「がっかり」した時に増える脳内物質が習慣を断ち切る鍵になるかもしれないとの研究結果

「これまでのやり方ではうまくいかない」と分かっても、なかなかやめられずに同じ行動を繰り返してしまうことがあります。こういった行動について沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究チームがマウスを使った実験を行ったところ、これまでとは別の行動に切り替える能力に神経伝達物質のアセチルコリンが重要な役割を果たしていることが示されました。
Spatially heterogeneous acetylcholine dynamics in the striatum promote behavioral flexibility | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-025-66826-1
「がっかり」することが脳と行動を変える? | 沖縄科学技術大学院大学(OIST)
https://www.oist.jp/ja/news-center/news/2025/12/17/disappointment-alters-brain-chemistry-and-behavior

状況が変わってそれまでの行動ではうまくいかなくなった時に、新しい行動を選択して切り替える能力は「行動の柔軟性」と呼ばれます。OISTの神経生物学研究ユニットを率いるジェフ・ウィッケンス氏によると、状況に応じた行動の切り替えは神経科学的に非常に複雑で、脳の複数の領域が連携して働く必要があるため、詳しい仕組みは十分に解明されていなかったとのこと。
OISTの研究員であるギデオン・サポン氏とウィッケンス氏らの研究チームは、行動の切り替えに関わるとされてきたアセチルコリンに注目し、マウスに仮想迷路を進ませる実験を行いました。
実験で使われた仮想迷路では、マウスは回転する球状の装置の上を走ることで迷路内を移動します。マウスは左右どちらかのルートを選び、報酬のあるルートに進むと食べ物を得られますが、どちらが正解かを示す目印はありません。そのため、マウスは試行錯誤しながら報酬が得られるルートを学ぶ必要があります。
研究チームはマウスが少なくとも1回のセッションで正答率が80%に達するまで学習させた後、報酬が得られるルートを反転させました。これによりマウスは「以前は正解だったルートを選んだのに報酬が得られない」という状況に置かれます。

研究チームはこの課題を進める中で、行動選択や学習に関わる脳領域である線条体の変化を2光子顕微鏡で観察しました。その結果、マウスが報酬が得られるルートを正しく選んだ時、背側線条体ではアセチルコリンの放出が一時的に低下した一方で、報酬ルートの反転後に「以前は正解だったルート」を選んでも報酬が得られないというがっかりする事態が起きると、アセチルコリンの放出が広い範囲で増加しました。
また、アセチルコリンの増加はその後の行動の違いとも結びついており、サポン氏によるとアセチルコリンの放出が大きく増えたマウスほど、報酬が得られなかった後に別の選択へ切り替える確率が高かったとのことです。この結果についてサポン氏は、「習慣を断ち切って新しい選択を可能にするうえで、アセチルコリンが重要であることを示した」と述べています。
さらに、研究チームがマウスのアセチルコリンを放出する神経細胞の働きを抑制したところ、報酬が得られなかった後に別の選択へ切り替える行動は減少し、報酬ルートの変化に適応するまでの試行数も増えたとのこと。正答率80%という基準に達するまでの試行数は神経細胞を抑制していないマウスで平均63回だったのに対し、神経細胞を抑制したマウスでは平均115回だったと研究チームは報告しています。
ただし、背側線条体でアセチルコリンが一様に増えたわけではなく、研究チームが観察範囲を細かな領域に分けて調べると、アセチルコリンが増えた領域が多かった一方で、減少した領域や大きな変化がない領域もあったとのこと。研究チームは「マウスが過去の報酬ルートを完全に忘れず、状況が再び変わった時に備えて記憶を残している可能性がある」と説明しています。
ウィッケンス氏は「パーキンソン病や統合失調症などの神経精神疾患の治療ではアセチルコリンのレベルが変化することが多いため、この神経伝達物質の機能を理解することは多くの神経精神疾患の治療において欠かせない」と述べた上で、依存症や強迫性障害のように習慣を断ち切ることが難しい疾患の理解や、将来的な治療法の開発にもつながる可能性があると今後の展望を語っています。
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