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世界初の「ハイブリッド飛行機」を可能にする飛行機用モーターの開発が進行中、2015年には新たな実機テストも実施予定


自動車の世界ではエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドカーや、さらに燃料を一切使わないEV(電気自動車)が徐々に存在感を増してきましたが、航空機の分野でも「電気飛行機」を実現させる技術開発が進められています。ドイツの大手企業「Siemens」は従来の性能を大きく上回る航空機用電気モーターの開発に成功しており、世界初となる電力を用いた旅客機の実現も徐々に視野に入るようになってきています。

World-record electric motor for aircraft - Siemens Global Website
http://www.siemens.com/press/en/feature/2015/corporate/2015-03-electromotor.php

World-record electric motor for aircraft
http://phys.org/news/2015-04-world-record-electric-motor-aircraft.html

Siemensによる航空機用モーターを用いた推進システムはこんな感じ。4枚のプロペラの背後にはモーターが備えられているのですが、ひときわコンパクトな本体が目をひきます。その本体重量はわずかに50kgというもので、従来の航空機エンジンよりもケタ違いに小型・軽量になっている模様。


モーター本体だけの様子がこちら。重量50kgという本体から実に260キロワット(kW)という高い出力を得ることが可能となっています。出力を重量で割った1kgあたりの出力キロワット数を示す「出力重量比(パワーウェイトレシオ)」は約5.2kW/kgとなるのですが、これは従来の電気モーターのおよそ5倍に相当することからも、その性能の高さを垣間見ることができます。


この「約5kW/kg」という性能により、2015年時点における世界で最も効率の良いモーターとなっています。しかもこの性能は耐久性を度外視した一瞬だけのハイパワーではなく、安定して運転することができる連続出力の値であることからも、実用性の高さを垣間見ることができます。この高い性能のおかげで、電気モーターで飛ぶ航空機としては初めて離陸重量2トンまでの機体を飛ばすことを可能にしました


Siemens社の「eエアクラフト」部門を率いるフランク・アントン氏は「この技術開発により、発電用エンジンを積むタイプのシリーズ・ハイブリッド方式を採用して4名程度の乗客を乗せて飛ぶ航空機の製造が可能になるでしょう」と語っています。このモーターを搭載した機体による実験は2015年中にも行われる予定となっており、その後の見通しについてアントン氏は「中期的な可能性として、50名から100名クラスのリージョナル機での使用を視野に入れています」と語っています。


産業用に用いられている電気モーターの出力重量比は1kW/kg程度であり、比較的効率のよい自動車用エンジンでもおよそ2kW/Kgという状況。そんな中で今回開発されたモーターは約5kW/Kgという高い性能を示しているうえに、その性能を回転数2500rpmで発揮するようになっているのもポイント。この回転数は航空機のプロペラを回すのに適した回転数であるために、ギヤなどの余分な機構を省いてさらにエネルギー効率を上げることにもつながっています。


その高い性能を実現するために、Siemensの技術者はそれまでのモーターが持つ全てのコンポーネントを詳細に見直し、最適化することでそれぞれの仕組みが持つ性能を限界まで押し上げたとのこと。新しいシミュレーション技術と、軽量化を可能にする製造技術のおかげで、高い性能を実現することができたとしています。


テスト用のリグに取り付けられたモーター。モーターを駆動する電力は、機体に搭載される発電用の小型ロータリーエンジンで作られたものが供給される仕組みとなっています。


Siemensではこれまでにも航空機メーカー大手のエアバスや小型機メーカーのDiamond Aircraftと共同で電気飛行機の開発を進めており、2013年には出力60kWのモーターを搭載した実験機「E-Star 2」の試験飛行に成功しています。以下のムービーではそんなE-Star 2が実際に飛ぶ様子を見ることができます。

Siemens EADS DA36 E-Star 2 - 2013 evolution @ Paris Air Show - YouTube


発電用に搭載されているエンジンは小型のものであり、離陸時に求められる大きな出力には対応していないとのこと。そこで、離陸・上昇の際には機体内に搭載したバッテリーに蓄えておいた電力を一気に放出することで高出力を実現するようになっています。いちど巡航姿勢に入ると飛行に必要な電力は少なくなるため、余った発電能力で生みだされた電気をバッテリーに充電することで高効率性と軽量化を実現しているそうです。


従来の技術では難しいと考えられていた電気飛行機も、次第にその実用性が視野に入る段階へと近づきつつあるようです。Siemens社のページでは、記事中の画像を含む複数の画像が公開されており、興味のある人にとっては面白い内容になっています。

Press Pictures - Siemens Global Website

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in ハードウェア,   乗り物,   動画, Posted by darkhorse_log

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