スマホでもできる「めちゃくちゃ簡単な脳トレ」でアルコール依存症を軽減できるという研究結果
自らの意思で飲酒行動をコントロールできなくなるアルコール依存症は、日本だけでも230万人前後の患者がいるとされている精神障害です。そんなアルコール依存症を、「アルコールと健康的な飲み物の画像を見ながらレバーを前後に倒す」という非常にシンプルなトレーニングだけで、軽減できる可能性があるとの研究結果が報告されました。これを応用して、スマートフォンの画面をスワイプするだけでアルコール依存症対策のトレーニングが可能なアプリの開発も進んでいます。
Effect of Cognitive Bias Modification on Early Relapse Among Adults Undergoing Inpatient Alcohol Withdrawal Treatment: A Randomized Clinical Trial | Research, Methods, Statistics | JAMA Psychiatry | JAMA Network
https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2772631
How a simple brain training program could help you stay away from alcohol
https://theconversation.com/how-a-simple-brain-training-program-could-help-you-stay-away-from-alcohol-148431
新型コロナウイルス感染症の影響により、アルコールの売上が急増していると報告されているほか、都市封鎖や人との接触を避ける新しい生活様式などによるつながりの薄れから、専門家からは「アルコール依存症の相談数が増えるのではないか」と懸念する声も上がっています。
オーストラリア・モナッシュ大学で依存症の臨床研究を行っているビクトリア・マニング氏が特に懸念しているのが、飲酒の習慣化です。飲酒が習慣化されると、飲酒を連想させる場所や光景、匂いなどに無意識のうちに気が向いてしまうようになり、その結果すぐに「アルコールが飲みたい」という衝動に駆られるようになるとマニング氏は説明しています。
こうした心理的な働きは「認知バイアス」の一種だとのこと。最近の研究では、ソーシャルメディアを使用すると「35秒に1度アルコール飲料の広告のターゲットにされる」と報告されていることから、認知バイアスによるアルコールの誘惑を回避するのは非常に困難なものになっていると、マニング氏は指摘しています。
そこでマニング氏らの研究チームは、アルコール依存症を治療中の患者向けの「認知バイアス修正(CBM)」というトレーニングを開発し、その効果を確認する研究を行いました。
CBMがどんなトレーニングなのかは、以下のムービーを再生すると一発で分かります。
“SWIPE”: Brain-training app to reduce alcohol cravings and consumption - YouTube
飲酒が習慣になっている人は、帰宅しながら「後でランニングしよう!」と思っていても……
ビールの広告が視界に入った途端に、頭の中からビールが離れなくなってしまいます。
人がアルコールを飲んでいる姿を見たり、グラスを鳴らす音を聞いたりしているうちに、頭の中でビールが占める割合がどんどん大きくなり……
家に着く頃にはランニングがすっかり頭から消えて、ビールに手が伸びてしまいます。これが認知バイアスです。
そこでマニング氏らは、認知バイアスを軽減させるCBMという脳トレを開発しました。
脳トレの内容は至ってシンプル。PCにビールなどのアルコール飲料が表示されたら……
ビールを突っぱねるかのようレバーを奥に倒し、ビールの画像を消します。
逆に、ミネラルウォーターなど健康的な飲み物が表示されたら……
レバーを手前に引きます。
これが、マニング氏らの研究チームが開発した脳トレです。
実際に、マニング氏らがアルコール依存症患者合計300人を対象に「CBMの脳トレを1日当たり15分間、4日連続でやってもらう実験」を行ったところ、脳トレを行ったグループの断酒成功率は約63.8%でした。一方、偽のトレーニングを行ったグループの断酒成功率は約46.8%で、17パーセントポイントもの開きがあるという結果となりました。
このことからマニング氏は、「我々はCBMがアルコール依存症の治療を受けている患者の転帰を最適化させると確信しています。このトレーニングは簡単かつ実施しやすいので費用対効果も高いものです。従って、アルコール依存症で入院している患者の治療の一環として、日常的に実施されるべきだと考えています」と述べました。
さらに研究チームは、PCやレバーを使わなくてもスマートフォンだけで脳トレが可能なアプリ「SWiPE」も開発しています。このアプリは、「スワイプ」と名付けられているとおり、レバーを前後させる代わりに画面を上下にスワイプすることで、CBMの脳トレを行うことができます。
「SWiPE」は記事作成時点では検証段階ですが、初期のテスト結果は有望とのことです。
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