南極大陸が氷に覆われることになった地球環境の大変動とは?そしてそこから見えてくる地球環境のバランスとは
By Ronald Woan
極寒の地で他の世界からは隔離された南極大陸は、表面積の98%が氷で覆われるという地球でも他に類を見ない環境を持つ地域です。いつどのようにして南極大陸ができあがり、氷に閉ざされた大地になったのかについては諸説ありましたが、新たに発表された研究結果では、複数の理論を組み合わせることでその起源を説明する有力な考え方が提唱されており、またそこからは地球の気候変動がいかに微妙なバランスの上に成り立っているのかがわかるものになっています。
Scientists explain how Antarctica was formed - Business Insider
http://www.businessinsider.com/how-antarctica-formed-2017-2
かつては他の大陸とともに超大陸ゴンドワナの一部を構成していた南極大陸は、分離して移動を始めてからは他の大陸とは異なる運命をたどることになりました。地球で5番目に大きく、オーストラリア大陸のおよそ2倍の広さを持つ南極大陸は、その大部分が平均で1.6kmという厚さの氷に覆われており、地球上の氷の90%が南極大陸に集中し、淡水の70%が存在しています。氷に閉ざされた環境のため、人間をはじめとするほとんどの動物の生息には適しておらず、また、自生する植物もごくわずかという、生物には極めて過酷な環境となっています。
By Public Domain
そんな南極大陸で氷床が作られるようになったのは、今から3400万年前と考えられています。急激な環境の変化が起こり、南極大陸の気温が大きく下がることで氷に閉ざされた大地へと変貌を遂げることになるのですが、その原因には「地球環境の変化」と「地球を取り巻く海流の変化」という2つの説が唱えられていました。しかし、いずれも決定打に欠けるものだったそうです。そんな中、カナダのマギル大学Department of Earth and Planetary Sciencesの研究チームは、これら2つの理論を組み合わせることで、南極大陸の氷床生成を引き起こした決定的な原因を指摘しました。
地球の歴史をさかのぼること5億年前から6500万年前の古生代~中生代にかけての時期、まだ南極大陸がゴンドワナの一部を構成していたころは、南極大陸は現在よりも北に位置していました。当時の南極大陸は今のような極寒・乾燥の地ではなく、温帯や熱帯に属する気候が存在していたと考えられています。そのため、大陸には多くの動物が住み、植物が生い茂っていたと考えられています。また、当時の地球は今でいう「地球温暖化」の状態にあり、気候は現在よりも温暖で、南極大陸を覆う氷も存在していなかったと見られています。
そんな南極大陸に変化が訪れたのは、現在から4000万年前ごろでした。ゴンドワナが徐々に分離をはじめ、南極大陸は超大陸から離れて南へと移動を始めます。しかしこの時にもなお、南極大陸には現在のような氷床は形成されていませんでした。気候が温暖だったことと、南極を取り巻く環境が現在とは全く異なっていたことから、南極の近くに位置していながらも、氷に覆われる環境にはなかったというのがその理由です。
環境が大きく変化したのは、南極大陸が今の南米大陸の先端・ホーン岬から分離してドレーク海峡が形成された頃でした。2つの大陸がつながっていた頃は、現在でいう南太平洋と南大西洋は分断されていたのですが、ドレーク海峡の誕生にともなって、この地域の海流が大きく変化することになります。南極大陸と南米大陸の間に生まれた海峡には大量の海水が流れ始め、やがて南極大陸を取り巻くように西から東へと流れる「南極環流」が形成されるようになりました。
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南極環流が南極大陸を取り巻くように流れることで、やがてこの地域には太平洋や大西洋からの暖かい海流が流れ込まないようになり、地域の気温が低下を始めます。ちょうどこの頃から、南極大陸には雪が積もり、やがて氷床が構成されるようになってきました。これが、南極に極めて多くの氷が蓄積されるようになった理由の1つと考えられています。しかし、これだけでは現在のような南極大陸の状況を生みだすのに十分な変化は起こらないと考えられていました。
そこで、研究チームが持ち出したのが、海流の変化によって地球環境が大きく変化したという見方です。新しく生まれた海流により、地球全体の熱の循環に変化が生じたことで、地球の環境が寒冷化に向かったというのが研究チームが唱えている新しい理論です。
前述のようにして南極環流が生まれたことで、それまで南に流れていた暖かい海流は行き場を失い、再び北へと向かう流れが生まれます。この流れにより、かつては南極付近へと運ばれていた暖かい海流が押し戻されることとなり、赤道に近いエリアには熱が溜まるようになりました。温められた海水は蒸発し、上空で雲を形成して雨を降らします。南極環流が生じたことで暖かい海流が戻され、海水がさらに温められて降水量が増えるという、まさに「風が吹けば桶屋が儲かる」の方式で、地球の環境には変化が訪れます。
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さらに連鎖反応は続きます。降水量が増えると、地表に生い茂る植物が多く育つようになります。植物は二酸化炭素を次々と吸収して光合成により多くの酸素を生みだすようになり、地球上の二酸化炭素濃度が継続的に低下を始めました。また、大地を構成する鉱物の1つ・ケイ酸塩に二酸化炭素が吸収されることでも、地球の二酸化炭素濃度は下降を続けます。
よく知られるとおり、二酸化炭素は温室効果ガスであることから、その濃度が低下することで地球の大気は熱を保持する能力を弱めます。このことにより、地球の平均気温は徐々に下降するようになりました。ちょうど、現在の社会で問題とされている「地球温暖化」とは逆の「地球寒冷化」が起こることで、南極大陸の氷床はさらにどんどんと成長するようになったというのが、研究チームが発表した新たな論理というわけです。
By Eli Duke
論文の共同著者である、マギル大学のガレン・ハーヴァーソン博士はリリース文の中で「気候変動ということに関していえば、これは重要な教訓となります。この論文では、南極大陸で起こった『氷河がない時代』から『氷河がある時代』という、2つの異なった気候状態の間の変化を示したものであるからです。ここからわかるのは、気候変動がいかに複雑な仕組みとなっているのか、そして、地質学的な時間の流れから見れば、海流の変化が惑星全体の気候に大きな影響を与えているということです」と、研究内容の意義を語っています。
今回の研究からは、地球の気候がいかに複雑なバランスの上に成り立っているのか、そして非常に大きなスケールで作用していることがわかります。また、近年顕著とされている地球の気候変動の急激なペースと照らし合わせて考えると、その意味の重みがさらに増してくるようにも感じられます。
研究チームによる論文は、以下のリンクから参照することが可能です。
Enhanced weathering and CO2 drawdown caused by latest Eocene strengthening of the Atlantic meridional overturning circulation : Nature Geoscience : Nature Research
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