「なぜ人は不眠症になるのか?」など睡眠に関する研究あれこれ
By Vi Khoa Duong
世界で最も寝ていないのは日本人であることがライフログをもとにしたデータで明らかになっていますが、「眠れない」という視点でいうと、世界中で多くの人々が不眠症などに悩まされています。そんな「睡眠」の分野を研究して不眠症や睡眠障害の改善に努めてきた人たちの研究が、The New Yorkerでまとめられています。
Up All Night - The New Yorker
http://www.newyorker.com/magazine/2013/03/11/up-all-night-2
◆「睡眠研究の父」ナサニエル・クライトマン
「現代の睡眠研究の父親」と言われるナサニエル・クライトマンは、レム睡眠の存在を明らかにした科学者の1人。クライトマン氏が睡眠の研究に携わるまで、睡眠とは「起床・意識不明・死亡」のどの状態でもないという認識で、定義が明確に定められていませんでした。クライトマン氏の初期の実験は、何日も寝ていない被験者に対して物理的・心理的な耐久テストを実施するというものでした。
By Alessandro Pautasso
クライトマン氏自身も被験者として実験に参加し、他の誰よりも長く115時間にわたって起き続けた結果、「人間は睡眠不足の状態が一定以上になると幻覚を見る」ということを発見しました。さらに「1日28時間」で生活できるのかを確かめるため、6週間にわたって地下で生活しましたが、実験は失敗に終わっています。
◆「レム睡眠」の発表と睡眠研究の進歩
1950年代初頭にクライトマン氏はユージン・アゼリンスキーという1人の学生に出会います。アゼリンスキー氏は学位論文のための研究として初期の脳波図を使って睡眠する人を観察していたところ、眠っている人の目が前後に激しく動くポイントがあることに気付きました。
By cesar harada
この研究に興味を持ったクライトマン氏はアゼリンスキー氏と手を組み、1953年にこの現象を「Rapid Eye Movement睡眠(レム睡眠)」として世界に向けて発表しました。レム睡眠とは体が眠ったまま脳が活動している状態のことで、他にも脳がアルファ波を発する「ステージ1」から、デルタ波を発する「ステージ5」まで、睡眠の段階があることなどが判明。
こうして睡眠に関する研究が飛躍的に進んだ結果、多くの研究者たちが「睡眠」の分野に乗りだし、「バンドウイルカは溺れないために脳を半分だけ寝かせる」など、人間以外の動物の睡眠形態も研究が進みました。
睡眠に関する新技術が生まれていく中、2014年現在でアメリカには2000を超える睡眠専門クリニックが存在しており、米国科学アカデミーによると、5000万~7000万のアメリカ人が慢性的不眠障害に悩んでいると推測されています。米国運輸省は睡眠不足状態で運転をする「DWD(Driving While Drowsy)」による事故で、アメリカ国内だけで1年間に死者が1500人以上、負傷者が4万人以上にのぼっていることを発表しています。
また、不眠症に関する書籍「Dreamland: Adventures in the Strange Science of Sleep」の著者であるデイビット・K・ランドール氏は同書の中で、カップルを対象に行った調査の結果を明らかにしています。この調査はカップルを「1つのベッドに2人で眠るグループ」と「別々の部屋で眠るグループ」に分けて、眠りがどうであったのかを調べたもので、1つのベッドで眠ったカップルの方が熟睡できる傾向にあり、平均して30分以上の深い睡眠を得ることができたとのこと。
By Sheldon Wood
◆正しい睡眠サイクルとは?
また、カリフォルニア大学サンタクルーズ校人類学部のマシュー・J・ウルフ=マイヤー准教授は睡眠サイクルについての研究を実施。睡眠研究に携わる医療関係者や患者に4年にわたってインタビューを行い、その内容を「The Slumbering Masses」という本にまとめました。現代人の生活では23時ごろに寝て7時に起床するのが健康的な睡眠サイクルだと考えられていますが、これは間違いであるとマイヤー氏は主張しています。
By half alive - soo zzzz
150年ぐらい前までの人類は、太陽が沈むと4時間~5時間の「1度目の睡眠」を取り、さらに日中に「2度目の睡眠」を取るというサイクルで生活しており、ベンジャミン・フランクリンもこの睡眠サイクルを好んでいたとのこと。マイヤー氏は現代の8時間労働制によって充分な睡眠が取れなくなっていると指摘し、アメリカの資本主義的な一面を非難しています。
◆ヒバリ型とフクロウ型
「Internal Time」の著者ティル・ローンバーグ氏も、マイヤー氏と同様に現代の就業時間を批判しており、人間の体内時計は日没に眠って夜明けに起床する「ヒバリ」型か、夜遅くに眠って朝遅くに起きる「フクロウ」型のどちらかに適合すると論じています。
By Becky EnVérité
朝9時に仕事が始まるのは、ヒバリ型の体内時計を持つ人には適した環境ですが、フクロウ型の人は体内時計よりも2~3時間は早く起床することになってしまいます。このことをローンバーグ氏は「社会的時差ボケ」と呼んでいます。「社会的時差ボケ」により、フクロウ型の人は平日の睡眠不足を取り戻すために週末は寝て過ごすことになりますが、一方でヒバリ型の人は週末の金曜や土曜に遅くまで起きていると、週末に熟睡することができず、ようやく体を休められるのは月曜日からになってしまうとのこと。
10代の若者はフクロウ型が多いことから、ローンバーグ氏は高校の時間割を朝は遅めに開始するようにずらすことで、効率・モチベーション・出席率が上昇すると主張しており、実際にこの時間割を導入したミネソタ州の学校では、SAT(大学進学適性試験)が200ポイント以上も上昇しています。ただし、教師や学校の管理者はこの効果を理解できないため、「全般的に時間割が変更されるのは難しいだろう」とローンバーグ氏は考えています。
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