サイエンス

南北アメリカ大陸がつながった後に南アメリカの哺乳類だけが北アメリカで繁栄できなかった理由とは?

by Dennis Church

約300万年前、南北アメリカ大陸を結ぶパナマ地峡が形成されたことで、北アメリカの動物が南アメリカへ、南アメリカの動物が北アメリカへと移動するアメリカ大陸間大交差が発生しました。この際、「北アメリカの哺乳類は南アメリカで繁栄した一方、南アメリカの哺乳類が北アメリカで繁栄しなかった」という事態が発生しており、国際的な研究チームがその謎に迫る論文を発表しています。

Disproportionate extinction of South American mammals drove the asymmetry of the Great American Biotic Interchange | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/09/29/2009397117

What Happened to South America’s Missing Mega-Mammals? - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/10/08/science/mammals-south-america-extinction.html

白亜紀末の大量絶滅によって全生物種の70%が絶滅し、それまで繁栄していた恐竜も地球上から消えました。その後に台頭したのが哺乳類であり、かつて陸続きだった北アメリカとアジアの間では盛んに哺乳類の行き来があったとのこと。

一方、長年にわたって北アメリカ大陸から独立していた南アメリカ大陸では、独自の奇妙な生態系が作られていました。巨大なナマケモノの近縁種であるメガテリウム、ツノがないサイのようなトクソドン、アルマジロに近い巨大哺乳類のグリプトドン、巨大な牙を持つ有袋類ティラコスミルスなど、独特の哺乳類が南アメリカに生息していました。

そんな状況が大きく変わったのが、地殻変動による北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の接続です。パナマ地峡が形成される前、400万年前ごろから両大陸では哺乳類の行き来があったようで、パナマ地峡の形成によって動物の行き来は活発化。この現象はアメリカ大陸間大交差と呼ばれています。


古生物学者らは長年にわたって、アメリカ大陸間大交差にまつわる一つの謎に直面していました。それは、「南アメリカでは北アメリカにルーツを持つ哺乳類が劇的に増加した一方、北アメリカでは南アメリカにルーツを持つ哺乳類があまり増えなかった」という点です。確かに南アメリカから北アメリカに移動した哺乳類もいたものの、現代まで生き延びたのはオポッサムやアルマジロなど、わずかな種のみだそうです。

アメリカ大陸間大交差における哺乳類の移動に非対称性がある理由については、「北アメリカから南アメリカへ移動した哺乳類の数が、南アメリカから北アメリカへ移動した数よりも多かった説」「大陸間の移動は均等だったものの、移動した先で多様性を獲得した種が北アメリカから南アメリカへ移動した哺乳類に多かった説」「大陸間の移動は均等だったものの、南アメリカから北アメリカへ移動した哺乳類が多く絶滅してしまった説」「大陸間を移動した種の多様性に違いがあったという説」など、さまざまな説が唱えられています。

パナマのスミソニアン熱帯研究所の研究員であるJuan Carrillo氏らの研究チームは、哺乳類の移動におけるギャップを調査するため、約2万個の化石に関するデータセットを分析。アメリカ大陸間大交差の前後に南北アメリカ大陸に生息していた哺乳類の多様性などを調査しました。

by Jan Stefka

分析の結果、アメリカ大陸間大交差が始まる前の中新世後期には、南アメリカ大陸における哺乳類の多様性はピークに達していたことが判明。ところが、その後の鮮新世(約500万年前~258万年前)には多様性が52%も減少し、更新世(約258万年前~1万年前)でも多様性の減少は継続していたと研究チームは述べています。

Carrillo氏は、南北アメリカ大陸間で哺乳類の移動が始まった当初、哺乳類の行き来は均等だっただろうと指摘。しかし、その後に南アメリカ大陸において哺乳類の大規模な絶滅が起きたため、結果として南アメリカから北アメリカへ向かう哺乳類の種類も減少し、多様性のギャップが生じたと主張しています。


南アメリカ大陸で哺乳類が大量に絶滅した詳しい理由は不明ですが、鮮新世における気候変動によって乾燥化が進み、森林が減少し、地球規模の冷却サイクルが始まったことが哺乳類の生息域を変化させ、生態系にストレスを与えたと見られています。また、アメリカ大陸間大交差によって北アメリカから侵入してきた哺乳類との生存競争や、新たに持ち込まれた寄生虫や病気も絶滅に関与した可能性があるそうです。

Carrillo氏は、「おそらく絶滅の理由は非常に複雑で、生物学的な相互作用や生息域の変化も含まれているのでしょう」と述べています。近年では人為的な動物種の移動も進んでおり、Carrillo氏は「人間が今日行っているこのような動物の移動は、長期的には重要な結果をもたらすかもしれません」と語り、外来種の侵入が生態系に予測不可能な変化をもたらす可能性があると指摘しました。

by Dennis Church

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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