インフルエンザウイルスは通常の呼吸だけでも拡散していることが判明
冬になると流行が拡大するインフルエンザは、日本のみならず世界中の国で人々の高い関心を集める厄介な病気です。予防策としては、予防注射や発症者の隔離、そしてあまり効果はないことがわかった「マスクの着用」などが一般的に広く知られていますが、最新の研究からはウイルス保持者が単に呼吸するだけでもウイルスが拡散されていることがわかっています。
Infectious virus in exhaled breath of symptomatic seasonal influenza cases from a college community
http://www.pnas.org/content/early/2018/01/17/1716561115.abstract
Flu may be spread just by breathing, new study shows; coughing and sneezing not required | UMD School of Public Health
https://sph.umd.edu/news-item/flu-may-be-spread-just-breathing-new-study-shows-coughing-and-sneezing-not-required
メリーランド大学の科学者らによって実施された研究からは、これまで考えられていたよりもインフルエンザウイルスの拡散は容易に起こっていることが明らかになっています。全米科学アカデミー誌に掲載された論文「Infectious virus in exhaled breath of symptomatic seasonal influenza cases from a college community」(大学コミュニティにおける季節性インフルエンザ症例を示す人物の呼気中の感染性ウイルス)では、インフルエンザ患者が吐き出した空気に大量の感染性ウイルスが含まれており、呼気による空気感染を考慮する必要性を示す証拠が示されています。
メリーランド大学公衆衛生学校の環境衛生学教授で、公衆衛生学修士の学位を持つドナルド・K・ミルトン博士は、「インフルエンザの症状を持つ人の周囲の空気が、咳やくしゃみを行わない呼吸だけによっても感染性ウイルスに汚染されていることを明らかにしました。インフルエンザを患っている人は、特にインフルエンザにかかった最初の日において、感染性エアロゾルを空気中に放出します。そのため、誰かがインフルエンザにかかった場合は、すぐに帰宅させて職場にいない状態にすることで、他者への感染を防ぐべきです」と述べています。
ミルトン博士が率いる研究チームは、インフルエンザにかかっている142人から採取した「通常の呼気」「発話時の呼気」「自発的なせき」「くしゃみ」に含まれるインフルエンザウイルスを調べ、その感染性の度合いを調査しました。被験者からは、鼻の中を綿棒状の器具「スワブ」でぬぐったサンプルと、30分間にわたって採取した呼気とせき、くしゃみの呼気サンプルがそれぞれ218サンプル集められています。
そしてこれらのサンプルを分析したところ、多くのインフルエンザ患者が放出する呼気に含まれるエアロゾルの中に、空気感染を起こすに十分なインフルエンザウイルスが含まれていることが明らかになりました。そして注目すべきなのは、通常の呼気でさえも多くのウイルスを含んでいたという事実。自然呼気に含まれていた23種類のエアロゾルサンプルのうち、48%にあたる11種類が検出可能なウイルスのRNAを含んでおり、さらにその11種類のうち8種類が感染性ウイルスを含んでいたといいます。そしてさらに、くしゃみに含まれるエアロゾルサンプルに含まれるウイルスの割合は、通常の呼気に含まれているそれと大きな違いはないという驚くべき事実も明らかになっているとのこと。つまり、インフルエンザウイルスはくしゃみに多く含まれるというわけではなく、通常の呼気にも同じ程度の量が含まれて拡散されているということが判明しています。
論文の著者は、これらの知見はインフルエンザが空気中を伝播することについての数学的モデルを改善すること、より効果的な公衆衛生対策を生みだすこと、そしてインフルエンザの流行の影響を抑制および軽減することを可能にすると記しています。もしインフルエンザ患者が出た場合は、何よりもまず感染者を帰宅させるなどして隔離して外に出さないようにすることが大事であると同時に、予防接種を受けることもおろそかにすべきではないとのこと。たしかに予防接種を受けてもインフルエンザにかかることはありますが、病状の重篤化を防ぐ効果も期待できるため、全く無意味というわけではないためです。
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