厳しさを増し、ターニングポイントにさしかかりつつある「ジャンボ機」を取り巻く状況とは
By Kas van Zonneveld
大きな翼に4つのエンジンをつり下げ、2階建ての巨大な機体で多くの人を運ぶジャンボ機は長きにわたって名実共に空の主役を務めてきましたが、2000年代に入ってからはかつての勢いが見られないようになっています。さまざまな要因が重なることで厳しさを増す超巨大機を取り巻く現状はどのようなものなのでしょうか。
The jumbo jet faces a make or break year at Boeing, Airbus | Reuters
http://www.reuters.com/article/2015/04/16/us-aerospace-jumbo-insight-idUSKBN0N70DR20150416
いわゆる「ジャンボ機」と言えば、ボーイング747型機を思い浮かべる人がほとんどのはず。定員500名以上という、それまでとは別格の輸送能力を備えたB747がデビューした時は「巨大すぎて使いきれるわけがない」と懐疑的な見方も存在していましたが、その後の大量輸送時代を築き上げた功績は誰の目にも明らかです。そんなジャンボ機と双璧を成すエアバスA380型機は総2階建ての機体を持ち、最大で800名という乗客を1度に目的地へと運ぶことができる機体です。
By GIOVANNI PACCALONI
そんな2大ジャンボ機ですが、両機を取り巻く状況は厳しさを増しつつあります。機体の老朽化や運用コストの高さから世界各国で運行停止・廃機が進んでおり、そのあおりを受けて2014年には両機はついに新たな受注が1機もないという状況に至っています。(航空会社からの受注に関して。リース会社からは受注あり)
そんなジャンボ機の後を受けるように台頭してきたのが、エンジンを2基搭載した双発機です。双発機はジャンボ機に比べると比較的に機体サイズが小さく、ジャンボ機に次ぐ「大型機」と呼ばれるボーイング777型機でも1度に運べる旅客数は300名から最大でも500名程度となっています。
By Aalok Gaitonde
一方のジャンボ機の場合は、500名を超える乗客を軽々と乗せることができ、最大で800名にも及ぶ乗客を運ぶことができるため、搭載能力だけを比較すると双発機はジャンボ機に到底及ばないと言わざるを得ません。しかし、エンジンの数が少ないことによるメンテナンス費用の低さや燃費の良さ、そして路線の需要に応じて機材を振り分けやすいという双発機の利便性の高さが航空会社から評価され、次第にジャンボ機から「空の主役」の座を奪うようになりました。
ジャンボ機の発注数の減少は、今後の生産計画にも大きな影響を与え、事情に詳しい人物によると、ボーイングとエアバスの両社では今後の方針について議論が起こっているといいます。これにより、現時点で空を飛び交っている同型機の存在価値に影響がおよぶと同時に、生産に関わる製造スタッフの雇用という別の問題が起こることは想像に難くありません。
ボーイングとエアバスの両社では、すでに航空会社から示された発注意向をさらに確定的なものである確定オーダーにするための営業攻勢を航空各社に働きかけており、今後の生産計画の確定に躍起になっている状況。一説では、一機あたりおよそ4億ドル(約480億円)というカタログ価格から50%以上の値引きを行っているとも言われています。
これに合わせ、ボーイングでは747-8型機の生産規模を従来の1月あたり1.5機から1.3機へと減少させています。それでもなお現時点で抱えているバックオーダーは2年半で完了してしまう計算となり、商談開始から発注契約締結までに1年とも言われる長い交渉期間を要する航空機の世界では、わずか2年半分のバックオーダーは危機的な状況に近いといっても過言ではありません。
By David Brown
航空機の取引や管理、リース業を行うCabot Aviation社のTony Whitty CEOは「ボーイング747-8型機に対する需要は少ない状況です。しかしそれでも航空機メーカーに対しては、受注がなくても生産体制を維持するつもりはあるのかを確認する必要があります。そしてもちろん、実際の価格のことも重要なポイントです」と語ります。
過去20年にわたり、747型機のようないわゆる4発機のニーズは減少を続けてきました。この代わりに台頭したのが、ボーイング777型機やエアバスA330型機のような双発機です。同じ期間で双発機の受注数は7倍にも増加しており、ボーイングは2014年には777型機だけで283件の受注を獲得、合計で547機のバックオーダーを抱えているという極めて好調な状況となっています。
一方のエアバスは超大型機「A380」をデビューさせて間もない状況で、ボーイングに比べてまだ楽観的な姿勢を見せますが、それでも両社は共通して「超大型機はニッチなカテゴリーである」と認識していると言われています。もはや4発機が必要とされる路線は、太平洋や大西洋を跳び越える長距離路線や、一部の輸送量が集中する路線だけに限られており、多くの路線は双発機が十分にその役目を果たしている状況となっています。
ボーイングでは、退役が近づいた大統領専用機「エアフォース・ワン」の後継機として、747-8型機をベースに新造する「新エアフォース・ワン」の仮発注を受けるという好ましい状況にあるものの、747型機の将来は貨物機としての役目にかかっているといえそうな状況となっています。とはいえ、2015年4月時点で、ボーイングが獲得した貨物型747型機の発注はわずか3機で、世界最大の貨物型747型機ユーザーのCargoluxは3機の発注を保留している状況。航空輸送のニーズが昨年で4.8%増加したことは明るい材料といえる一方で、これは2009年の金融不安以前の水準にようやく戻った状況でもあります。
By Pilot's Eye Photography
ボーイングでは貨物型747型機のニーズを2020年までに143機と見込んでいますが、これに影を落とすのが燃料価格高騰の問題です。運用コストの増大が重くのしかかる航空会社は高価な最新型の貨物型747-8型機の発注を避け、代わりに1度は退役した中古の旅客型747型機を改装して貨物機に転用する動きを見せ始めています。これにより、ひと月あたり140万ドル(約1億7000万円)という新型機のリース費用は、中古機の場合だとわずか40万ドル(約5000万円)に圧縮することが可能になるため、コスト増にあえぐ航空会社にとっては無理もない話です。
一方、2007年に就航したエアバスA380型機は比較的「若い」機材で、現在は主にエミレーツ航空など中東系の航空会社で多く使用されています。そんなエアバス社でも近年のニーズ減少を受け、エンジンを換装することによって競争力を向上させるか、現状のまま乗り切るかの判断を迫られているといいます。
現在エアバスが抱えているA380のバックオーダーは161機で、これは向こう5年分の生産が確保されている状況。しかし、刻々と変化する世界の情勢を受け、受注した全ての機体が実際に納入されると限らないのは、経営不振を理由に発注がキャンセルされたスカイマークの例からも明らかなことといえます。そのため、航空機メーカーでは常に新たな受注を確保しておくことが重要なのですが、2014年に新たな受注がなかったという事実はエアバスに暗い影を落としていると言わざるを得ない状況です。
By Michi
2015年11月に開催されるドバイ航空ショーには「A380復活」を宣言したいエアバスですが、まずは投資家からの理解を得ることが先決であると言われています。A380型機開発に投じた日本円で3兆円とも言われる開発費が回収される見込みが建たなければ、エアバスはEU政府から追加の支援を受ける必要があり、これがアメリカとの摩擦を生む原因になりかねないというのです。
世界最大のA380キャリアーであるエミレーツ航空は、機体の改良が加えられることを条件に、現状で140機とされる追加発注を倍増させる意向を表明していますが、エアバスの上層部は一部の航空会社に特化した仕様変更には乗り気ではない状況とみられます。
By cmonville
航空機の運用には巨額の費用と設備、そして長期にわたって安定した旅客ニーズをつかむことが非常に重要とされるのですが、双発機へのシフトが進む状況の中で、超巨大機であるB747型機とA380型機の運用はさらに難易度が高いと見られる状況です。単に「憧れ」だけで飛行機は飛ばないという現実が立ちはだかる中で、超巨大機の行く末がどのようになるのか注目が集まりそうです。
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