遺伝子を編集してウイルス耐性を持つ遺伝子を作り出すプロジェクトが始動
by merrycallie
「ゲノム編集技術」とは、DNAに含まれる遺伝子情報を編集することで、思い通りの遺伝子情報を持つ細胞や生物を作り出す技術のことです。2018年5月1日、ハーバード大学の国際研究機関であるWyss生物工学研究所はフランスのバイオ医薬品企業Cellectisと、ヒトや他の種の細胞株に含まれる全ゲノムを、「ウイルス耐性」を持つように編集する目的で提携したと発表されました。
Harvard’s Wyss Institute Partners with Cellectis to Recode the Human Genome | Business Wire
https://www.businesswire.com/news/home/20180501005555/en/Harvard%E2%80%99s-Wyss-Institute-Partners-Cellectis-Recode-Human
Cellectisはリンパ球の一種であるT細胞を遺伝子改変したキメラ抗原受容体(CAR-T)を用いた、CAR-T療法の技術を持っていることで知られている企業です。Wyss生物工学研究所とCellectisは、細胞として通常の機能を果たしながら、ウイルスに耐性を持つように設計された遺伝子を作り出すことを計画しています。
以前にもWyss生物工学研究所の研究グループは大腸菌のゲノム編集を行い、タンパク質の設計図として機能するmRNA上の塩基配列である「コドン」の数を通常の64から63に減らし、多くのウイルスに耐性を持つ大腸菌を作り出しています。これからは外部機関とも提携し、ヒトの細胞においても耐ウイルス性を持たせる試みをスタートさせるとのこと。
Wyss生物工学研究所の研究グループは、「ゲノム編集によって作り出されたウイルス耐性を持つ細胞を使った治療法は、新たなワクチンや移植可能な器官を作り出す試みよりも効果的な治療法に役立つ可能性がある」と述べています。
by lePhotography
今回の提携が成立したことにより、Wyss生物工学研究所の研究グループはCellectis社が持つ「TALEN遺伝子編集技術」にアクセスし、ゲノム編集を行うことが可能になります。TALENとは人工的に作り出された酵素であるTranscription Activator-Like Effector Nucleaseの略語で、TALENを使うことで遺伝子の一部を取り出し、改変してから戻すことが可能になります。
Cellectisのチーフエグゼクティブを務めるAndré Choulika博士は、「私たちはWyss生物工学研究所との提携がスタートすることを非常に喜んでおり、Cellectisの遺伝子編集技術を使ったヒトや他の種の細胞株ゲノム編集プロジェクトにも興奮を覚えます。TALEN遺伝子編集技術が、ゲノム編集プロジェクトの最先端になるでしょう」と述べました。
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