サイエンス

大西洋の海洋循環が早ければ2025年にも崩壊し全世界の気候に多大な悪影響を及ぼす可能性が研究で示唆される


海洋の循環は地球の気候に大きな影響を及ぼしていると同時に、地球温暖化の影響を受けて変動していることが指摘されています。デンマーク・コペンハーゲン大学の研究チームが発表した新たな論文では、熱帯の温かい海水を北に、北部の冷たい海水を南に送ることで北半球の気候に大きな影響を及ぼす「大西洋南北熱塩循環(AMOC)」が、早ければ2025年にも崩壊してしまう可能性が示唆されました。

Warning of a forthcoming collapse of the Atlantic meridional overturning circulation | Nature Communications
https://doi.org/10.1038/s41467-023-39810-w


Gulf Stream current could collapse in 2025, plunging Earth into climate chaos: 'We were actually bewildered' | Live Science
https://www.livescience.com/planet-earth/climate-change/gulf-stream-current-could-collapse-in-2025-plunging-earth-into-climate-chaos-we-were-actually-bewildered

Gulf Stream could collapse as early as 2025, study suggests | Climate crisis | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2023/jul/25/gulf-stream-could-collapse-as-early-as-2025-study-suggests

水深数百m以下の中深層で生じる地球規模の海洋循環は、海水の密度を決定する塩分濃度と温度によって生じていることから熱塩循環と呼ばれています。海流によって酸素や栄養素、炭素、熱がベルトコンベアーのように世界規模で循環することにより、記事作成時点の地球の気候が保たれているというわけです。

大西洋において最も重要な熱塩循環であるAMOCは、メキシコ湾流などを含むいくつかの海流によって構成されています。AMOCは塩分濃度と密度が高い表層の海流を北に送り、その海流がグリーンランド沖で熱を放出すると共に冷却されて底層へ沈み込みます。沈み込んだ海流はゆっくりと南へと戻り、南の海域で温められることで表層に上がってきて、再び北に送られるという循環ができています。

NASAのゴダード宇宙飛行センターが作成した以下の図を見ると、赤色で示された表層の海流と青色で示された下層の海流が、地球規模で循環していることがわかります。

by NASA/Goddard Space Flight Center Scientific Visualization Studio

AMOCは記事作成時点の状態である「より速く強いモード」と、海流循環が乏しくなる「より遅く弱いモード」という2つの状態を交互に切り替えていると考えられています。最後にモードが切り替わったのは約1万年前に終わった最終氷期であり、この際はグリーンランド付近の気候はわずか10年以内にセ氏10~15度も上昇したとのこと。AMOCが現在の「より速く強いモード」から「より遅く弱いモード」に切り替わった場合、ヨーロッパや北米の気温は10年以内にセ氏5度も低下する可能性があるそうです。

近年は、グリーンランドの氷河崩壊などによる淡水流入によって海水の密度や塩分濃度が変動し、AMOCが弱まっていることが指摘されています。2021年にはAMOCの安定性がここ1世紀でほぼ完全に失われ、モードの転換点が遠からず訪れるのではないかという研究結果も発表されています。

海洋循環システムの1つ・大西洋南北熱塩循環の安定性はほぼ完全に失われたとの研究 - GIGAZINE


しかし、AMOCの直接的な観測データは2004年以降のものしかないため、長期的なスケールでAMOCの変動を分析することは困難でした。そこでコペンハーゲン大学の統計学教授であるスザンヌ・ディトレウセン氏らの研究チームは、1870年から測定されている北大西洋の表面海水温度のデータを統計モデルに入力し、AMOCの変動について予測しました。

その結果、AMOCのモードは当初の予想よりも大幅に早く、2025年~2095年の間に転換する可能性があることが判明しました。論文の共著者であるコペンハーゲン大学のピーター・ディトレウセン氏は科学系メディアのLive Scienceに対し、「AMOCの崩壊が非常に近い可能性があり、その結果は非常に重大であるため、私たちは今すぐに行動を起こさなくてはなりません」とコメントしています。

海外メディアのThe Guardianは、「AMOCが崩壊すれば、インド・南米・西アフリカに住む数十億人の食料調達に必要な雨に悪影響が及び、世界中に悲惨な結果がもたらされるでしょう。ヨーロッパでは暴風雨が増加して気温も下がり、北米の東海岸では海面上昇につながるでしょう。さらにアマゾンの熱帯雨林や南極の氷床も危険にさらされる可能性があります」と述べています。

一方で今回の研究については、海水温を海流速度の予測に使用するといった点に不確実性が存在しており、結論に至るまでに多くの仮定と未知の変数があるという指摘も上がっています。マックス・プランク気象研究所の所長であるJochem Marotzke氏は、「数学面は専門的に処理されているように見えますが、物理的な基盤は極めて不安定です」と指摘。ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの地理学准教授であるDavid Thornalley氏も、研究には未知数の部分が多くさらなる研究が必要だとの見解を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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