コラム

経済発展には「競争」と「平等」のバランスこそが大切だと考えた世界の事例


経済発展の為には競争が欠かせませんが、貧富の差が拡大して治安は悪化します。これが冷戦時に資本主義を選んだアメリカ型の社会。一方で、平等な社会を目指すと貧富の差が縮小して、治安は安定しますが経済は発展しません。これが、冷戦時に社会主義を選んだ旧ソ連型の社会。どちらにも一長一短あります。

こんにちは、自転車で世界一周をした周藤卓也@チャリダーマンです。世界150カ国を旅したのですが、日本ほど公衆トイレが普及している国はありません。日本ほど自動販売機が普及している国もありません。日本は世界でもまれに見る安全な国だったりします。こうした社会を築けたのは、戦後の経済発展がある程度平等だったからかもしれません。


しかし、日本にも格差社会が根付きつつあります。競争が生み出す格差社会の行き着く先を私は世界で見てきました。だからといって、社会を平等にすべきという主張もできません。競争と平等のバランスを取りながら前に進むしかないと思った次第です。

◆旧ソ連
資本主義と社会主義、かつて2つの陣営が激しく対立した冷戦時代がありました。しかし、社会主義陣営は崩壊しました。

たとえ貧しくとも社会主義陣営の盟主だった旧ソ連の国々では識字率が高かったこともあって、旅中でも妙な安心感がありました。危険な国によくある金網や鉄格子とは無縁の街並み。穏やかな社会が形成されています。ただし、酔っ払いというリスクあり。

社会主義陣営の一党独裁、計画経済は人間社会の現実に即しておらず、ゆえに資本主義陣営に敗れ去ってしまいました。しかし、全てがマイナスだったとは私は思いません。少ななくとも最低限の生活は保障されていました。冷戦も遠い過去のできごとになった今でも、治安の心配があるのは、資本主義陣営の国々だと思っています。特に中南米。


◆中南米
冷戦時、資本主義の盟主アメリカの裏庭として対米追従を余儀なくされた中南米諸国。アフリカのように物がないということはなく、どの国もある程度の経済発展は遂げているのですが、アメリカに倣った格差の大きな社会を作り出していました。その結果、日本では考えられないほどに治安が悪くなっています。ファストフード店の前に銃を持った警備員がいる日常でした。旅中の犯罪にしたって、東南アジアでよくあるトランプ詐欺といった小芝居よりも、欲しければ力づくで奪い取るという暴力的な被害に遭う実例が多し。実際に私もメキシコでナタを持った若い男に強盗されました。冷戦の後遺症といいますか、中南米諸国は今なお競争と平等の合間で揺れ動いています。

貧しい人たちが増えると、その国では格差を是正する政権が誕生します。ベネズエラのチャベス、エクアドルのコレア、ボリビアのモラレス、アルゼンチンのフェルナンデス、ブラジルのルーラと、一時期南米では、貧困層の支持を受けた左派の政権が強い時期がありました。

その時のアルゼンチンを旅したのですが、物価統制をやっていて愕然としました。政府が生活必需品の値段を決めるのです。また、当時の政府は米ドルに対して公定レートを定めていましたが、過大評価という市場の判断から闇レートが発生。刻々とアルゼンチンペソの価値が下がっていく、あのジンバブエを彷彿させるインフレが起きていました。当時のアルゼンチンの混乱は記事にしています。

アベノミクスも真っ青のインフレーションと通貨安に陥った国が南米に存在 - GIGAZINE


格差の是正も大切なことですが、左派が政権を握ると経済が停滞しがち。その後、アルゼンチンでは政権交代によって右派の大統領が誕生。チャベス亡き後のベネズエラの混乱も最近ではよくニュースになっています。

中南米を旅してみると経済が明るいのは、競争重視の国でした。中米のパナマ、南米のペルー、チリでは経済の勢いを感じていました。どの国にも、あふれんばかりの物があって楽しく買い物ができました。ペルーとチリはTPP(環太平洋パートナーシップ協定)の参加国。こちらも記事にしました。

「中米のシンガポール」も夢ではない経済発展で確実に変わりつつあるパナマについて - GIGAZINE


日本とも関わりの深いペルーで注意したい格差と治安について - GIGAZINE


記事の趣旨からすると「社会主義的な国は治安がよい」と書くべきなのですが、中南米はどこも危険な雰囲気があって気が抜けません。ただ、鉄格子が多かったペルーの首都リマよりは、ボリビアの首都ラパスの方が穏やか雰囲気でした。あとグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラスという“中米三恐”を抜けたニカラグアの雰囲気が緩くてびっくりしました。それまでは鉄格子と銃が標準装備という国々だったのに、ニカラグアの最初の町では市場で両替商が裸の札束をポンポンやっているんですから。ニカラグアの大統領も左派だったりします。しかも、こちらは国内の貧困層を減少させ、2016年には3選を決めたとか。このような記事も書いています。

これからの日本のためにも知っておきたい中米における格差社会の現実 - GIGAZINE


中米はスーパーが普及しているので買い物は楽でした


空から泥棒がやってくる?コスタリカの首都サンホセの宿にて


◆カリブ海
私が訪問したキューバ以外のカリブ海の島国もアメリカの影響力が強く、資本主義陣営のもとで、ある程度の経済発展は遂げるも、貧富の差が大きく治安の悪い印象を受けました。さんさんと降り注ぐ日差しに、透き通るほどに青い海、そんな楽園のイメージで、現地を訪れると衝撃を受けることでしょう。かなり、緊張感を持った旅をしていました。

トリニダード・トバゴのガソリンスタンドでジュースを買ったら会計が分厚いガラス越しでした。レジとお客の間に小さな回転扉があって、そこで商品とお金のやり取りをします。それほどの危険な場所なんだと認識して嫌な汗が流れました。バハマの空港にはウェンディーズというハンバーガーチェーンのお店が営業していました。しかし、店舗の前には銃を持った警備員。あのおさげで可愛らしい女の子がロゴが、組長の娘のようでした。

トリニダード・トバゴの首都にて


◆アフリカ
アフリカはスペインからモロッコに入って西アフリカをコンゴ共和国(ブラザビル)まで縦断しました。そこから空路でケニアへ移動して東アフリカを縦断しています。

貧しかったのは、断然西アフリカでした。しかし、危険を感じたのは豊かである東アフリカの方です。貧しい国だからといって、危険という考え方は間違っています。皆、同じくらいの生活レベルだと社会の秩序は保たれます。マリの首都バマコ、縁あって夜の街を歩くのですが、大人たちが道端に椅子を出しておしゃべりに夢中、そんな光景が忘れらせません。一方でケニアの首都ナイロビでは、暗くなったら絶対に外を歩きませんでした。だって、ホテルの階段には鉄格子。そして銃を持った警備の方もいらっしゃるんですもの。


しかし、西アフリカは物が不足しています。ほとんど工業化が進んでいません。一方の東アフリカは物が充実していました。特にケニアですが、何でも置いてあるスーパーマーケットに興奮しました。西アフリカにもスーパーはあります。でも、輸入品が大半を占めるので下手したら日本より高くつく品物ばかり。しかしケニアは違いました。メイドインケニアばかりですから、品物の値段も現地の物価相当。好きなものを好きなだけ買い物できる喜びがありました。満たされました。

また、西アフリカでは経済が回っていないので安宿の選択肢が限られます。その点、東アフリカの安宿は選択肢も豊富で旅もやりやすかったです。ケニアで初めて泊まった安宿では受付の男性がカッターシャツにスラックスのズボンというシャキッとした格好をしていました。直前まで滞在していたコンゴ共和国の安宿は私服の若い兄ちゃんが働いていて公私混同に近い状態。しかし、コンゴ共和国の安宿の方が値段が高いのです。ケニアでは電気式の温かいシャワーでしたが、コンゴ共和国のシャワーは水しかありません。しかし、コンゴ共和国の安宿の方が値段が高いのです。旅の宿でもラブホテルでも、その国に現地の人が使う環境があれば、競争も生まれて宿の値段が下がります。西アフリカ、特にフランス語圏はそうした環境からは遠く、物価の割に宿代が高くついていました。

ケニアの首都ナイロビ


◆フィリピン
この格差が治安に影響する現象。東南アジアでも実感しています。フィリピンのセブンイレブンには警備員がいて、入店するときも緊張して背筋がピンと伸びました。同じ東南アジアでも、タイのセブンイレブンではドアの前で犬が寝そべっていて、入店と同時に「サワディーハー」という挨拶が聞こえてきて気が抜けます。タイの牧歌的なコンビニと違って、フィリピンのコンビニにはピリッとした雰囲気がありました。

犬がいるタイのコンビニ


警備員がいるフィリピンのコンビニ


首都マニラは危険という情報もあって、あえてフィリピンではセブ島を走りました。訪れてみて納得。東南アジアにありながら、フィリピンには中南米の匂いがしました。スペイン、アメリカとの関わりが深い歴史が影響しているのでしょう。だから、治安に関しても中南米にいるようでした。初めて泊まった街の商店は、金網越しで商品のやり取りでした。商店のおばちゃんからも「あんた気をつけなさいよー」と忠告を受けます。結局、滞在中に何事も起きませんでしたが警戒はしていました。フィリピンの治安は中南米よりはマシ、でも東南アジアでは悪いといった印象です。

商品を手に取ることができない金網越しでのお買い物


防御力が高い商店


2016年6月に就任したドゥテルテ大統領は同国内で蔓延する麻薬犯罪の撲滅へ向けて、容疑者の射殺を厭わない強硬な姿勢で臨んでいます。その結果、数千人もの麻薬犯罪容疑者が、法の裁きを受けることなく射殺されました。こうしたドゥテルテ大統領の手法は、フィリピン国内外問わず大きな物議を醸しています。犯罪に手を染める人間は非難されるべきですが、貧困という犯罪が生まれる土壌を変えないと、いつまで経っても問題は解決しないと私は思っています。

だからといって、フィリピンはただの危ない国ではありません。経済は十分に回っているようで、あふれんばかりの物がありました。セブ島の観光地ではない地方都市にも大きなショッピングモールがあって、沢山の人で賑わっていました。そこでみかけるのはフィリピン国内ではあのマクドナルドより人気となっている「ジョリビー(Jollibee)」というファストフード。このジョリビーは、フィリピンだけでなくベトナム、アメリカと言った海外に店舗を構えています。それどころか中国でも「永和大王」というファーストフード店を展開。また、フィリピン国内で「Oishi」というブランドでスナック菓子を販売するリウェイウェイ・ホールディングスも、「上好佳」という名前で中国市場に展開しています。日本のカルビーが撤退した中国のポテトチップス売り場で存在感を放つのがフィリピンの企業という事実。経済発展が著しいからこそ、フィリピンにも日本と肩を並べるような企業があったりするのです。

関取のような体型が愛らしいジョリビーのマスコット


セブ島の地方都市にあったモール


◆日本
冷戦時、日本は資本主義陣営に属しながらも、年功序列と終身雇用に支えられた一億総中流とも呼ばれる社会主義的な平等を享受できる時代がありました。しかし、そうした平穏も永遠に続く訳ではありません。最近では正規、非正規といった格差社会が日本にも根付きつつあります。さらに、外国人技能実習生という人たちも働いています。

資本主義陣営の盟主として、誰よりも競争することで経済を発展させてきたアメリカが、トランプ大統領就任によって格差是正に動いているのも見逃せません。自国産業優先の姿勢から、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)からも脱退。その一方で、日本は参加して更なる競争に挑みます。

競争がないと経済は発展しません。でも、格差に対処しないと治安の心配が出てきます。私の見た世界はこのような感じでした。経済発展には「競争」「平等」、どちらもないがしろにできないのではないでしょうか?私たちはどんな社会を目指すのか、皆さんの考える材料になればと思いこのような記事を書かせていただきました。

(文・写真:周藤卓也@チャリダーマン
自転車世界一周取材中 http://shuutak.com
Twitter @shuutak
Facebookページ https://www.facebook.com/chariderman/
DMM講演依頼 https://kouenirai.dmm.com/speaker/takuya-shuto/)

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in コラム, Posted by logc_nt

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