不眠症における「5つのタイプ」とは？

by John-Mark Smith

不眠症は全人口のうち10％もの人々が悩まされている非常に一般的な病気です。オランダのアムステルダムにあるオランダ神経科学研究所の研究チームは不眠症に「5つのタイプ」が存在することを発見し、それぞれのタイプでは治療法やうつ病のリスクなどが違うとしています。

Insomnia disorder subtypes derived from life history and traits of affect and personality - The Lancet Psychiatry
https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(18)30464-4/fulltext

Not All Insomnia Is The Same — In Fact, There May Be 5 Types
https://www.livescience.com/64534-insomnia-5-types.html

不眠症の人はベッドに入ってからもなかなか寝ることができなかったり、眠りにつけたとしても夜中に何度も目を覚ましてしまったりと、さまざまな睡眠障害を経験します。しかし、同様の症状を持っている不眠症の人たちであっても、同じ治療法が効かないことがよくあるとのこと。

そのため、研究者の中には「不眠症にはいくつかのタイプがあるのではないか」という仮説を立てる人もいましたが、不眠症のタイプに関するバイオマーカーを発見しようとする試みは失敗に終わっていました。そこでオランダ神経科学研究所の研究チームは不眠症のタイプを見極めるため、「Netherlands Sleep Registry(オランダ睡眠登録所)」というプロジェクトの一環として、4000人以上の人々に対するオンライン調査を行いました。

調査では回答者の睡眠習慣やその他の特徴についてアンケートが行われ、回答者のうち約2000人が不眠症の症状を持っていたことが判明しました。不眠症のタイプを特定するため、研究チームは睡眠障害に関する質問だけでなく、個人の性格や気分、感情やストレスフルなイベントに対する反応などについても調査をしたとのこと。

by Nathan Cowley

その結果、不眠症である回答者が以下に挙げた5つのタイプのいずれかに当てはまる傾向があることを研究チームは見いだしました。

◆1型不眠症：高いレベルの苦痛(高レベルの不安や心配といったネガティブな感情)を持ち、幸福度が低い

◆2型不眠症：中レベルの苦痛を持つが、幸福度や幸せな感情も中レベル

◆3型不眠症：中レベルの苦痛を持ち、幸福度や幸福経験度が低い

◆4型不眠症：苦痛は低レベルであるが、ストレスフルなイベントに対して人生の長期間にわたり不眠症を経験している

◆5型不眠症：苦痛は低レベルであり、ストレスフルなイベントに対して不眠症が影響を受けにくい

これらのタイプは長期間にわたって変化しないと、研究チームは述べています。研究チームが最初のアンケートから5年後に同じ回答者を対象にもう一度アンケートを行っても、回答者の87％は最初のアンケートで分類されたタイプから変わらなかったそうです。

by Ivan Obolensky

研究チームは不眠症患者に5つのタイプがあることだけでなく、それぞれのタイプによって特定の治療法の効果に差があることや、うつ病のリスクに違いがある点を見いだしました。

たとえば2型不眠症の人と4型不眠症のグループにおいては、向精神薬の一種であるベンゾジアゼピンによる治療法が不眠症の改善に大きな効果をもたらしました。一方で3型不眠症のグループにおいては、ベンゾジアゼピンによる治療法で不眠症が改善することはありませんでした。また、2型不眠症のグループは認知行動療法の一種である会話療法がよく効いたのに対し、4型不眠症のグループでは会話療法による効果が見られませんでした。1型不眠症の患者は、一生にわたって高いうつ病のリスクを持っているとのこと。

by omar alnahi

藤田医科大学の精神神経科学准教授である北島剛司氏は今回の研究結果に関して、「不眠症の中に強固なタイプがあることを示したものです」と述べています。一方で今回のタイプは睡眠に直接関係していない要因によって分類されており、一部の睡眠研究者がタイプ分けについて懸念を抱く可能性があると指摘していますが、今回研究が示したタイプのいくつかは、かつて睡眠医学界に受け入れられていた「不眠症のカテゴリー」との類似点があるとのこと。

今回の研究結果は不眠症の治療法が特定の患者にとって有益である可能性を示唆する他、一部の不眠症タイプについてはうつ病のケアが重要になる点をも示していることから、さらなる研究が必要だと見られています。一方で研究チームによると、今回の調査に協力してもらった回答者は、いずれも睡眠関連の研究に自主的に協力した人々であり、必ずしも不眠症患者全体を代表するものではない可能性があるとのこと。研究では見つからなかった、さらに多くのタイプが存在する可能性もあるそうです。

by Claudio_Scott