サイエンス

マジックマッシュルームはアルコール依存症の治療に役立つ可能性があると示される


マジックマッシュルームと称される一部のキノコは、シロシビンという幻覚作用を引き起こす物質を含んでおり、摂取することで幻覚や神秘体験を得られることが知られています。そんなシロシビンは近年、うつ病頭痛などの治療に有効な可能性があるとして注目されており、新たな研究では「シロシビンがアルコール依存症(アルコール使用障害)の治療に役立つ可能性がある」と示されました。

Percentage of Heavy Drinking Days Following Psilocybin-Assisted Psychotherapy vs Placebo in the Treatment of Adult Patients With Alcohol Use Disorder: A Randomized Clinical Trial | Psychiatry and Behavioral Health | JAMA Psychiatry | JAMA Network
https://doi.org/10.1001/jamapsychiatry.2022.2096

Psychedelic drug therapy may help treat alcoh | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/962598

'Magic mushroom' psychedelic could treat alcohol addiction, trial finds | Live Science
https://www.livescience.com/magic-mushroom-psilocybin-alcohol-use-trial

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、アルコール依存症に伴う過度の飲酒や肝疾患は年間9万5000人のアメリカ人の命を奪っており、膨大な経済的損失や人身事故、認知能力の低下、精神障害などにも関連しているとのこと。アルコール依存症の治療法としては、心理カウンセリングや被験者を監督下においた解毒プログラム、アルコールへの渇望を弱めるための薬物治療などが存在します。

新たに、アメリカのニューヨーク大学グロスマン医学部の研究者が率いるチームは、マジックマッシュルームの有効成分であるシロシビンがアルコール依存症の治療に有効かどうか確かめる臨床試験を行いました。アルコール依存症の治療にサイケデリック薬物を使用するという発想は古くから存在し、1960年代~70年代には幻覚剤のLSDを用いた臨床試験が行われました。初期の臨床試験では、LSDがアルコール消費量を減少させる効果があると確かめられたものの、政治的な圧力によってサイケデリック薬物を用いた治療法の研究はストップさせられてしまったそうです。


臨床試験では25歳~65歳のアルコール依存症患者93人が集められ、そのうち48人がシロシビンを投与する実験群に割り当てられ、残り45人が弱い精神作用のあるジフェンヒドラミンを含むプラセボ(偽薬)を投与する対照群に割り当てられました。これらの参加者は、スクリーニング検査前の12週間で4分の3以上の日は飲酒しており、2分の1以上の日は大量飲酒を行ったとのこと。なお、大量飲酒の定義は男性で1日5杯以上、女性で1日4杯以上の飲酒を指しています。

治療セッションは4週間おきに2回実施され、実験群の被験者は1回目の治療で体重70kgあたり25mgのシロシビンを投与され、2回目の治療では1回目の効果に応じて用量が増やされました。対照群にも偽薬を用いて同様の投薬治療が行われ、両方のグループに対して合計12回の心理療法セッションが提供されました。その後、被験者は大量飲酒した日の割合を報告したほか、報告が正しいことを確認するために髪の毛や爪のサンプルを提供したとのこと。


実験の結果、両方のグループで32週間の試験期間中に飲酒量が減りましたが、その減少量はシロシビンを投与された実験群の方が有意に大きいことが判明。具体的には、大量飲酒する日の割合は対照群で51%減少しましたが、実験群では83%も低下しました。また、1回目の投与から8カ月後の調査では、対照群では24%が断酒に成功していた一方、実験群では48%が断酒に成功したと報告されています。なお、すべての被験者には「3回目のシロシビン投与を受ける機会」が提供され、偽薬を投与された被験者もシロシビンによる治療機会が与えられたそうです。

被験者の1人であるJon Kostas氏は、「私は最初のシロシビン投与の直後に飲酒をやめました。これはすぐに効果を発揮し、私のアルコールに対する渇望はすべて取り除かれました」「これは間違いなく私の人生に影響を与え、命を救ったと言えるでしょう」と述べました。


シロシビンの投与を受けた被験者には頭痛・吐き気・不安感・短期的なトリップといった軽度の副作用が実験群より多く見られましたが、治療セッション外における飲酒中の自殺念慮や激しい嘔吐(おうと)といった重大な有害事象は、すべて対照群で発生したとのこと。ニューヨーク大学ランゴーンサイケデリック医学センターの所長であり、論文の筆頭著者であるMichael Bogenschutz氏は、「シロシビンに関連する重大な安全上の問題は検出されませんでした」と述べましたが、シロシビンは血圧や心拍数の上昇や精神作用があることから、慎重な監督下でのみ服用することが重要だということも指摘しました。

なお、今回の臨床試験は、被験者も医療スタッフも各グループの割り当てを知らない二重盲検試験として行われました。しかし、薬物投与後に現れた影響の違いから、被験者と医療スタッフの90%以上はどの薬が投与されたのか推測できてしまったとのこと。Bogenschutz氏は、適切な偽薬の欠如はサイケデリック薬物の研究を行う際の課題となっていると認めています。

記事作成時点では、シロシビンがどのようなメカニズムでアルコール依存症の治療に役立っているのかは不明です。しかし、脳のセロトニン2A受容体を活性化することで脳ネットワーク間の接続性を高めることが、心理療法セッションの効果を増強させている可能性があるとのこと。

Bogenschutz氏は、シロシビンによるアルコール依存症治療の効果は既存の薬物で報告されたものよりも大きく、治療から数カ月後も効果が持続した点は注目に値すると主張。「これらの効果が将来の試験でも維持されれば、シロシビンはアルコール使用障害の治療において画期的なものになる可能性があります」と述べました。なお、研究チームは2023年にも大規模な臨床試験を予定しており、15のサイトで行われる試験は完了まで2~3年かかるとみられています。

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in サイエンス,   , Posted by log1h_ik

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