サイエンス

極地の氷が解けることで「地殻変動」が起きていることが判明、氷床から数百km以上離れた場所でも


地球温暖化によって北極や南極の氷が解けることは、海面の上昇や極地に生息する動物の生息域が減少するといった問題を引き起こします。新たな研究では、極地の氷が解けることで海の下にある「地殻」が垂直方向だけでなく水平方向にも動いており、それが極地から数百マイル(数百キロメートル)以上離れた場所でも発生することが判明しました。

The Global Fingerprint of Modern Ice‐Mass Loss on 3‐D Crustal Motion - Coulson - 2021 - Geophysical Research Letters - Wiley Online Library
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021GL095477


Melting of polar ice shifting Earth itself, not just sea levels – Harvard Gazette
https://news.harvard.edu/gazette/story/2021/09/melting-of-polar-ice-shifting-earth-itself-not-just-sea-levels/

Vanishing ice is warping Earth's crust | Live Science
https://www.livescience.com/melting-ice-warps-earth-crust

極地や高緯度地域に存在する氷河・氷床・海氷は、地球にとって一種の「重し」と捉えることができます。そのため、形状記憶の枕から頭を離すと次第に枕の形が元に戻るように、地球上の氷が解けると地殻にかかっていた重みが外れ、ゆっくりと地殻の形が元の形状に戻っていくとのこと。


この現象はGlacial Isostatic Adjustment(氷河性地殻均衡調整)と呼ばれており、以前から科学者らに知られていました。氷の融解による地殻変動は非常にゆっくりとしたスピードで進行するため、約1万年前に最終氷期が終わって大規模な氷床が解けたことによる地殻の隆起は、現代でも一部の高緯度地域で継続しているといわれています。

近年では、地球温暖化によって極地や高緯度地域の氷が急速解けだしていることが問題となっており、地殻変動はさらに加速していると考えられます。しかし、氷河性地殻均衡調整に関するほとんどの研究は氷床の真下やその周辺の地殻に注目しており、変動の向きも垂直方向に焦点を合わせたものだったそうで、より3次元的で水平方向の変動についての研究は十分でないそうです。

そこで、研究当時ハーバード大学の博士課程に在籍しており、記事作成時点ではロスアラモス国立研究所の博士研究員であるソフィー・コールソン氏らの研究チームは、21世紀に発生した氷の融解が地殻に及ぼした影響を、世界の広い範囲で3次元的に分析する研究を行いました。


研究チームは2003年から2018年にかけて収集された衛星データを使用して、地殻の小さな変動を検出し、南極・北極・グリーンランド・その他の高緯度地域における氷の喪失と比較しました。その結果、氷の喪失による地殻変動は多くの場合で垂直方向の隆起より水平方向の移動の方が大きく、移動する距離は失われる氷の量に左右されることが判明。また、氷が解けたことによる地殻変動は、氷から数百マイル以上離れた場所でも起きることがわかりました。

大量の氷を抱える極地は南半球と北半球にそれぞれ存在しますが、南極では2000年代に急速に氷が解けた一方で大陸の東側では新たな氷が増えていたことから、氷の増減は平均化されて地殻変動は南太平洋の比較的小さな範囲に収まっていたと研究チームは指摘。一方、北半球では氷の喪失による地殻変動が北米やヨーロッパなど広い範囲で観察されたと述べています。

研究チームは、氷床損失が大きかった2012年にはアメリカやヨーロッパの最北端地域で、水平方向に年間平均0.45ミリメートルの移動が見られたと述べています。また、氷床損失の少なかった2006年でも、平均0.1ミリメートルほど水平方向に移動していたそうで、調査期間中の平均移動距離は年間0.2~0.3ミリメートルでした。なお、極地から離れるほど移動距離は減少したものの、アメリカ西部や南ヨーロッパといった地域でも、0.05ミリメートル未満の地殻変動が確認されたそうです。

以下の画像は、北アメリカ大陸とヨーロッパにおける2012年と2006年の地殻変動の大きさを、色と矢印の長さで示したもの。氷床損失が大きかった2012年は大きく地殻が動き、氷床損失の小さかった2006年は小さく動いていることがわかります。


コールソン氏は氷床が失われた影響で長時間にわたり地殻が変動することについて、「短いタイムスケールでは、地球は弾性のあるゴムのようなものだと考えられています。しかし、数千年のタイムスケールで見ると、地球は非常に動きの遅い流体のように振る舞います」とコメントしています。

地殻変動は単に氷床損失の結果として表れるだけでなく、氷床の下にある岩盤の傾斜が変わることにより、氷が解けるスピード自体にも影響を及ぼす可能性があります。コールソン氏は「地殻の動きを引き起こす全ての要因を理解することは、地球化学のさまざまな問題にとって非常に重要です。たとえば、地殻変動や地震活動を正確に観測するには、氷床の喪失によって生成された運動を分離する必要があります」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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