サイエンス

太陽に超接近する探査機はなぜ熱で溶けないのか?


2018年夏、太陽のコロナを観測するための宇宙探査機である「パーカー・ソーラー・プローブ」が、これまでのどの探査機よりも太陽に近い8.86太陽半径(590万km)からコロナを観測するために打ち上げられます。太陽コロナの内側から粒子の動きを観察するために打ち上げられるパーカー・ソーラー・プローブですが、コロナ内部は想像できないほど熱く、華氏100万度(約56万℃)以上にもなると言われています。そんな過酷な環境で探査を行う必要があるパーカー・ソーラー・プローブは、なぜ溶けないのでしょうか。

Traveling to the sun: Why won't Parker Solar Probe melt?
https://phys.org/news/2018-07-sun-wont-parker-solar-probe.html

パーカー・ソーラー・プローブはミッションの極限条件や温度変動に耐えられるよう設計されています。設計におけるカギとなるのは、カスタムヒートシールドと太陽の強力な光放出から本体を保護するための自律システムで、これらについてNASAで働くエンジニアのBetsy Congdonさんが語っています。

Why Won't it Melt? How NASA's Solar Probe will Survive the Sun - YouTube


探査機が太陽の熱で溶けない理由のその1は、「ヒートシールド」にあります。


ヒートシールドは、太陽の熱から探査機を保護するためのもので、パーカー・ソーラー・プローブの場合は白色のシールドを搭載しています。これは正面からの光を反射して熱を吸収しないようにするためのものです。


ヒートシールドの開発に携わったエンジニアのCongdonさんが登場し、より詳細な技術面について解説してくれます。。


ヒートシールドは複数の素材から構成されていますが、素材のひとつにカーボンが使用されています。カーボンの多くは「黒鉛エポキシ」に使用されており、これはゴルフクラブやテニスラケットなどに使用されている、とても熱に強いという特性を持った素材です。


以下の黒い塊がヒートシールドのサンプルです。ヒートシールドは3つの層に分かれており、外側に黒鉛エポキシが使用されています。この黒鉛エポキシの層に挟まれているのが、カーボン発泡体。その名の通り空気を多く含むためとても軽く、それでいて頑丈だそうです。なお、カーボン発泡体は全体の97%が空気でできています。


このヒートシールドの性能を試すべく、ヒートシールドのサンプルをバーナーで炙りながら、反対側を素手で触るというムービーをNASAは公開しており、これを見ればいかにヒートシールドが効率良く熱を逃がしているかがわかります。

Blowtorch vs Heat Shield - YouTube


パーカー・ソーラー・プローブが熱で溶けない理由のその2は「かしこいから」です。


かしこいのは搭載されている自律ソフトウェアで、探査機内の機材が安全かつ熱せられすぎないように、常にヒートシールドの背後に隠れるよう船体を制御してくれます。


ヒートシールドは太陽の熱から船体を守るために、常に正しい姿勢を維持する必要があります。そのために搭載されているのが「ソーラーリムセンサー」で、白色の丸印で囲まれた部分に配置されています。このセンサーを使ってどのように姿勢を調整するのかというと、ヒートシールドの影からソーラーリムセンサーが出ると「探査機が正しい姿勢を維持できていない」と認識するようプログラムされているわけです。


3つ目の理由が「冷却システム」です。


パーカー・ソーラー・プローブは内部で水を循環させることで温度を一定に保っています。


Congdonさんによると、「基本的に水はソーラーアレイの後ろとラジエーター部分に流れています。水はソーラーセル部分で暖まり、ラジエーター部分で冷やされ、体内の静脈のような熱伝達が起きます」とのこと。


4つ目の理由は「熱は温度ではない」という点。


混乱するかもしれませんが、熱は温度と同じものではありません。温度は測定値ですが、熱はエネルギーの移動を示すものです。パーカー・ソーラー・プローブが太陽の外層であるコロナへと到達するためには、この「熱は温度ではない」という概念がとても重要になってくるそうです。


すべての星と同様に、太陽はプラズマでできており、そのプラズマがどのくらい密に集まっているかは太陽の層ごとに異なります。


太陽コロナの温度は56万℃以上となるので非常に高温ですが、コロナを構成するプラズマ粒子は高温(高速)で動いており、それでいてかなりの広範囲に拡散しているため、エネルギーの伝達効率が非常に低いという特徴があります。このため、探査機周囲は「とても熱いものの熱の管理はしやすい」そうです。


これだけではイマイチイメージしづらいかもしれませんが、「コロナの内部はとても熱いですが、我々はそれらの多くに触れられません。これはオーブンの中に手を入れたときのようなもので、オーブンを400度に熱していたとしても、中に入れた手が400度になるわけではないことと同じです」とCongdonさんがより身近な事象を例に説明しています。


なお、56万℃以上の環境内を移動しても、パーカー・ソーラー・プローブのヒートシールド表面は華氏2500度(約1400℃)程度までしか加熱されないそうです。

この他、ヒートシールドによって保護されない計器のひとつである「ソーラー・プローブ・カップ」を用い、太陽風からイオンと電子の流れを測定し、搭載された電子機器が正確な測定値を返すことができるように独自の技術が設計されています。また、ソーラー・プローブ・カップ自体も高熱に耐えられるように融点が2349℃のチタン・ジルコニウム・モリブデンによる合金が使用され、カップのコア部分となるチップには融点が3422℃のタングステンが使用されています。

さらに、太陽に近づけば高熱で電子配線用のケーブルが溶けてしまうため、通常のケーブルではなくサファイアクリスタルチューブを用いた配線を利用することで、電子機器全体を熱に強くなるよう設計したそうです。

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in サイエンス,   動画, Posted by logu_ii