太陽に近づいて1400度の高温に耐えるNASAの宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の打ち上げが成功
太陽の周囲を取り巻く高温のガス「コロナ」や高速で噴き出る粒子「太陽風」などの謎を解明するために作られた宇宙探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の打ち上げが成功しました。この探査機は地球から太陽系の内側に向かうという珍しいルートで太陽に近づき、約7年にわたる観測を行う予定です。
NASA’s Parker Solar Probe Begins Journey to the Sun – Parker Solar Probe
https://blogs.nasa.gov/parkersolarprobe/2018/08/12/nasas-parker-solar-probe-begins-journey-to-the-sun/
パーカー・ソーラー・プローブはアメリカ時間の2018年8月12日午前3時31分、アメリカ南部のフロリダ州ケープ・カナベラル空軍基地から打ち上げられました。ユナイテッド・ローンチ・アライアンスが製造したデルタIVヘビーロケットに載せられて打ち上げられたパーカー・ソーラー・プローブは打ち上げから約4分後、2機あるブースターロケットのエンジンの燃焼を終了させて分離。次に第1段の「コア・ブースター」を切り離した後に第2段ロケットのエンジンに点火してさらに加速と上昇を続けました。ロケット先端を覆うフェアリングを切り離した後に第2段ロケットの分離にも成功し、さらに第3段ロケットの燃焼を終了させた後に、パーカー・ソーラー・プローブはロケットから切り離されて太陽を目指す長い旅路に就きました。
Parker Solar Probe Mission Launches to Touch the Sun - YouTube
パーカー・ソーラー・プローブは金星を使ったスイングバイを7回繰り返すことで目的の周回軌道に乗り、最短で太陽の半径約8.5個分(約8.5太陽半径)にまで太陽に近づきます。「約8.5太陽半径」は約600万km、地球が約460個並ぶ距離に相当します。とてつもない距離に思えますが、これを天文単位に直すと「約0.04天文単位」、すなわち「太陽と地球の平均距離の4%の所にまで近づく」ということになります。
これまで、人類が作った物体がもっとも太陽に近づいた時の距離は、1976年に打ち上げられた探査機ヘリオス2号が到達した4300万km」というものでしたが、パーカー・ソーラー・プローブはその約7分の1の距離にまで接近することに。また、その際の速度は時速約43万マイル(69万2000km)で、「秒速約200km」にも達します。これは、一般的な銃から発射された弾丸の15倍の速さにもなるとのことで、人類による建造物が記録する最も高い速度になるとみられています。
パーカー・ソーラー・プローブでNASAが目指しているのは、太陽を取り巻く空気層「コロナ」が太陽本体よりも高温になるという謎の解明です。太陽の表面温度は6000度という高い温度となっていますが、その上空に存在するコロナはなんと100万度という超高温にも及んでいることが知られています。パーカー・ソーラー・プローブはこのコロナの中に文字どおり飛び込んで、その実際の様子のほか、太陽風や太陽の磁気圏などを観測することになっています。
太陽の非常に近くにまで接近するパーカー・ソーラー・プローブには地球の表面の520倍も強い太陽光が浴びせられることとなり、機体は非常に高い温度にさらされることとなります。そのため、同機は炭素繊維を用いた特殊な断熱機構を持つ厚さ11cmの「シールド」を備え、機体の姿勢を自律制御することで過酷な太陽の熱エネルギーから身を守るようになっています。その際のシールドの表面温度は1400度にもなりますが、機体そのものの温度は30度前後に保たれるとのこと。詳細は以下の記事を読むとよくわかります。
太陽に超接近する探査機はなぜ熱で溶けないのか? - GIGAZINE
また、パーカー・ソーラー・プローブは「太陽系の内側に向けて飛ぶ」という珍しい飛行ルートを持つ機体。それがどのような違いを持つのかは、以下のムービーで解説されています。
NASA | Parker Solar Probe: It's Surprisingly Hard to Go to the Sun - YouTube
地球から太陽系の内側に向けて探査機を送り届けることには、特殊な考え方が必要とされます。「太陽の引力を使って近づけば良い」というほど簡単なものではなく、物理の法則に基づいた現象を乗り越える必要があります。
地球は太陽のまわりを時速6万7000マイル(時速約11万km)で回っているため、地球上に存在する物質には大きな慣性力が存在します。
そしてロケットにも慣性力がはたらくため、たとえ太陽に向けて真っすぐに探査機を打ち上げても、慣性力によって探査機は太陽からどんどん離れる経路をたどってしまうことになります。
この慣性力を打ち消すためには、地球が公転する向きとは逆の方向にロケットを加速させてスピードを相殺すれば良いのですが、これは容易なことではありません。
それは、「時速6万7000マイル」という速度にまでロケットを加速させることが極めて難しいということが理由。アポロ計画で用いられた「人類最大のロケット」であるサターンV型ロケットが出したスピードは時速2万5000マイル(時速約4万km)。
また、人類が火星を目指す時に必要な速度は時速2万9000マイル(時速約4万7000km)。
さらに、冥王星を目指した探査機ニュー・ホライズンズでもそのスピードは時速3万6000マイル(時速約5万8000km)。つまり、地球の慣性力を打ち消すためにはこれまでの2倍近くもの速さでロケットを打ち出す必要があり、これは極めて困難なこととなります。
そこでNASAが取り入れたのが、天体の引力を利用する「重力スイングバイ」を行うことで機体の速度をうまく調節し、目的の周回軌道に探査機を載せるという方法です。パーカー・ソーラー・プローブは、地球や金星を使ったスイングバイを7回繰り返すことで、太陽を周回する長いだ円軌道に投入される計画となっています。
パーカー・ソーラー・プローブには開発に15億ドル(約1700億円)の予算が投じられています。今後、2018年11月には予定の軌道に投入され、その後7年間におよぶ観測が実施される予定です。計画の責任者でジョンズ・ホプキンス大学のアンディ・ドライズマン氏は「今日の打ち上げは60年間にわたる研究の到達点です」とコメントしています。
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