サイエンス

海洋循環システムの1つ・大西洋南北熱塩循環の安定性はほぼ完全に失われたとの研究


地球の気候に影響を与えている「海洋大循環」が温暖化の影響で弱まる可能性は以前から指摘されてきましたが、このうち、大西洋の海流システムである大西洋南北熱塩循環が、ここ数十年で最も弱い状態になっており、安定性はこの1世紀でほぼ完全に失われたことが明らかになりました。

Observation-based early-warning signals for a collapse of the Atlantic Meridional Overturning Circulation | Nature Climate Change
https://doi.org/10.1038/s41558-021-01097-4


Climate crisis: Scientists spot warning signs of Gulf Stream collapse | Climate change | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2021/aug/05/climate-crisis-scientists-spot-warning-signs-of-gulf-stream-collapse

研究を行ったのは、ベルリン自由大学数学・情報科学部のニクラス・ボーア氏。


水温と塩分による密度差で、海水は「熱塩循環」と呼ばれる深層循環をしています。大西洋に存在するのが、北上した温かい表層流がグリーンランド沖で冷やされ、重くなって底層に沈み込み南下する「大西洋南北熱塩循環」です。

大西洋南北熱塩循環の働きが弱まっていることは、2017年の研究で指摘されていました。研究によれば、大西洋南北熱塩循環の衰退は19世紀から始まっており、20世紀の半ばからは勢いが加速。ここ数十年は『最も弱い状態』になっていました。

地球規模で海水が循環する「海洋大循環」が温暖化の影響で弱まる可能性 - GIGAZINE

by quapan

新たな研究によると、大西洋南北熱塩循環は安定性をほぼ完全に失っていて、「終わりが近づいている」可能性があるとのこと。

熱塩循環自体が非常に複雑なシステムである上に、今後の地球温暖化がどう推移するかがはっきりしないため、「崩壊の日」がいつかは具体的にはわからないとのこと。もし「崩壊の日」が訪れた場合、ヨーロッパでは暴風雨増加と気温低下、北アメリカの東海岸では海面上昇、インド・南アメリカ・西アフリカでは降水量減が予想されており、アマゾンの熱帯雨林や南極の氷床にもさらなる危険を及ぼすことになるため、科学者たちは「絶対にその日が来ることは許されてはならない」と述べています。

2019年に、すでに地球環境は後戻りできない「転換点」にさしかかっていることを指摘する声がありましたが、以後も気候危機は悪化の一途をたどっています。

地球環境は「もう戻れないところ」にまで来てしまった可能性がある - GIGAZINE


今回の研究に直接関与していないアイルランド・メイヌース大学のLevke Carsar氏は「この分析は、熱塩循環がすでに安定性を失っている証拠を示しています。私たちが考えているより熱塩循環の『転換点』が近いかもしれないという警告だと思います」とコメント。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのデイビッド・ソーナリー氏は「安定性低下の兆候は懸念しますが、崩壊が起こるかどうか、またどの程度崩壊に近づいているのかはまだわかりません」とコメントしています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「地球温暖化は人間が原因」とIPCCがついに断定、「人類にとって赤信号」と国連事務総長 - GIGAZINE

突如に出現した巨大な穴は地球温暖化対策が待ったなしを示唆する時限爆弾だと科学者が指摘 - GIGAZINE

グリーンランド氷床の融解が熱波の影響で加速している - GIGAZINE

ここ20年でグリーンランドの氷は予想を超える勢いで解けていることが明らかに - GIGAZINE

シベリアの気温が38℃を突破、北極圏での最高気温を更新 - GIGAZINE

シベリアの永久凍土地域にぽっかりと口を開けた巨大な陥没「地下への入り口」から見えてくる地球の変化とは? - GIGAZINE

気候変動によって年間17億トンの二酸化炭素が北極圏の永久凍土から放出されている - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.