「ギャンブルマシンの合法化」は厳しい財政を立て直すどころか検討不足で失敗しているという指摘
2009年にアメリカのイリノイ州は、人間のディーラーではなく機械によって操作されるギャンブルマシンをカジノ以外で設置することを合法化しました。その後、ギャンブルマシンは設置台数を順調に伸ばしたことから、大きな税収増加も期待されていました。しかし、ProPublica Illinoisは、州の財務記録やデータ、証言をもとに「ギャンブルマシンの設置台数の増加はお金の無駄である」と断言しています。
How Illinois Bet on Video Gambling and Lost
https://features.propublica.org/the-bad-bet/how-illinois-bet-on-video-gambling-and-lost/
ビデオポーカーやビデオスロットなど、モニターとコンピューターを使ったギャンブルマシンは急速に普及しています。専用の設備やディーラーがいなければ遊べない従来のギャンブルと異なり、機械さえ置けばどこでもプレイが可能であることから、海外ではカジノだけではなく居酒屋やバーなどにも設置されることも。ただし、カジノ以外の場所に設置することを法律で禁止している地域も存在します。
by Kent Wang
かつてはカジノに舞台を限られていたギャンブル業界は、ギャンブルマシンの登場によって大きく変化しました。イリノイ州では、地方条例でギャンブルが禁止されているシカゴを除き、カジノ以外でのギャンブルマシンの設置を認める「ビデオゲーム法」が成立。合法化されて以降、2018年11月時点で3万台を超えるギャンブルマシンが設置されました。この台数は、世界最大のギャンブル街として知られるラスベガスを抱えるネバダ州よりも多いそうです。
2009年にイリノイ州でギャンブルマシンが合法化された際には、州のインフラ改善に310億ドル(約3兆4000億円)が必要とされていたことが背景にあります。ギャンブルマシンの稼働を認める法律が成立されてから数か月以内に、イリノイ州は予想収入を見込んで数百億円規模の州債を発行しました。資料によると、イリノイ州議会はギャンブルマシンの設置によって毎年3億ドル(約330億円)の税収入を見込んでいたとのこと。
以下のグラフに示されているオレンジ色の線はギャンブルマシンの台数、緑の線はマシンを設置している場所の数。あまり増加していない設置場所の数に対してマシンの台数は急激に増加していて、1店舗あたりのマシン設置台数が爆発的に増えていることは明らか。
一方、以下のグラフで示されている薄い緑が予定されていた収益、濃い緑が実際の収益を示していて、議員が予測していた収益をまったく満たせていなかったことがわかります。さらに、州の貴重な収入源だったカジノからの税収は2013年から2017年の間に4億6200万ドル(約510億円)から3億9300万ドル(約430億円)まで大きく減少。そのしわ寄せを受けるように、イリノイ州の教育予算は7000万ドル(約77億円)も減少してしまう事態になってしまいました。
失敗の原因はギャンブルマシンの導入そのものではありません。イリノイ州以外にも、カジノ以外のギャンブルマシンの設置を認めている州は存在していて、他の州では十分に収益を受けています。
ギャンブルマシンを合法化している州の人口・設置台数・設置場所数・売上に対する税率をまとめたものが以下の表。イリノイ州でギャンブルマシンの売上げに対してかけられる税率は30%で、そのうち25%がイリノイ州に、5%が地方自治体に行くようになっています。しかし、ウェストバージニア州とサウスダコタ州では50%、ペンシルバニア州は52%、オレゴン州では73%の税率が設定されていて、イリノイ州の税率はあまりにも低いとProPublica Illinoisは述べています。
ビデオゲーム法案を用意したのはイリノイ州ゲーミングマシンオペレーター協会であり、州議会の思惑が外れてしまった原因は法案に明記された税率に対する精査が不十分であったことにあるとProPublica Illinoisは主張しています。
ギャンブルマシンの合法化を後押ししたのは協会による根強いロビー活動とみられています。ビデオゲーム法が成立した翌年の2010年には、13万1205ドル(約1400万円)もの額がギャンブルマシン業界から政治資金として寄付されていたとのこと。さらに、マシンメーカーの1つであるJ&J Venturesは60万ドル(約6600万円)を州に寄付しているとProPublica Illinoisは指摘しています。
ProPublica Illinoisは「楽をして手早く税収を生み出すことを期待してビデオギャンブルを合法化しようと急ぐことは、州の財政を荒廃させる」と主張しています。また、「増税や支出の削減をせずに収入を増やそうと模索し続け、ギャンブルの社会的コストについての認識についての議論がない限り、同じ過ちを繰り返すだろう」と述べています。
・関連記事
いかにスロットマシンが人から最大限のお金と時間を奪うように作られているのかを解説 - GIGAZINE
不完全な情報で最適な手が読みにくいゲーム「ポーカー」で人類対AIの頂上決戦「Brains VS. AI」が開催される - GIGAZINE
ソーシャルゲームの次は本当にお金を賭けられるゲームへ、米ソーシャルゲーム最大手Zyngaがオンラインカジノ開始 - GIGAZINE
ファッション業界は上位20社が業界全体の97%にあたる利益を独占 - GIGAZINE
娘の大学の高い学費を払うため地下カジノに挑戦する夫婦を描く映画「The House」 - GIGAZINE
・関連コンテンツ