少数精鋭で会社やプロジェクトを成功させるためのノウハウ、Pocketの場合
by Pennsylvania National Guard
気になるページを保存してあとで別のスマホなどからオフライン時にも読めるようにできる「Pocket」には2000万人以上のユーザーがおり、さまざまなウェブサイトやSNS上に散らばるコンテンツを20億以上保存していますが、サービスの規模に反して、現在のPocketはわずか20人の従業員で支えられています。そんなPocketのCEOであるネイト・ワイナー氏が考える、「少数精鋭で大きな結果を残すためには何をすればいいか」がFirst Round Capitalにまとめられています。
The Story Behind How Pocket Hit 20M Users with 20 People - First Round Review
http://firstround.com/review/the-story-behind-how-pocket-hit-20m-users-with-20-people/
2015年でPocketのサービスが提供され始めてから8年が経過しましたが、そのうち4年間、Pocketの従業員はワイナー氏だけで、ウェブサイトの立ち上げからiOSアプリの開発、何百万人ものユーザーのサポートまで、全て一人で行っていました。サービスが提供され始めてから4年が経過し人員を増やそうとした時も、ワイナー氏は「5人は多すぎる」と感じていたようで、「なぜ一人でできる仕事に10人で取りかからなければならないのだろう?」と疑問視していたとのこと。最初から「少数精鋭で会社の規模を広げる」ことを想定していたワイナー氏がPocketを成功に導けたのは、以下の考え方によるものです。
◆少ない人数で集中する必要に迫られること、またはそう想定すること
by Israel Defense Forces
2015年に入って、Pocketが抱えるプロジェクトは20を越えました。つまり、従業員の数よりも多くなったのです。会社は規模に関わらず常に戦い続けなければなりませんが、規模の大きな会社だと、リーダーを決めて、それぞれの仕事にエンジニアを割り当てて、彼らを鼓舞しながら仕事を進めて、と作業の工程が多くなります。迅速性が求められるスタートアップにとって、人員が少ない方が仕事そのものに集中でき、迅速な対応と正確な優先順位付けが可能になる、というのがワイナー氏の見解。
2015年の第1四半期を経過した時点で、Pocketの抱えるプロジェクト全体の進捗はあまりよいものではありませんでした。しかし、そんな時に「Mozillaが全てのバージョンのFirefoxでPocketを使えるようにしたがっている」ということを知り、チーム全体のフォーカスを「Firefoxとの統合」1本に絞ることに。規模の小さな会社の場合、1つのプロジェクトに集中する価値があると思ったら、何とか実行できる方法を探ることが大切です。Pocketの場合、Firefoxとの統合にチーム全体が集中することで作業が迅速に行われ、質の高い仕事が行えるだけではなく、従業員たちの意気も上がったとのこと。その勢いで次のプロジェクトに取りかかれるため、分担してプロジェクトを行っているよりも最終的には効率を上げることができました。
規模が大きな会社の場合も同じ事が言え、例え100人の従業員を抱えていたとしても、ワンルームに全従業員が収まっていた時のことを思い出し、「全員でこのプロジェクトに取りかかるべきか?」という自問に「そうだ」という答えが返ってきたなら、1つのプロジェクトに集中すべきだというのがワイナー氏の考えです。規模の大きな会社は余裕があるので、「今やらなくてもいいこと」に人員を割けます。しかし、規模の小さな会社は「無駄をなくして集中すること」を強いられるため、逆にそれが強みになるわけです。四半期ごとに「次の90日で『変化』を生み出すプロジェクトは何か」を考え、想定した最良の結果に向かって動くこと。
◆自分の文化の土台を固め、しかしできることは増やしていく
by Pink Sherbet Photography
たった一人で創業したワイナー氏は、企業文化を担うただ一人の人物だったので、Pocketの発達段階において濃密な文化形成を行うことができました。Pocketの企業文化は「信頼」「挑戦的であること」「Pocketを直接管理すること」の3つですが、これはワイナー氏そのものの性質であるとも言えます。
多くのスタートアップがそうであるように、会社を運営し続けていると、現状ではどうにもできない分野が途中で出てくるはず。Pocketの場合はデザインがそれに当たりました。エンジニアリングとプロダクト作成の経験を持っていたワイナー氏ですが、デザインに関する経験がなかったため、最初にデザイン担当としてニッキーさんを雇いました。彼女は黄色と黒で構成されていたPocketのデザインを刷新し、現在のPocketのデザインも引き続き担当しています。「自分にない価値を持つ人間は雇用する必要がある」、とワイナー氏。
企業文化の土台を固めてから人を雇用しだしたPocketですが、Pocketの企業文化の1つである「信頼」に足る人物を複数人雇えたことで、ワイナー氏なしでも仕事を進め、決定が行えるようになったとのこと。お互いに信頼し、認め合っている人々の場合、話合うことでワイナー氏一人で問題の解決案を考えるよりも優れた解決案が生み出せたとワイナー氏は語っています。
規模が小さな会社は成長するにつれ、企業文化のよい面に目を向けざるを得なくなります。そして、これら企業文化は仕事のやりやすさだけでなく、プロダクトの完成度にも大きく関わっていきます。
◆物事をシンプルかつ簡単に行えるようにする
by Tomás Gianelli
PocketはTwitterやFirefoxなど多くのネットサービスと提携することで、今や多くのユーザーを抱えるサービスとなりました。そして現在、ワイナー氏のもとには従業員の数を倍にしても抱えきれないどほのチャンスが存在します。スタートアップがこのような状態にあるとき、CEOの取り得る手段は「大量に人員を雇用する」と「プラットフォームを改良する」の2種類。後者を選ぶCEOにとってはワイナー氏のアドバイスが役立つはず。
Pocketが決定を行う時の指針は「どうやったら全てをシンプルな方法で実現できるか?」ということ。独自APIの開発もその1つで、楽天が「2カ月でKoboとPocketを統合できるか?」と尋ねて来たとき、通常であればチーム総出で1からコードを書かなければならないところを、コード1つで多くのネットサービスと統合できるAPIを開発していたおかげで2週間で実現できたとのこと。
ワイナー氏によると、理想は「企業がワイナー氏やチームにコンタクトを取らずに勝手に統合を行えること」。シンプルな1つの解決策を導きだすことで、少人数でも多くの問題に対処できるようになるわけです。
ただし、人が関わらなくても対処できるシンプルな方法を導き出すということは、スタートアップを完全に自動化させる、というのとは違います。PocketがFirefoxと提携することを目標にアドオンを作成し、アップデートを重ね、Pocketの歴史やデータを示したことで、Firefoxと統合できたように、かじ取りは人の手で行う必要があります。
また、提携することで契約は一段落しますが、関係はそこから始まります。例えばPocketの場合はAppleやGoogleが「Pocketは今マーケットの何を見ているのか」ということを理解できるよう、透明性を保っているとのこと。そうすることで、パートナー企業が「これをやろう」と思った時にコンタクトが取りやすいようにし、またPocket自身も仕事に取りかかりやすくなるわけです。「パートナーにサービスを提供する方法、そして彼らが私たちを成長させる手助けになる方法を考えています」とワイナー氏。
◆「ユーザーが会社を成長させる方法」を考える
by Moss
小さな企業にとって、ユーザーは「プロダクトを次の段階に発展させる一人」になり得ます。そのため、もしベータチャンネルがあるのなら、一方通行のものではなく、共同開発できるインタラクティブな形式にすることが大切。「初期段階のPocketは、流れる滝のようなプロダクトでした。年に1度、大きなリリースを行い、次の6カ月間は地下にもぐって再び大きなものを開発。そして発表するのです。発表したものはユーザーに受け止められていましたが、我々はもっと頻繁に顔を出すべきように思いました」とワイナー氏。小さな会社の場合、ユーザーは受益者でありながら協力者でもあります。Pocketはサービスをよりオープンにすることで、ディテールのあら探しではなく、成長のための問題の解決策に目を向けることができるようになりました。
ユーザーとの関わりを持つことで、年に1度リリースを行うだけだったPocketは5~6週間ごとにリリースを行うように変化。プロダクトを一般公開する前に完璧な状態にすることは困難です。かつて完璧な状態でのリリースを目指していたPocketですが、今はプロダクトにバグがあっても、それで全てがダメになるのではないということを理解しています。
大きなリリースを一度に行うのではなく、小分けにリリースを繰り返すことで、ユーザーがフィードバックを行うことが可能になり、またユーザーも自分のフィードバックが聞き入れられると理解してくれます。この仕組みによって、ただユーザーが「一方的にプロダクトを使う人」ではなく、「遠隔チームの一人」となるわけです。
さらにPocketの場合、ユーザーのフィードバックを集めるに留まらず、フィードバックを実際にプロダクトのロードマップの指針にしているとのこと。ユーザーからの反応を調査して、機能を実際にベータ版に組み込むこともあるそうで、ただ「聞き流す」のではなく、本当の意味で「ユーザーの声を聞き入れる」ことの重要さをワイナー氏は説いています。「これが嫌い」とコメントするユーザーは解決法を示してはいないかもしれませんが、最後まで文章を読めば、そこに大きな挑戦のかけらが示されている可能性もあります。
例えば、Pocketアプリの上部には新しく「MYLIST(マイリスト)」と「RECOMMENDED(オススメ)」という2つのタブが付けられましたが、これもユーザーからの声を調査した結果として生まれたもの。機能を画面のどの部分に取り付けるかという問題がありましたが、画面の下部にボタンを付けてしまうと、そのほかのボタンの位置関係がおかしくなってしまうため、親指が届きにくい位置にあるという問題を抱えつつも画面上部に機能が置かれたそうです。
そして、ユーザーの声を調査する時に大事な点が3つあり、1つ目は、ユーザーを「カジュアルユーザー」「コアユーザー」「あまりサービスを使わないユーザー」といった風に分けること。2つ目は、アンケートを行う場合、内容は5分以内に回答できるよう完結にまとめること。そして3つ目は、「フィードバックボタン」「メール」「ポップアップ」というように、フィードバックの方法を複数設けること。特に3つ目に関して、Pocketはユーザーがアプリを開いたまま5分以上放置していると「Hey. Everything OK?(大丈夫ですか?)」という風にポップアップが表示されるという特徴を持っています。
上記の通り、少人数でプロジェクトに集中することを強いられること、周囲のネットサービスがPocketにコンタクトを取らなくても統合できるようにすること、ユーザーと一体となって開発を行うこと、といった方法を取ることによって、Pocketは従業員の数を増やすことなく、会社の規模を広げてきました。
「過去に私が『後に読む機能をブラウザに組み込む』と言った時、周囲の人は不可能だと言いましたが、数年後、私はFirefoxとPocketを統合させました」と語るワイナー氏は、多くのスタートアップCEOと同じく巨大な夢を抱いています。「今、私はできる限り多くの人にプラットフォームを使ってもらえるよう、さらにサービスの規模を大きくしたいと考えています。そして彼らには、ただプロダクトを楽しんでもらうだけでなく、開発を手伝ってもらいたいのです。数百のパートナーと何百万のユーザーの助けがあれば、それは可能だと思います」と語るワイナー氏は、今後も少数精鋭での会社運営を続けていくとのことです。
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