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二酸化炭素を上空にまき散らさない「電動航空機」の開発が進む


多くの人を乗せて高速で移動することを可能にする航空機は現代の生活に欠かせないものとなっていますが、一方では飛行機が多くの燃料を燃やして二酸化炭素を排出しながら飛ぶことに何らかの対策がとられるべきだという考え方も存在しています。そんな中、従来のように化石燃料を燃やして飛ぶのではなく、バッテリーに蓄えられた電気でモーターを回して推力を得る電気航空機の開発が活発になってきています。

Faced with global warming, aviation aims to turn green
https://phys.org/news/2018-04-global-aviation-aims-green.html

ロシアを除くヨーロッパで最大の産油国であるノルウェーは、北海油田から産出される原油と天然ガスの輸出により経常収支黒字国となっています。豊かな石油資源を背景に強い経済を持つノルウェーは、国民投票によりスイスと並んで欧州共同体(EU)とは一線を画した立場を保っています。


そんなノルウェーですが、国内では脱石油の動きが活発になっています。2025年までには国内で登録される全ての新車は排気ガスを出さない「ゼロ・エミッション」とする政策が決定されているほか、石油を燃やさない完全電気推進のフェリーが登場しています。

世界初の排気ガスゼロの「完全電気駆動フェリー」がノルウェーで登場 - GIGAZINE


運輸・通信大臣のヒェーティル・ソールヴィーク=オルセン氏は「多くの人が、大気汚染や騒音をまき散らす空の交通手段を排除すべきだ、と声を挙げます。しかしこれは現代的なアプローチではありません」と語り、航空機を排除するのではなく、その動力源に電気を使うことでの対策を講じる方針を示しています。空港運営会社「Avinor」のダグ・フォーク=ペテルセン氏は「私の心の中では、2040年までにノルウェーは全ての航空機を電動で運用することに疑いはありません」と述べています。

航空機から排出される二酸化炭素ガスは、今後比較的に増大する可能性が指摘されています。国際航空運送協会(IATA)の試算によると、航空機を利用する乗客の数は2036年までに現在のおよそ2倍である78億人に達し、それに応じて航空機の飛行回数が増加することで必然的に二酸化炭素排出量が増加すると考えられています。

この問題に対処するための方策として、ノルウェーの航空会社の中からも「脱石油」の動きが見え始めています。ノルウェー北部を拠点に主に短距離路線を運航しているヴィデロー航空では、2030年までに現有の小型双発機「ボンバルディア Dash 8」型機を退役させ、電動モーターで飛ぶ航空機へと転換する方針を発表しています。

By Dean Morley

また、航空機メーカーでも脱石油の動きが活発化しています。Avinorのフォーク=ペテルセン氏は、これを電気自動車の世界の動きになぞらえながら「航空機メーカーは、電動化の道を進まなければならないと考えています。それは、自分たちがそれに乗り遅れることで、他社が航空機械の『テスラ』になってしまうということが理由です」と述べています。

ヨーロッパ最大の航空機メーカー「エアバス」では、イギリスの航空機エンジンメーカー「ロールスロイス」とドイツの電器メーカー「シーメンス」と協力することで、石油と電気の両方を使うハイブリッド航空機「E-Fan X」を2020年までに初飛行させることを目指しています。しかしここで最大の問題になるのが、電力を蓄えておくバッテリーの大きさと重さの問題です。消費すればそれだけ軽くなる石油とは異なり、バッテリーはいくら電力を消費しても機体は軽くなりません。そのため、電気航空機は常に重くて大きなバッテリーを積んだまま飛ばなければならないのが最大の弱点の一つとなっています。

エアバスでこの分野の研究を統括するグレン・ルウェリン氏も「最大の課題は電力ストレージの問題です」と、やはりバッテリーに大きな課題が存在することを認めています。しかし一方で、「バッテリーの分野は、世界でももっとも多く投資が行われている分野でもあります。きっと技術は進化するでしょう」と、今後の技術革新に期待する見方も示しています。

もう一方の世界有数の航空機生産地、アメリカでも電動化に向けた研究開発と投資が進められています。航空機大手のボーイングと、格安航空(LCC)大手のジェットブルーから投資を受けているスタートアップ「Zunum Aero」は、2022年までに12人乗りの小型ハイブリッド航空機を登場させることを目指しています。同社の創業者であるマット・ナップ氏は「私たちがターゲットにしている価格帯は、現状の航空機と同じ水準にあります。しかし、その運用コストは従来の機体に比べて格段に低く抑えられ、およそ60%から70%のコストを削減できるでしょう」と、電動航空機のメリットについて述べています。


既存のジェットエンジンを使った航空機でも、近年の最大の課題は「高効率化」とされています。新機種が発表されるたびに「既存の旅客機に比べて5%の燃料効率を実現。5%は大した数値ではないが、長期的に見れば多くの燃料と二酸化炭素の排出をカットできる」という論調を目にしますが、少し意味合いにズレがあるとはいえ「60~70%のコスト削減」というのはまさに異次元の高効率性といっても過言ではありません。

ただし、動力の電力化に関して必ず付きまとう問題「カーボンフットプリント」の面を含めて総合的に判断する必要があることは言うまでもありません。高い効率を持つ電気航空機を飛ばすために、火力発電所で石油を大量に燃やして電気を作り出していたとすれば、それは全く本末転倒の取り組みということになってしまいます。そのため、再生可能エネルギーなど二酸化炭素を排出しないエネルギー源を電力に変え、その力で飛行機を飛ばせるようにする全体的な取り組みが重要といえます。

航空機の電力化が進むと、二酸化炭素排出レベルの低下が期待できるほかにも、低騒音化による住環境の改善というメリットも期待されるとのこと。石油を燃やして飛ぶジェットエンジンに比べて、モーターでプロペラを回転させて力を生み出す電気航空機は、騒音が低く抑えられることが期待されています。

大きくて重い航空機を長時間にわたって速い速度で飛ばすために重要となってくるのが、より軽いバッテリーにより多くの電力を蓄えておくことができる「エネルギー密度」の観点です。2010年のデータでは、質量1kgのガソリンが蓄えているエネルギー(=エネルギー密度)は「12,000wh/kg」であるのに対し、リチウムイオン電池のエネルギー密度は「100wh/kg」であり、研究段階でもその2倍の「200wh/kg」というレベルで、文字どおり桁違いと言わざるを得ない状況にあるのが現実です。さらに、将来の実用化が目指されているリチウム・イオウ電池(1,000wh/kg)やリチウム空気電池(5,000wh/kg)でも石油に匹敵するエネルギー密度にはまだまだ及ばない状況といえます。

第18回「共通の認識の上で語ろう『エネルギー密度』」|一般財団法人 ベンチャーエンタープライズセンター VEC
http://www.vec.or.jp/2010/06/22/column_018/

もちろん、機体のエネルギー効率はバッテリーだけではなくモーターやプロペラ、機体の空力特性などを総合して初めて意味を成すものであるため、バッテリー単体の数値だけで論ずるのは早計とはいえますが、やはり石油との大きなギャップを埋めるためにはバッテリーのエネルギー密度を高めることが不可欠です。

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in ハードウェア,   乗り物, Posted by darkhorse_log

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