成層圏に二酸化硫黄をまいて太陽光を遮断して地球温暖化を防ごうという「Geoengineering」とは?
二酸化炭素などの温室効果ガスの増加によって20世紀以降、かつてないほど急激に地球の気温が上昇しています。気温上昇に伴って気候が変化して異常気象が起こるなど地球環境の危機とも呼ぶべき地球温暖化に対して、成層圏に気体を散布することで太陽光を遮断するというアイデアが出され、その是非について議論が紛糾しています。
Climate Hackers: One man’s plan to stop global warming by shooting particles into the atmosphere | The Verge
http://www.theverge.com/2016/8/24/12589796/climate-hackers-david-keith-geoengineering-climate-change
成層圏に二酸化硫黄を散布するGeoengineeringがどんなものかについて、The Vergeがムービーを作成しています。
A scientist's plan to hack the climate - YouTube
私たちは気候変動の大きな変わり目にいます。
大規模な飢饉や数百万人の食料難民が出る危険性にさらされています。
地球温暖化などによって気候変動が大きくなる中、解決策に向けた政治的な議論はまだ一致を見ていません。
そんな中、「気候をハックする」という言葉がぴったりの「Geoengineering」という概念が登場しています。
Geoengineeringの急先鋒として知られるのはハーバード大学のデビッド・キース博士。「低コストで地球温暖化による気温上昇を半分に減らせる」とGeoengineeringの可能性を説明します。
キース博士の考えるGeoengineeringの基本的なアイデアは、地球に降り注ぐ太陽光による熱を減らすというもの。
温室効果ガスの増加などに伴って、かつてないほどに急激に上昇する地球の気温を、太陽からの熱を遮断することで減らそうというわけです。
キース博士のアイデアは、飛行機を成層圏まで飛ばして……
成層圏で気体を散布するというもの。
散布されるのは二酸化硫黄。
成層圏にまかれた二酸化硫黄は、酸素原子や水と結合して……
硫酸分子になります。
この成層圏を漂う硫酸分子によって、太陽光を反射させて地球に注がれる熱を減らそうというアイデアです。
キース博士の試算によると、二酸化硫黄を成層圏に散布するコストは年間で20億ドル(約2000億円)
これに対して気候変動によって拠出を余儀なくされるコストは年間で1兆9000億ドル(約190兆円)なので、Geoengineeringは極めて費用対効果が高いとキース博士は考えています。
当然ながら、キース博士らが主張する二酸化硫黄を利用したGeoengineeringによって地球環境に与える悪影響に対する懸念の声があります。
二酸化硫黄を利用したGeoengineeringのモデルとして最適な自然現象が火山の噴火です。1991年にフィリピンのピナトゥボ山で発生した20世紀最大の噴火によって、世界中の気候が大きく変化しました。
この自然現象によって0.5度も地球の気温が下がったと推測されています。
しかし二酸化硫黄を活用するGeoengineeringには、ピナトゥボ山の噴火と同様に、オゾン層に対する影響も懸念されています。
研究者の中には二酸化硫黄を活用するGeoengineeringは熱帯雨林に悪い影響を与えうると考える人もいます。
ワシントン気候Geoengineeringコンソーシアムのウィル・バーンズ氏は、二酸化硫黄を活用するGeoengineeringが地球環境への極めて甚大な悪影響を与える潜在的な危険性を懸念していると述べています。
バーンズ氏は熱帯モンスーン地方やアフリカなどの地域の気候に影響を与える可能性を指摘しています。
Geoengineeringには二酸化硫黄を散布するアイデアだけでなく、二酸化炭素を地中や海中に封入するCCSなどさまざまな種類があり、すでに世界規模の会議で議論がされていますが、有効性や危険性に対する意見は一致していません。
オゾン層への影響度については、二酸化硫黄を使ったGeoengineeringは、アルミナやダイヤモンドのチリに比べてより大きな悪影響があるとの報告も上がっています。
一方で、ダイヤモンドのチリの方が二酸化硫黄よりも地球の気温上昇を抑制する効果が高いという検証結果もあるとのこと。
これに対して、Geoengineeringによってより多くの作物を作れるという見解もあります。
キース博士は二酸化炭素などの温室効果ガスの削減による気温上昇を食い止める効果に比べると、Geoengineeringがはるかに優れていると考えています。
何ら地球温暖化対策がとられることなく従来通り温室効果ガスが排出されれば、地球の気温は2050年には2000年に比べて「危険ゾーン」だと考えられている「2度」の上昇を突破し、2100年には「6度」近くまで上昇すると見積もられています。
二酸化硫黄を活用するGeoengineeringなどの強力な対処を行うことで、はじめて2100年までの気温上昇幅が2度以下に抑えられるとのこと。
二酸化硫黄を使ったGeoengineeringを採用するか否かは別として、地球温暖化対策は待ったなしの状況であり、世界各国の首脳は遅かれ早かれ決断を下すことを余儀なくされるとのことです。
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