サイエンス

アルコール依存症を「飲んだときの記憶の再定着を防ぐ薬物で治す」という研究

By orcearo

ロンドン大学の研究チームが「ケタミンを用いて記憶の再固定化を阻害すると、アルコール依存症になりかけの人々のアルコール消費量が半減した」と報告しました。

Ketamine can reduce harmful drinking by pharmacologically rewriting drinking memories | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-019-13162-w

One shot of ketamine could reduce problem drinking
https://medicalxpress.com/news/2019-11-shot-ketamine-problem.html

記憶の再固定化とは、2000年にカナダ・マギル大学のカリム・ネーダー氏らが提唱した「すでに保存されている記憶が思い出されるとき、その記憶は短期記憶のような不安定な状態になる。そしてその後、記憶が再度脳に定着する」という一連のプロセスです。ケタミンは日本では麻薬に指定されていますが、麻酔薬として効果が高く、うつ病の症状を軽減する効果などが確認されている薬物です。ケタミンを投与すると不安定な状態になった後の「記憶を再度定着させる」というプロセスが阻害されると考えられています。

研究チームは主にビールを好むという90人の大量飲酒者を被験者として集めました。これらの被験者は平均して週に30パイント(約17リットル)を飲むという、医師による推奨制限量の約5倍ものアルコールを日常的に摂取する人々でした。なお、被験者はいずれもアルコール中毒の診断は受けていませんでした。

実験では、被験者にビールやオレンジジュース、ワインなどのドリンクの写真を見てもらった後に「ビールを飲んだときのうれしさ」を評価してもらいました。研究チームによると、写真を見ることとと評価のために思考することによって「ビールを飲むことに対する報酬系」が刺激されるとのこと。

By dibrova

実験は10日間にわたって行われました。1日目では評価の後、被験者には実際にビールが振る舞われましたが、2日目からはビールは与えられず、「記憶の不安定化」が促されました。そして、ビールを飲むことに関する記憶が不安定な状態の被験者に静脈にケタミンを投与して、記憶の再定着を阻害しました。また、対照群として、記憶を不安定化させた後にケタミンを注射した被験者の他にも、記憶を不安定化させた後に生理食塩水を注射した被験者と、写真を見て評価を行うという一連のタスクを行わなかった被験者も調査しました。

10日間の実験後、記憶を不安定化させた後にケタミンを投与された被験者は、アルコールに対する依存が大幅に低下したことが確認され、9カ月にわたってアルコールの消費量が半減しました。また、写真に関するタスクを行わずにケタミンを投与された被験者も飲酒量が統計的に有意なレベルで減少しましたが、記憶を不安定化させた後にケタミンを投与された被験者の飲酒量や飲酒時の振る舞いの変化は目覚ましかったとのこと。

By NomadSoul1

論文の筆頭著者であるRavi K. Das氏は、本研究がまだ実験的な段階にあり、治療方法を最適化する必要があると述べた後、「過度の飲酒や薬物中毒に対する有用な治療法になり得ることを願っています」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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