独自のアルゴリズムで太陽が放つ「太陽風」の可視化に成功、コロナが太陽風に変化する理由が解明へ
By NASA's Marshall Space Flight Center
太陽系の中心に存在している太陽からは、熱や光、電波や放射線などに加えて「太陽風」と呼ばれる物質が大量に放出されています。この太陽風がどのようにして太陽表面の大気層「コロナ」から生まれているのか、その仕組みや実際の様子は長らく謎のままだったのですが、NASAの探査機によってその姿が解き明かされようとしています。
Images From Sun’s Edge Reveal Solar Wind Origins | NASA
http://www.nasa.gov/feature/goddard/2016/images-from-sun-s-edge-reveal-origins-of-solar-wind
太陽風は、平均秒速450kmというスピードで太陽系の周囲に向けて吹いている「風」です。英語でも「Solar Wind」と名付けられている太陽風ですが、実際には高温によりプラスとマイナスが電離した粒子(プラズマ)で、その密度は1平方センチメートルあたり5個程度という、極めて希薄な「風」となっています。太陽風は太陽系全体を包むことで外の宇宙からやってくる宇宙線を防ぐ役目があるほか、地球の極地域でオーロラが輝くのも太陽風による現象です。
太陽から放たれた太陽風は長い時間をかけて宇宙空間に広がりますが、やがてその圧力を失い減速します。そして最後には星間空間を漂うガスとの圧力がつり合うところで太陽風の流れが失われます。この、太陽風が届いている範囲は「太陽圏 (ヘリオスフィア)」と呼ばれており、2012年には探査機「ボイジャー1号」が太陽圏を脱したことが確認されました。これは、人類が作った物が初めて太陽圏を脱出したとして大きなニュースとなりました。
「ボイジャー1号」、ついに太陽圏を脱出 人工物初
http://www.astroarts.co.jp/news/2013/09/13voyager/index-j.shtml
このように、太陽から放出されて太陽系の惑星をすっぽり覆ってしまうほどの範囲に粒子をまき散らしている太陽風ですが、その仕組みには謎とされている部分が残っていました。太陽風は、太陽の最も表面にある薄くて超高温の大気層「コロナ」の成分が放出されていることがわかっていましたが、一体なぜ密度の高いコロナが宇宙空間に飛び出して太陽風に変化するのか、その境目がどこにあるのかは長らく解明されていなかったのです。
科学者はこの原因を、太陽の周囲を取り巻いている磁力線によるものだと仮説だてていました。コロナを構成する、100万度にも達する高温でプラズマ化された粒子は、それぞれプラスとマイナスの電荷を帯びています。この電荷によって太陽の磁力線の中に粒子が閉じ込められることでコロナが形成されるのですが、太陽の強い重力で高い圧力がかかっているコロナは時おり強い爆発を起こします。この爆発時に発生する力が太陽の磁力線の力を超えたときに、粒子が宇宙空間に向かって放出される、というのが太陽風発生のメカニズムであると考えられてきました。
その仮説を証明するための観察を行ったのが、NASAが2機の探査機を使って太陽を調査するプロジェクト「STEREO (Solar TErrestrial RElations Observatory:太陽立体化計画)」です。STEREOで用いられる2機の探査機は地球と同じ公転軌道上に投入され、太陽を軌道上の180度の角度で挟むことで、主にコロナの様子を太陽の全ての角度から余すことなく観察することを可能としています。
探査機にはカメラが搭載されており、太陽を取り巻くコロナの様子と、そこから太陽風が生まれる様子を撮影しています。カメラが捉えたのは以下のGIFアニメーションの左側の映像なのですが、一目してわかるように無数の星と、太陽からの強い光があることで、非常にぼんやりとしたガスらしき物が映っているに過ぎません。そこでNASAは独自のアルゴリズムを開発し、これらのノイズを除去することに成功。こうしてあぶり出されたのが、右側の太陽風が噴出している映像です。
さらに動きをよくわかるようにしたのが以下の映像。再生速度を速めてあるようですが、スプレーで噴射したかのように粒子のガスが噴出されている様子がよくわかります。
このように、コロナを形成していた粒子が太陽の磁力線の力を振り切ることで太陽風となる様子が観察されたとのこと。研究チームの1人で、NASA・ゴダード宇宙飛行センターの太陽科学者であるNicholeen Viall氏は、「私たちは太陽風が生みだされる仕組みの全体像を知るに至りました。これにより、宇宙環境がどのようにして形成されているのかについての我々の理解が大きく変わることになるでしょう」と今回の成果の意義を語っています。
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