レム睡眠中の神経活動が起きている時の食事量を調整していることが判明

人間の睡眠は脳が活動している浅い眠りの「レム睡眠」と、脳が休息している深い眠りの「ノンレム睡眠」に分けられます。この2種類の睡眠を周期的に繰り返すことで人間の睡眠は構成されていますが、このうちレム睡眠が「起きている時の食事量」を調整する役割を持っていることが判明しました。

REM sleep stabilizes hypothalamic representation of feeding behavior | PNAS
https://www.pnas.org/content/117/32/19590

News: REM sleep tunes eating behaviour
https://www.unibe.ch/news/media_news/media_relations_e/media_releases/2020/media_releases_2020/rem_sleep_tunes_eating_behaviour/index_eng.html

レム睡眠は身体が弛緩して休息状態にある一方で脳が活動して覚醒状態にあり、急速眼球運動(rapid eye movement、REM)を伴う睡眠のことです。レム睡眠では脳の特定の部位が非常に活発に動いており、人間が夢を見るのもレム睡眠中が多いとされています。一方で、レム睡眠中に脳の一部が活性化することにどのような意味があるのか、詳しい点はわかっていないとのこと。

視床下部の一部である「視床下部外側野」も、レム睡眠中に活性化する部位の一つです。視床下部外側野は食欲や摂食行動の調整、動機付けられた行動や依存症に関連している部位ですが、レム睡眠中に活性化することにどのような意味があるのかはわかっていませんでした。

ベルン大学のAntoine Adamantidis教授らの研究チームは、レム睡眠中の神経活動が起きている時の行動に与える影響を理解したいと考えました。そこでマウスを用いた実験で、レム睡眠中の視床下部外側野の活性化がどのような機能を持っているのかを調査することにしました。

研究チームがレム睡眠中のマウスの視床下部外側野における神経活動パターンを調べたところ、覚醒したマウスが食事をとっている時と同様の活動パターンがみられました。この神経活動パターンの重要性を評価するため、研究チームは光を当てると視床下部外側野における神経活動が遮断されるようにマウスの遺伝子を操作し、実験を行いました。

レム睡眠中のマウスに光を当てて視床下部外側野における神経活動を遮断したところ、覚醒後の食事の量が有意に減少していることが判明。一方、起きている最中のマウスで視床下部外側野における神経活動を遮断しても、摂食行動に変化はみられなかったとのこと。

論文の筆頭著者であるLukas Oesch氏は、「私たちの視床下部外側野における神経活動への介入が、どれほど強力かつ持続的にマウスの摂食行動に影響したかという点に驚きました」とコメント。レム睡眠中の視床下部外側野における神経活動を遮断したマウスでは、1日の遮断によって4日後まで摂食行動の変化が持続したそうです。今回の実験は、レム睡眠中の視床下部外側野における神経活動が哺乳類における摂食行動を調節しており、安定した摂食行動には適切なレム睡眠が重要であることを示唆しています。

今回の実験で神経活動を遮断させられたマウスは、決して睡眠まで阻害されたわけではありません。よって、今回の研究結果は単に睡眠量だけが健康や幸福に必要なのではなく、「睡眠の質」が適切な量の食事をとる上で重要な役割を果たしている可能性を示しています。

Adamantidis教授は、「シフト勤務や深夜にスクリーンを見つめること、あるいは思春期における社会的時差が、睡眠の量だけでなく質も劇的に減少させるため、今回の結果は私たちの社会に関連しています」と指摘。依然として全てのメカニズムや要因が明らかになったわけではありませんが、新たに発見されたレム睡眠中の神経活動と摂食行動の関連が、摂食障害を治療する新しいアプローチの開発につながるかもしれないとAdamantidis教授は述べました。