Innovation」「Science Foundation Ireland」「Research Council of Norway」といった公的機関が助成金を受け取っている研究に対し「即時にオープンアクセスが可能で、誰でも自由に論文を再利用したり素材を配布できるライセンスのもと出版すること」を求めるもの。このポリシーは、オーストラリア・フランス・アイルランド・イタリア・ルクセンブルグ・オランダ・ノルウェー・ポーランド・スロヴェニア・スウェーデン・イギリスにおいて、2020年1月から施行される予定です。

cOAlition Sは2018年7月に発表された「(PDFファイル)プランS」の目標を達成するための協定。プランSは、「2020年以降に出版される公的な助成金を受けた研究は、オープンアクセスジャーナルあるいはオープンアクセスプラットフォームで発表されなければならない」ということを1つの原則にしています。

ECのRobert-Jan Smits氏は「研究を公開するための解決策は、資金提供者が握っています。彼らがカギを持っているのです」とScience|Businessの取材に対して答えています。またECの研究・科学・イノベーション担当委員であるCarlos Moedas氏は、プランSを実際の協定として現実世界で影響のあるものとすることで、他の機関でも同じように論文をオープンアクセス可能なプラットフォームで公開する動きが進むとみています。


有料で論文を公開する出版者が、科学研究における情報の流れを悪くしているという指摘はかねてから行われていました。6000万件以上の科学論文を誰でも無料で読めるようにした海賊版サイト「Sci-Hub」が登場するなど、科学研究をよりオープンにしようとする側と、出版者の戦いは依然続いています。

科学論文の海賊版サイト「Sci-Hub」を生み出したアレクサンドラ・エルバキアン氏とは一体どんな人物なのか? - GIGAZINE


Smits氏は「今日のヨーロッパで私たちがすぐに全文アクセスできる論文は20%しかなく、15年前、この数字は『15%』でした。このペースでは『2020年までに公的資金を受けた研究をオープンで無料の状態にする』という目標を達成できません」と語っており、オープンアクセスについて「根本的な後押し」が必要だと考えたことから、cOAlition Sを打ち出したようです。

プランSの元で、出資者は前金の形で出版者に対して「論文掲載加工料」を支払い、論文が永遠に無料でアクセス可能であることを保証するとのこと。出版者側は「オプションでオープンアクセスを提供する」という形ではなく、「完全にオープン」という形を求められます。また、著作権は出版者ではなく筆者に帰属することとなります。

プランSは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が2017年から「出資を受けた論文は『半年や1年先に無料公開される』のではなく、すぐに無料で読める状態にしなければならない」と要求したことに起草を得ています。ビル&メリンダ・ゲイツ財団は2014年にこれまで資金提供してきた研究者の論文を誰でも即時アクセス可能な状態にしており、他にもイギリスの医療研究を支援するチャリティのいくつかでも同じような取り組みが行われています。

ビル・ゲイツ財団がこれまで資金提供してきた研究者の論文を誰でも即時アクセス可能に - GIGAZINE


Smits氏によると、プランSにおいても品質管理は行われ、質の高い論文を掲載する一流雑誌への掲載はこれまで通り行われますが、一方で査読をろくに行わないような雑誌からは離れるだろうとみられています。またNatureやScienceといったいくつかの著名な学術誌についても、ポリシーの問題から研究者は論文を掲載できなくなることとなる模様。Natureなどの有料学術誌での論文掲載をボイコットする動きは既に人工知能研究者の間で広がっており、その理由は以下の記事を読めばわかります。

なぜ何千人ものAI研究者がネイチャーなどの学術誌での論文掲載をボイコットしているのか? - GIGAZINE


プランSのような構想については出版社からの反発も強く、特に「一定期間後に無料化し、それまでは有料プランによって読めるようになる」というハイブリッド型のサービスが禁止されることが強く懸念されています。ハイブリッド型のサービスは増加傾向にあり、2016年の調査では全体の45%を占めています。


プランSは構想段階にあり、EC自体はまだ署名するに至っていません。Harvard Open Access ProjectのPeter Suber氏やThe Wellcome TrustのJeremy Farrar氏はプランSを支持していますが、スイス・スウェーデン・ドイツなど、欧州の科学界をリードするいくつかの研究機関もまだ署名していないという状態です。しかし、Smits氏は将来的にプランSの構想が助成金の条件に組み込まれると予測しているとのこと。

また、Research EnglandのDavid Sweeney氏は「出版者の反応が完全にわからない限り、出資者がオープンアクセスのためにどのくらいの金額を支払うのかの計算はできない」と述べており、構想は「原則の話であって、出版モデルについてではない」と指摘。オランダ科学研究機構のStan Gielen氏も「これはオープンサイエンスへ大きな移行であり、『科学や研究者の質をどのように測るのか』が変わる」と述べ、既存の出版界の経済を超えた内容だとしています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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