サイエンス

アルコールはある特定の記憶を強化することが明らかに


しこたま酒を飲んで記憶をなくし、どうやって家に帰ってきたのかも覚えていない……といった経験をしたことのある人もいるかもしれませんが、一般的な認識とは裏腹に、アルコールにはある特定の記憶を強化する効果があることが明らかになりました。

しかし酒をたくさん飲めばいいかと言えばそういうことでもなく、強化される記憶は自分自身で認識できない潜在意識の部分であり、ある病気と密接な関係があるとのこと。


アルコールによって強化される「記憶」についての詳細は以下から。Can alcohol help the brain remember? Repeated ethanol exposure enhances synaptic plasticity in key brain area, study finds

テキサス大学オースティン校のアルコール依存を研究する施設「Waggoner Center」が、アルコールを摂取することで、脳のある特定の分野の学習能力を向上させて記憶の定着を促すという研究結果を発表しました。

「飲酒が学習能力や記憶を低下させるという話はよく聞くかと思いますが、この一般的な認識はおおよそ正しいものです。しかし、あくまでエタノールの分解によって脳が受ける影響の一端を示したに過ぎません」と、神経生物学者のHitoshi Morikawa氏は語ります。

2011年3月に「The Journal of Neuroscience」誌上で発表された論文の中で、Morikawa氏は「普段、我々が『学習』や『記憶』について語る時、意識として認識できる部分について論じています。アルコールは情報の断片を保持する能力を低下させるため、酔いが回ると一緒に飲んでいた同僚の名前が出てこなくなったり、どうやって帰宅したのか覚えていなかったりします。しかし、我々の潜在意識もまた、認識できる部分と同じように学習・記憶を行っていて、アルコールにはその部分の能力を向上させる効果があるかもしれません」と述べています。

「繰り返しアルコールを摂取することで、脳の重要な部分のシナプス可塑性が高まる」としたMorikawa氏の研究は、酒やドラッグの中毒性は、それらを摂取することで学習能力や記憶に異常をきたしているために引き起こされるとする、近年浮上してきた神経科学界での共通認識をより確かなものとする証拠ともなりそうです。

つまり酒やヘロインコカイン 、あるいはメタンフェタミンといった薬物を摂取すると、潜在意識がそれらをもっと摂取すべきだと学習してしまうのです。しかし、この性質は飲酒や薬物に限定されるものではありません。食べ物や音楽、さらには人間関係や社会情勢などに関しても、こうした潜在意識の学習によってそれらへの欲求が強化されてしまうようです。


「アルコール依存症の患者は、飲酒によって得られる多幸感や安心感を求めて酒にふけっているわけではないということを認識しなくてはなりません。アルコールが引き金となって脳内にドーパミンが放出されて興奮状態に陥り、その時の環境や行動、生理的な要素が絡み合って、『酒を飲む』という行動が誘発されてしまうのです。ドーパミンと聞くと、楽しい気持ちや幸福感を引き起こす物質というイメージがあるかもしれませんが、より正確には『学習伝達物質』と言ったほうがよいかもしれません」と、Morikawa氏は語ります。

ドーパミンはそれらが放出される際に活動するシナプスを増強する働きがあり、その瞬間に行っている飲酒行為は繰り返す価値のあるものだと脳に伝達します。こうして、アルコールを飲むことには繰り返し行う価値があると脳は学習するのです。

そしてさらに、実際に飲酒する場所でのさまざまな行動も同時に学習します。たとえば、バーに行ったら友人と話し、何かつまみを食べ、そして店内にかかっているBGMに耳をかたむけることになりますが、飲酒同様にそれらの行動についてもドーパミンが放出されて潜在意識に「反復するべき行動」として学習されていきます。


こうして、飲酒という行為そのもの以外のさまざまな行動や物が飲酒を思い起こさせるきっかけとなって、ますますアルコール依存が進んでいくことになります。

この研究の長期的な狙いは、依存が起こる基本的な構造を理解して、症状を引き起こすシナプスの働きを弱めて依存症を治療する薬を開発することだとMorikawa氏は話します。また、研究が進めば、依存を引き起こしている潜在意識にすりこまれた記憶を消すこともできるようになるかもしれません。

Morikawa氏は「この研究で行おうとしていることは、突き詰めればマインド・コントロールを行うこととも同義と言える可能性があり、やや恐ろしい面もあります。しかし、現状は多くの患者が酒や薬物にマインド・コントロールを受けている状態なので、我々の研究のゴールはそれを食い止めることにあるのです」ともコメントしています。

この研究が進んで「依存症治療薬」が開発されれば、アルコールや薬物などだけではなく、インターネット中毒などさまざまな対象への依存症についても画期的な治療法となる可能性がありますが、Morikawa氏が指摘しているようにマインド・コントロールの手段として使われないよう、細心の注意が必要となりそうです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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