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アメリカの超富裕層はどうやって合法的に所得税の支払いを回避しているのか?


アメリカにはテスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏やAmazon創業者のジェフ・ベゾス氏など、世界に名だたる超富裕層が住んでいます。これらの超富裕層はアメリカ政府に納める所得税も膨大な金額だと思われていますが、意外なことにマスク氏は2018年に1ドル(約110円)も所得税を支払わず、ベゾス氏も2007年と2011年に所得税ゼロを達成しました。「どうやってアメリカの超富裕層は合法的に所得税の支払いを回避しているのか?」という謎について、非営利・独立系の報道機関であるProPublicaがまとめています。

The Secret IRS Files: Trove of Never-Before-Seen Records Reveal How the Wealthiest Avoid Income Tax — ProPublica
https://www.propublica.org/article/the-secret-irs-files-trove-of-never-before-seen-records-reveal-how-the-wealthiest-avoid-income-tax


Musk, Bezos, other billionaires avoid US income taxes: report
https://techxplore.com/news/2021-06-musk-bezos-billionaires-income-taxes.html

ProPublicaによると、ここ数年で所得税ゼロを達成した超富裕層には情報サービス企業ブルームバーグの創業者であるマイケル・ブルームバーグ氏、持株会社アイカーン・エンタープライズの創業者であるカール・アイカーン氏、天才投資家として知られるジョージ・ソロス氏などが含まれます。アメリカでも有数の超富裕層が所得税を回避した方法について、ProPublicaはアメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)から入手したデータやフォーブスが発表する世界長者番付のデータなどを基に分析しました。

まずProPublicaは、「所得税の制度は公平であり、累進課税制度に基づいて裕福な人ほど支払うべき所得税率が高くなる」という神話は事実ではないと指摘。所得税の支払いを回避する手段を持つ超富裕層の経済的な現実を把握するため、ProPublicaは「2014年~2018年の5年間に最も裕福な25人のアメリカの超富裕層が支払った所得税」と、「同期間に世界長者番付が発表した超富裕層の資産増加額」を比較し、増加した資産と比較してどれほどの所得税を支払ったのかを調査したとのこと。


調査の結果、アメリカで最も裕福な25人の総資産額は2014年~2018年に4010億ドル(約43兆8700億円)増加し、これらの人々が支払った所得税の総額は136億ドル(約1兆4900億円)に上ることがわかりました。この所得税額は驚異的な金額かもしれませんが、割合にすると増加した資産額のわずか3.4%となります。これは、アメリカの所得税における記事作成時点の最高税率が37%であることを考えれば、非常に小さな額と言えます。

一方、アメリカに住む40代前半の典型的な賃金労働者では、同期間に世帯の税引き後純資産が平均6万5000ドル(約711万円)増加しました。ところが、賃金労働者が得る収入の大部分は給与所得であるために14%ほどの所得税が課されることとなり、同期間に支払った所得税の総額はおよそ6万2000ドル(約678万円)になるとのこと。つまり、超富裕層が富の増加に対して非常に小さな割合の所得税しか支払っていないにもかかわらず、一般的なアメリカ人は富の増加とほぼ同額の所得税を支払っているとProPublicaは指摘しています。


超富裕層が支払う所得税額を圧縮する上で重要なのが、「所得税が課されるのは実現された利益のみであり、所有しているだけの株・債券・建物の資産額増加には所得税が課されない」という制度です。これはつまり、会社勤めをして得た給与所得や株の配当、株や不動産などの資産を売却して得た収入には所得税が課されるものの、いくら保有している株の価値が上昇したとしても、それ自体には所得税が課されないことを指しています。

アメリカ政府は収入に対して課税するため、一般的な世帯の多くは給与所得全体から10%台の所得税を支払い、残ったお金を生活費や娯楽費、そして貯金あるいは株式投資に回して資産を形成します。一方で超富裕層には、CEOとしての報酬や株式を売却して得た利益には所得税が課されるものの、所有している株の価値が上昇しても所得税が課されないため、株の上昇分だけ資産が増加するとProPublicaは述べています。

この仕組みを特にうまく使っているのが、著名投資家のウォーレン・バフェット氏です。バフェット氏がCEOを務める投資持株会社のバークサー・ハサウェイは、「配当金を支払うくらいなら、その資金で自社株買いや再投資を行った方が株価が上がるため、結果として株主のメリットが大きい」という方針から、株主に対して配当金を支払いません。そのため、バフェット氏は保有するバークサー・ハサウェイ株からの配当も得ていないため、さらに所得税の支払いが少なく済んでいるとのこと。

しかし、いくら超富裕層が株価の上昇によって資産を増加させているとしても、実際に現金が得られなければ裕福な生活を送ることはできません。ProPublicaは超富裕層たちが所得税を逃れながら現金を得る方法の1つとして、「借金」があると指摘しています。一般の人々にとって借金は、車や家などを購入する際のローン、あるいはどうしても生活が厳しい時に手を出すものというイメージがあります。しかし、超富裕層にとって借金は非課税でお金を手にする手段であり、保有する膨大な株式などを担保にすれば簡単にばく大な現金を手に入れることが可能だそうです。

借金は最終的に返済する必要があるため、IRSは超富裕層の借金を収入とみなすことができず、超富裕層は株式を担保にすることで数十億円もの資金を非課税で手に入れることができます。超富裕層に対するローンの利息はわずか数%とのことで、もし同額の所得収入を得た場合は最高税率である37%の所得税がかかることを考えれば、圧倒的に借金をした方が支払う金額は少なくなります。


ProPublicaは超富裕層がどのようにして所得税の支払いを逃れるかを解説し、一般の人々との格差を広げる方法について厳しく非難しましたが、今回のレポートに対して反論する声も挙がっています。

ProPublica's Bombshell, Bullshit Tax Story - The Save Journalism Committee
https://savingjournalism.substack.com/p/propublicas-bombshell-bullshit-tax

ライターのJeremy Arnold氏は、ProPublicaが「真の税率」を算出する際に「超富裕層の資産の増加」を持ち出した点について、株を売却しないこと自体は、単に税の支払いを遅らせているだけだと指摘。実際に売却していない資産に対して税金を支払わないことについては、「租税回避」として非難することはできないだろうと述べています。

もし、保有しているだけの資産に対して課税されるのであれば、その税金を支払うための現金が必要となります。Arnold氏は、多くの株主に対して保有する株の価値に応じた税金の支払いを強制すると、「税金を支払うための現金を得るために保有する株を売却する」という動きが発生するだろうと予想しています。もし、アメリカ全土に住む株主が課税額の確定と前後して一気に株を売却した場合、株価が大幅に下落して株式市場が混乱する可能性が高いとのこと。

実際のところ、一般的な給与所得者にとっても株式市場は年金や投資口座を通じた貯蓄プールとして機能しており、誰も株式市場の混乱を望んではいないとArnold氏は指摘。そのため、株の売却時に課税するという方式には一定の合理性があり、単純に超富裕層の資産増加額だけを見て否定することは危険だと主張しています。

また、Arnold氏は今回のレポートで利用されたデータの中には個人情報保護法によって守られたデータも含まれていたとして、ProPublicaの報道姿勢にはプライバシー面から見ても問題があると述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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