生き物

研究者がうっかり2種の絶滅危惧種をかけ合わせて「絶滅危惧種のハイブリッド魚」を生み出してしまう


気候変動や人間の活動によって多くの動植物が絶滅の危機に瀕したり、実際に絶滅してしまったりするケースは後を絶ちませんが、研究者らはさまざまな手段で絶滅危惧種の繁殖を試みています。ロシアチョウザメヘラチョウザメという2種類の絶滅危惧種を用いた実験を行っていた研究チームは、うっかり2種の絶滅危惧種をかけ合わせて「絶滅危惧種のハイブリッド魚」を生み出してしまったと報告しました。

Genes | Free Full-Text | Hybridization of Russian Sturgeon (Acipenser gueldenstaedtii, Brandt and Ratzeberg, 1833) and American Paddlefish (Polyodon spathula, Walbaum 1792) and Evaluation of Their Progeny | HTML
https://www.mdpi.com/2073-4425/11/7/753/htm

Scientists Accidentally Bred a Bizarre Hybrid of Two Endangered Fish
https://www.sciencealert.com/scientists-create-a-strange-hybrid-between-two-very-different-kinds-of-fish

Scientists Accidentally Bred the Fish Version of a Liger - The New York Times
https://www.nytimes.com/2020/07/15/science/hybrid-sturgeon-paddlefish.html

ロシアチョウザメとヘラチョウザメはいずれも乱獲などによる個体数の減少から絶滅危惧種となっており、共にチョウザメ目チョウザメ亜目に属していますが、それぞれチョウザメ科とヘラチョウザメ科に分かれている別の種類です。また、ロシアチョウザメは東ヨーロッパやセルビア、中東などの海・池・川の底に生息して甲殻類や小さな魚を食べており、ヘラチョウザメは北アメリカに生息して動物プランクトンをこしとって食べるといった生息域や食性の違いもあります。

それぞれの種は約1億8400万年前に分岐したと考えられており、完全に別の大陸で孤立して進化を遂げてきました。そのため、同じチョウザメ目に属しているとはいえ、見た目にも大きな違いがあります。以下の画像が、典型的な若いロシアチョウザメの写真。



以下の写真が若いヘラチョウザメの写真です。ヒレや鼻など、一目見ただけで大きな形態的違いがあることがわかります。


ハンガリー水産養殖研究所の研究チームはこの2種の魚を使い、ロシアチョウザメの雌性発生による繁殖を試みていました。雌性発生とは、精子が卵子の分裂を誘発するものの受精は行われず、メスに由来する卵子の核のみを元に個体が発生する無性生殖の一種です。雌性発生はさまざまな障害を引き起こす場合が多いものの、ギンブナなど一部の動物では、雌性発生でも正常に個体が発生するケースもあるとのこと。

2019年、研究チームはロシアチョウザメの卵子の近くにヘラチョウザメの精子を配置し、精子の刺激によって卵子の雌性発生を促す実験を行いました。2つの種は1億8400万年前に分岐し、見た目もまったく違うことから、研究チームは卵子が受精することはないだろうと考えていました。


しかし、研究者の予想に反してヘラチョウザメの精子はロシアチョウザメの卵子との受精に成功し、意図せず「絶滅危惧種のハイブリッド魚」が数百匹も誕生してしまったとのこと。研究チームのAttila Mozsár氏は、「私たちは決して雑種を作りたかったわけではありません。これは全く意図的ではありませんでした」とコメントしています。

意図せず生み出されてしまったこの魚は、「ロシアチョウザメ(Russian sturgeons)」と「ヘラチョウザメ(American paddlefish)」の名前を組み合わせて「sturddlefish」と呼ばれています。sturddlefishは2つの種を半分ずつ混ぜたような非常に奇妙な形態をしており、ロシアチョウザメのようなヒレと鼻を持ち、ヘラチョウザメのような口と肉食の食性を持っているとのこと。以下の画像で一番上がロシアチョウザメ、一番下がヘラチョウザメで、真ん中の2種類が今回生まれたsturddlefishです。DNA分析の結果、sturddlefishには「ロシアチョウザメとヘラチョウザメのDNAを半分ずつ受け継いだ個体」と「母親のロシアチョウザメのDNAを2倍量受け継いだ個体」の2種類が存在することが判明したと研究チームは報告しています。


今回誕生したsturddlefishは生まれてから1カ月後に3分の2ほどに減ったそうですが、記事作成時点でもおよそ100匹ほどが生存しており、研究チームは今後も世話を続けていく予定です。研究チームは新たにロシアチョウザメとヘラチョウザメの雑種を作り出すつもりはないとのことですが、今回の発見は一見すると遠く離れた種であっても、時には雑種が生まれるケースがあることを示す貴重な事例といえます。

アメリカのニコールズ州立大学に所属する生態学者のSolomon David氏は、「私は最初にこれを見た時、信じられませんでした。『チョウザメとヘラチョウザメの交配?できるはずがない』と思いました」とコメント。しかし、「生きた化石」とも呼ばれるチョウザメの仲間は非常に寿命が長く進化の速度が遅いため、1億8400万年という時間は交雑の障害にならなかったのではないかと指摘し、「これらの生きた化石が依然として私たちを驚かせることは非常にクールです」と述べました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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