抗生物質耐性菌の攻略に古くから知られるウイルス「バクテリオファージ」にスポットライトが当たっている
抗生物質が効かない細菌(耐性菌)が登場し、医療の危機が叫ばれています。抗生物質の万能神話が崩壊するとともに、20世紀初頭に注目を集めた「バクテリオファージ」と呼ばれる細菌を殺すウイルスが存在感を増してきています。
Phage treatment of an aortic graft infected with Pseudomonas aeruginosa | Evolution, Medicine, and Public Health | Oxford Academic
https://academic.oup.com/emph/article/2018/1/60/4923328
Man with Life-Threatening Heart Infection Saved by Virus Plucked from Lake
https://www.livescience.com/61963-virus-found-in-lake-treats-bacterial-infection.html
Bacteria-Killing Viruses Found in a Pond Knocked Out an Antibiotic-Resistant Infection - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/evmwjj/viruses-used-to-treat-infections-case-study
抗生物質の登場によって敗血症や破傷風など多くの人間の命を奪ってきた恐ろしい感染症が克服され、近代医学は劇的に進化しました。さまざまな感染症に対して効果があることから「奇跡の薬」と呼ばれた抗生物質でしたが、やがて大量に使用されたことが原因で、抗生物質が効かない耐性菌を生み出すことになり、耐性菌とどう向き合うかが大きな問題になってきています。
そんな中、バクテリオファージ(ファージ)を使って耐性菌に対抗するという試みが行われています。ファージは特定の細菌を狙い撃って殺す特性があるウイルスの一種で、存在自体は20世紀前半から知られていました。ファージの「宿主」は細菌のみなので、細菌を攻撃しますが他の細胞などには害を与えず、人体に無害のウイルスだと考えられています。ファージはソ連や東欧を中心にさかんに研究されてきましたが、特定の細菌にしか効果がないため、多くの感染症に対応できる抗生物質の登場によって、研究は下火になっていました。
ファージは、DNAを格納する「頭」と細菌を捉える「足」からなる単純な構造を持ちます。
アメリカ・コネチカット州のある80歳の男性は、心臓手術で利用した人工血管から緑膿菌と呼ばれる細菌が感染し、抗生物質による長期的な治療を受けましたが、耐性菌が原因で感染を抑えることができなくなっていました。もはや男性には治療の選択肢がない状態だったそうで、担当医がファージを研究しているエール大学の研究者に助けを求めたそうです。
助けを求められた研究者の一人のベンジャミン・チャン博士は、Dodge Pondという池から採取した「OMKO1」というファージが、男性の感染している細菌を殺すことを実験室で確認しました。驚くことに、OMKO1による攻撃を受けた細菌は、OMKO1への耐性を得るために構造を変化させましたが、変化した細菌に対しては、これまで効かなかった抗生物質が効果を発揮したとのこと。つまり、ファージと抗生物質の二段構えで耐性菌を攻略することができたというわけです。
実験の結果を受けてチャン博士たちはFDA(食品医薬品局)からOMKO1の投与試験の許可を得て、2016年1月に数十万個のOMKO1を男性の胸部に注入する手術が行われました。手術後、極めて短い時間しか抗生物質を服用しなかったにもかかわらず、細菌の感染がなくなったことが確認され、その後、男性は抗生物質を使い続けることで18カ月間たっても感染を再発させていません。
耐性菌を克服する可能性を秘めたファージですが、特定の細菌に対してのみ攻撃性を持つことが治療上の制約になっています。現時点で見つかっているファージは1000種類程度であり、今後はより多くの新しいファージを発見することが大切になってきます。なお、チャン博士は自身の研究室とは別の階にある魚を研究する研究室から定期的に湖で採取した水をもらっており、新種のファージを探しているそうです。
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