サイエンス

世界最古の血液が「アイスマン」から発見される

by Scott Wilcoxson

約5300年前の石器時代の人間だとされている「アイスマン」は発見以来長らく調査が続けられていますが、最新の技術を使った研究で、カラカラに乾いたミイラから初めて血液を採取することに成功。さらに、アイスマンが致命傷を負ったあとに即死していたことが判明しています。

Preservation of 5300 year old red blood cells in the Iceman | Journal of The Royal Society Interface
http://rsif.royalsocietypublishing.org/content/early/2012/04/26/rsif.2012.0174

World's Oldest Blood Found in Famed "Iceman" Mummy
http://news.nationalgeographic.com/news/2012/05/120502-oldest-blood-otzi-iceman-mummy-oetzi-zink-science/

アイスマンとは、1991年にオーストリアとイタリアの国境付近にあるアルプス山脈の氷河の中で発見された、約5300年前の石器時代を生きていたとされる男性のミイラ。発見場所であるエッツ渓谷の名前をとって「Ötzi(エッツィ)」とも呼ばれていて、発見されてから20年以上も解剖調査が続けられています。

現在はイタリア北部の南チロル考古学博物館にアイスマンのミイラと復元立体が保管されています。復元立体は以下のもので、上半身は裸で、足には毛皮を巻きつけ、毛皮の靴を履き、狩猟道具を持っていたと推測されています。


これまでの調査では、アイスマンが背中に受けた矢傷や他の外傷が原因で非業の死を遂げた、ということは判明していたものの、ミイラ化しているため血液の痕跡を見つけることができなかったそうです。イタリアのInstitute for Mummies and the Iceman(ミイラ・アイスマン研究所)の所長・Albert Zink氏によると、アイスマンの動脈を開いても血液の痕跡はなく、矢傷による流血がかなりひどかったため血液は体内から流れ出てしまったのではないか、と推測していたとのこと。

最新の研究では、背中の矢傷と右手のすり傷の周囲を、最新のナノサイズの探針を使って調査。探針の動きをレーザーで記録していき、赤血球の詳細な3Dイメージを作成することに成功。

下記のスキャン画像からは、真ん中がへこんだ丸いドーナツ型の赤血球がはっきりと確認できます。


さらにレーザーの波長パターンを分析することで物質の分子構造を解明し、これが赤血球であることを突き止め、世界最古の血液の発見となりました。過去にも石器時代の道具に付着した血液を分析することで、先史時代の血液の構造をうかがい知ることは可能でしたが、赤血球と似た形の花粉やバクテリアも付着しているため、血液かどうかは定かではなかったとのこと。


また、原子間力顕微鏡を用いた調査の結果、アイスマンの傷跡からはフィブリン(繊維素)も見つかりました。フィブリンは、身体に傷ができると数分のうちに形成され、生身の人間の場合はだんだんと消えるものですが、アイスマンの身体からフィブリンが検出されたということは、彼が傷を受けてからすぐに死んだことを表しています。「研究者の中にはアイスマンが傷を受けてから数時間~数日生き延びたと主張する人もいるが、それは全くの間違いだと分かりました」とZink氏は断言。

これらの調査で使われたナノテクノロジー技術は、現代の殺人事件の捜査にも応用できる可能性があります。現代の法科学は、乾燥してしまった血液を測定することが難しいのですが、今回の調査で使われた技術を応用すれば、皮膚や粘膜に生じた血斑の年代測定ができるため、さまざまな状態の血液を分析することができるようになるだろう、とZink氏は技術の活用について前向きに語っています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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