サイエンス

新型コロナウイルスワクチンの初期臨床試験で抗体生成を確認、中国研究チームによる査読付き論文が公開される


世界中の研究所や企業が総力をあげて新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの研究開発を進めており、すでに臨床試験の段階に進んでいるものも存在しています。中国の研究チームが「開発中のSARS-CoV-2ワクチンの臨床試験で、抗体の生成が確認された」として、査読付きの論文を発表しました。

Safety, tolerability, and immunogenicity of a recombinant adenovirus type-5 vectored COVID-19 vaccine: a dose-escalation, open-label, non-randomised, first-in-human trial
(PDFファイル)https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lancet/PIIS0140-6736(20)31208-3.pdf


Phase I Clinical Trial of a COVID-19 Vaccine in 18-60 Healthy Adults - Full Text View - ClinicalTrials.gov
https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04313127


Early study of Covid-19 vaccine developed in China sees mixed results
https://www.statnews.com/2020/05/22/early-study-of-covid-19-vaccine-developed-in-china-sees-mixed-results/


中国の軍事医学科学アカデミーや湖北省疾病管理予防センター、江蘇省疾病管理予防センターの共同研究チームが開発するワクチンは、SARS-CoV-2の表面にあるスパイク状の糖タンパク質(スパイクタンパク質)を発現する遺伝子を、アデノウイルス5型に組み込んだ「Ad5-nCoV」です。

RNAウイルスであるSARS-CoV-2に対して、DNAウイルスであるアデノウイルスはまったく種類が異なるウイルスですが、遺伝子を組み込まれたアデノウイルス5型が体内の細胞に感染することでSARS-CoV-2のスパイクタンパク質が生成され、これを抗原とした免疫が獲得されます。なお、アデノウイルス5型そのものに免疫を持っている人が多いため、「SARS-CoV-2ではなくアデノウイルス5型に免疫システムが反応してしまい、ワクチンの効果が失われるのではないか」という懸念から、多くの研究グループがアデノウイルス5型の採用を見送っていました。


Ad5-nCoVのフェーズI臨床試験は2020年3月中旬にスタートし、健康な18歳以上60歳未満108名が参加しました。なお、被験者のおよそ半数が既にアデノウイルス5型に対して強い免疫をもっていたそうです。

研究チームは被験者を3つのグループに分け、それぞれのグループに高用量・中用量・低用量の3段階でワクチンを投与しました。ワクチン投与後14日でスパイクタンパク質に対する抗体生成が確認され、投与後28日までに108名中105名で抗体レベルの大幅な上昇が確認できたとのこと。さらに、スパイクタンパク質に対するT細胞の反応もみられたと研究チームは報告しています。

また、注射部位の炎症、発熱、疲労、筋肉痛といった副作用がみられ、高用量を投与されたグループでは75%の被験者で副作用が確認されたとのこと。ただし、これらの副作用はアデノウイルス5型を使ったワクチン投与で予想できる範囲内のものだとのこと。実際、アデノウイルス5型に対する抗体レベルが高い人は副作用が少ない傾向がみられたそうです。しかし、アデノウイルス5型に対して強い免疫記憶がある場合、スパイクタンパク質に対する免疫系の応答がやや低下したことも研究チームは報告しています。


今回の論文はあくまでも中間発表であり、Ad5-nCoVの臨床試験は引き続き行われ、今回投与された被験者の状態は2020年12月まで継続的に追跡されるとのこと。

なお、アメリカの製薬企業・モデルナの開発するSARS-CoV-2ワクチン「mRNA-1273」もAd5-nCoVとほぼ同時に臨床試験を開始しており、2020年5月18日に「臨床試験で有望な結果が出た」と発表しました。mRNA-1273はスパイクタンパク質を発現するmRNAを直接体内に投与して免疫獲得を狙うというもので、Ad5-nCoVとは異なるアプローチのワクチンです。

米モデルナ社のコロナワクチン、初期治験で「有望な結果」 45人の被験者全員が抗体を獲得 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/05/45-12.php


しかし、医科学系メディアのStatが「mRNA-1273の初期臨床試験は小規模で、有効性を評価する上で重要な意味を持たない」というmRNA-1273の効果に疑念を示す記事を発表。この記事がきっかけで、モデルナの株価は大幅に下落したと報じられています。

ダウ平均390ドル下落、コロナワクチン巡る報道で失速 - ロイター
https://jp.reuters.com/article/ny-stx-us-idJPKBN22V347

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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