富裕層がますます裕福になり経済成長を担っているのがよくわかるグラフ
by Danny Kekspro
経済格差の頂点に立つ「超富裕層」の人々62人は世界人口の半分と同じ富を持っていることがわかっています。裕福な人々と中流階級、収入が少ない人々で収入の成長率がどのように違うのかがグラフ化されており、富裕層が経済成長をどれくらい担っているのかや、現在進行形で格差が拡大しているのがまざまざとわかるようになっています。
You're not imagining it: the rich really are hoarding economic growth - Vox
https://www.vox.com/policy-and-politics/2017/8/8/16112368/piketty-saez-zucman-income-growth-inequality-stagnation-chart
非営利組織のEPIの調べによると、1948年から2015年までの労働者の収入の上昇を見た時、1973年にターンポイントがあるとのこと。1973年までは第二次世界大戦の余波で経済が成長し、時給ベースで収入を得る労働者と生産力ベースで収入を得る労働者の双方の収入が向上していました。しかし1973年以後は、生産力ベースで収入を得る労働者の収入が向上していったのに対し、時給ベースで収入を得る労働者の収入は伸び悩んでいます。
さらに、労働者の収入に対して指摘されているのは、課税前収入のシェアを見た時に、トップ1%、あるいは0.1%、0.01%のシェアが著しく増えていること。以下の図を見ると、1970年代までは4%に満たなかったのが、ここ近年で10%を越えているのがわかります。
これらのグラフは「政府による富の再配分が失敗している」という文脈でしばしば用いられます。しかし、このような分析に対し、保守派の経済学者や政策アナリストは異議を唱えていました。反対派の主な主張は「上記グラフは課税前の収入を使ったものであり、フードスタンプやメディケイドといった公的給付を考慮に入れていない」「グラフは消費者物価指数(CPI)を使ってインフレーションを調整しており、これは『インフレを誇張する』と多くの経済学者が主張するとことである」「トップ0.1%の人々のシェアはアメリカ合衆国内国歳入庁の確定申告のデータを元にしている。これはいくつかの点で優れているが、健康保険または年金拠出金のような、雇用者が雇い主から受け取る非課税の利益を除外している。また確定申告は、個人・子ども無しのカップル・子どもの多いカップルなど複数タイプのユニット単位で提出されるが、少子化によりそれぞれのユニットの人数は減少している。これにより、個人単位で見た場合、データが示すよりも実際の収入額の成長は大きくなる」ということなど。上記の要素により、グラフが示すよりも、実際には1970年代以降の中流階級の収入の増加は大きいと主張されています。
しかし、経済学者のトマ・ピケティ氏、ガブリエル・ザックマン氏らは、健康保険・年金・フードスタンプ・メディケイドといった公的な保障を考慮した上で税金ベースの(PDFファイル)収入データを分析。このとき、家族単位ではなく、個人単位での収入の変化が調査されたので、保守派の指摘する少子化の影響は考慮されていることになります。また、CPIではなく「slower-growing inflation metric」という方法が使用されたとのこと。
つまり、EPIのグラフに異議を示した経済学者らの批判をすべて考慮した上で分析を行ったのですが、それによって示された人々の収入の増加傾向は以下のとおり。縦軸が1980年から2014年にかけての年間平均経済成長率で、横軸が各収入層のパーセンタイルです。
やはり、トップ1%、0.1%、0.01%の収入の成長は劇的で、トップ10%とそれ以外の人々の収入の成長率は著しく違うのがわかります。赤いグラフが課税前収入、青いグラフが課税後収入となっており、課税前収入だけを見ると収入成長率が逆進している層も存在します。平均的なアメリカ人の経済成長率は年間1.5%で「悪くない」数字とのことですが、トップ層は年間3~6%の経済成長率です。
また、各収入層の1980年の収入成長率と2014年の収入成長率を比較するとこんな感じ。1980年は、高所得者の収入成長率が2%以下で、収入が低くなるほどに成長率が下がっていたのがわかります。この原因については諸説ありますが、1950年代に運用されていた限界税率が一因としてあると考えられています。
The Broken Economy of the United States, in One Simple Chart https://t.co/HPqxHDUmsC pic.twitter.com/5SnIx3TiLr
— Gabriel Zucman (@gabriel_zucman) 2017年8月8日
しかし、1950年代の最高税率が91%であったのに対し、2017年現在は39.6%です。1950年代はCEOが自分の賃金を上げても課税によって手取りが減ってしまうのであまりロビー活動なども行われませんでしたが、現在では賃上げ交渉によってCEOがより多くの富を得ることができます。このような仕組みが富の不平等を生み出しているとも考えられています。ピケティ氏、ザックマン氏らも、高い限界税率の存在によって当時の高所得者が賃上げに熱心で無かったことを指摘。また、高い税率を課しても高所得者が有益な経済活動から遠のくことはないとしています。
一方で、保守派の経済学者らは、1950年代にあっても91%を課される人々はごく少数であり、また抜け穴もあったことから、当時の富裕層の多くは税率42%で、現在の39.6%と大差なかったと主張。1950年代のように現在の税率を引き上げることは多くのコストを要するとしています。
by Kats Weil
・関連記事
世界の総財産の約44%を独占する超富裕層は何人いて、どこに住んでいるのか? - GIGAZINE
エリート校は裕福な学生だらけ、貧しさの連鎖は続いている - GIGAZINE
最も貧乏な人たちは最も裕福な人たちよりも税金の負担が大きいという研究結果 - GIGAZINE
貧困層よりも富裕層の方が10年から15年長生きできる - GIGAZINE
格差の頂点「超富裕層」とはどのような人たちなのかがわかるレポート「The Wealth Report 2015」 - GIGAZINE
ロシアの富の35%をわずか110人の人間が占めている - GIGAZINE
世界の著しい貧富の差を示す5つのグラフ - GIGAZINE
・関連コンテンツ